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Marketing 【CEOインタビュー】「テレビから匂いがしたらいいのに」小学生の頃から|香りデジタルストリーミングHorizon、グローバル成長へ意欲

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【CEOインタビュー】「テレビから匂いがしたらいいのに」小学生の頃から|香りデジタルストリーミングHorizon、グローバル成長へ意欲

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Horizonは“香りのデジタル配信”で知られる日本のスタートアップ。香りのデジタル化とブロックチェーン技術を用いた匂いデジタルコンテンツの管理・販売を行っている。

同社はプラットフォーム(アプリ)「Scent Store」(旧:Smell Market)を運営し、香り・匂いをデジタル伝送する世界共通フォーマット「Universal Scent Format」(旧:Digital Smell Format、略:USF)を開発している。Scent Storeは「香りのiTunes版」とする香りのデータストリーミングサービス。ユーザーは香りのレシピをスマホでダウンロードし、USF対応ディフューザーでレシピどおりの香りを楽しむことができる。

Image Credits:

USF対応ディフューザーは匂いの構成情報やカートリッジ番号、噴霧時間などの情報を読み取る。インクジェットプリンターがCMYKのインクカートリッジで多様な色を出力するように、ディフューザーはカートリッジ内の“香りのインク”を正確にブレンドして再生、香りを噴霧するという仕組みだ。

Horizonの独自性は、“匂