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STORY コンセプトカーからメタマテリアルまで、積水化学のイノベーションハブへ行ってきた。

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コンセプトカーからメタマテリアルまで、積水化学のイノベーションハブへ行ってきた。

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大阪府、東海道・山陽本線の島本駅を降りて線路沿いに10分程度歩くと、特徴的な建物が目に入ってくる。積水化学高機能プラスチックスカンパニーの水無瀬イノベーションセンター(以下、MIC)だ。5階建てで、1階はオープンイノベーションスペースになっており、事前に申し込めば誰でも入れる。そして入り口すぐのところに、今回の目的である「テクノロジーガレージ」があった。


MIC外観


コンセプトカーも並ぶ、最新の展示・デモ実験エリア


「テクノロジーガレージ」では中央に積水化学の技術プラットフォーム(TPF)を紹介するエリアがある。TPFは、積水化学が創業以来の製品づくりで培ってきたコア技術であり、社会課題を解決するさまざまなプロダクトを生み出すベースとなるものだ。周辺にはそれらプロダクトの展示がある。



積水化学の技術プラットフォーム(TPF)


まず目に付くのがコンセプトカーだろう。展示場の象徴的な存在で、2019年にフランクフルトで開催されたモーターショーで初めて展示をしたものだ。素材メーカーである積水化学が自動車メーカーに対してコンセプトカーを通じて提案をしていくために作られた。


カーボン系の材料は彩りを生み出す技術も採用


実際にコンセプトカーに乗ってみよう。


ヘッドアップディスプレイ(HUD)が映し出される


センターコンソールにはタッチパネルが配されている。このタッチパネルのセンサー部分には、積水ポリマテックの技術が使われている。


タッチパネルで操作をする


車の内装部分で、インパネが光っている部分があった。その部分を抜き出した展示がすぐ横にある。柔らかい手触りの部分が光っているのだが、これは光透過性発泡体材料を使うことで実現しているという。通常の発泡体は光を通すと乱反射してしまうが、工夫をすることできれいに透過させることに成功したのだ。家具やパソコンの筐体(きょうたい)などにも使えそうだ。


発泡体の光透過性発泡体材料を使えば柔らかい部分でも発光させるなどの演出が可能となる


今後、自動運転化が進めば自動車は「運転する」というよりも「滞在する」場所になっていくかもしれない。そうなると、こうした演出で快適さを生み出すことがいっそう求められていきそうだ。


車の材料部分でも、例えば「テクノロジーガレージ」にはアルミニウムと、プラスチックのカメラ筐体(きょうたい)が二つ置かれており、持ち比べられるようになっている。積水化学は1947年に日本で初めてプラスチックの射出成形を行った会社であり、得意分野。実際に持ち比べて見ると同じパーツなのに重さがまったく違う。プラスチックのパーツが圧倒的に軽い。こうした技術を使えば、自動車材料の軽量化も進んでいくだろう。


タッチセンサーに「手触り」を加えてヒューマンエラーを減らす


凹凸したボタンのような展示もあり、近づいてみるとそのボタンには光でアイコンが表示されていた。つまりこれもアナログのボタンではなく、3Dのタッチパネルなのだ。実際に操作をしてみると、ボタンを動かしているようなブルブルというフィードバックが指に伝わってくる。


タッチセンサーを3D形状で実現させる


3D形状にすると通常のタッチパネルなどと異なり、凹凸が生まれる。裏側の配線も凹凸の中で伸ばす必要があるが、普通の配線では切れてしまうこともある。3D形状に合わせて伸び、かつ切れない配線技術も積水化学グループのものだという。


自動車でタッチセンサーが嫌われることはあるが、これは押した感じがしないからだ。運転をしながらボタン操作をすることもあり、その時はボタンを見たりはできない。手探りで操作をしているので、立体感が求められるし、フィードバックも欲しい。これまでのタッチパネルではそれができなかった。しかし、これならボタンのように凹凸もあるので場所を探りやすい。


オープンイノベーションで生まれたインクジェット3Dプリンター


3Dプリンターというと、一般的には積み上げて形を作っていくイメージを持つ人も多いだろう。積水化学の3Dプリンターはインクジェット印刷で厚みのある印刷ができる。家庭用で使われるインクジェット印刷は液体インクを滴にして用紙などの対象物に吹き付ける。吹き付けられた滴は粘度が低いため、ペシャッと対象物に付着し、にじむことで印刷をしていく。


積水化学の3Dプリンターは、同じインクジェット印刷でも滴を飛ばして紫外線ですぐに固める。すぐに固まるのでそこにさらに吹き付ければ立体的な印刷が可能になる。これを繰り返すと壁もできる。


インクジェット3Dプリンターの制作物


インクジェット印刷で3Dプリントができると、通常の3Dプリンターよりも高精細、アスペクト比の高い印刷が可能になるという。このプロダクトは、インクを積水化学が、インクの打ち出しと紫外線(UV)をあてる仕組みをヘッドメーカーが担当し、実現できたという。まさにオープンイノベーションによって生み出されたわけだ。


5G/6G電波を反射可能な透明フレキシブルフィルムの普及促進


その横に置かれていたのが透明なフィルムだ。このフィルムは私たちが目で見える範囲の光の波長は通るが、それ以外の特に高速通信に使用される(いわゆる5G、6Gと呼ばれる)電波は反射させることができるという。


4Gと比べて、5Gや6Gの電波は高指向性(まっすぐ飛んでいく)で、そのため電波の死角が発生する。現在はこれを防ぐため4Gと併用しながら、基地局を増設している状態だ。しかし基地局を作るとコストが膨大にかかる。そこで解決手段として、積水化学は透明の反射フィルムを使い、電波をあちこちに反射させて多くの場所で使えるようにしようとしているのだ。


金属板でも反射はできるが、たくさん置いてしまうと景観が損なわれる可能性がある。透明であれば、景観を気にせず貼ることが可能となる。これを可能にしているのが、フィルムの中に使われている自然界の物質にはない振る舞いをする人工物質=メタマテリアルだという。これにより「電波は反射するが、可視光は通す」という自然界にないプロダクトが生み出された。


これもコンセプトは積水化学が考え、メタマテリアルは海外のスタートアップ企業の力というオープンイノベーションで作られた。


MICに積水化学の知恵と技術を結集、外の人たちも迎え入れオープンイノベーションを実現


「MICの初期構想は2015年からです。私たち積水化学は1947年の創業以来、社会貢献できるイノベーションをいくつも起こしてきました。しかし、2030年に向けて会社の業容=社会課題貢献の量を倍増していく上ではさらにイノベーションを連続して起こし続けなければいけない。今のままではそれは難しいのではないかという課題感がありました」


そう話すのは、積水化学の高機能プラスチックスカンパニー開発研究所開発戦略部イノベーション推進グループの青木京介グループ長だ。同氏はMICの運営に携わっている。


MICの運営に携わる 積水化学工業 高機能プラスチックカンパニー開発研究所開発戦略部イノベーション推進グループ 青木京介グループ長


「積水化学の領域は住宅、インフラやエレクトロニクス、車、メディカルなど幅広い。しかし、横軸の連携はあまりできていなかったのではないかという課題感がありました。さらに開発についても自前主義に陥っていないかなどの声もあがり、それならば開発の仕方も含めて見直していこう。技術を一つの場所に集約して、お客さまにも来ていただき、開発も一緒に行える。いろいろなものが混じり合い一つに統合されていくような世界観を目指そうと生まれたのがMICです」


積水化学は社会課題解決を念頭に置いて事業を推進してきたと青木は話す。「しかし、その社会課題がどんどん大きくなってきた。こうした課題に取り組むにあたって、個社でできることはたかがしれています。たくさんの人たちの知恵を結集し、新しいイノベーションを通じて社会課題を解決していく必要があります」


MICの建物の中は、仕切りがなく自由に歩き回れ、天井も高い。これも「フロアを壁とかで仕切ると、そこでオープンなコミュニケーションが制約されてしまう」という課題を解決するためのデザインだという。


内観、らせん状の通路が見える。


1階部分は冒頭で紹介した「テクノロジーガレージ」のほかに、実験設備を備えた「ラボスタジオ」や打ち合わせスペースを併設しており、来訪者との意見交換やプロトタイピングを促進する。実際に、取材中にも多くの人たちが仕事をしたり会話をしたりしていた。


2階から5階はアイデア創出スペース・オフィス・実験室・カフェテリアで、エレクトロニクスやモビリティ、住インフラ材など同カンパニー各戦略分野の社員間の交流・共創を促すため、らせん状の通路を採用している。


上階にある交流・共創スペース


「まだMICの知名度は低いですが、それでも徐々に日本の企業だけでなく、海外の企業やスタートアップの方々もいらっしゃるようになっています。さらに多くの人たちがここに集い、お互いの知恵を出し合いながらそれを融合させ、社会課題の解決をしていきたい」


オープンイノベーションの重要性が叫ばれている今だからこそ、イノベーションハブとして存在するMICの重要性はますます高まっていくだろう。


MICの運営チームの皆さん


【SEKISUI|Connect with】

https://www.sekisui.co.jp/connect/

⼈々の暮らしの多様な分野で積⽔化学の製品・技術がどのように活かされているのか。

その開発にはどんな想いや物語があり、それは地球に暮らす⼈々や社会とどのようにつながっていくのか。

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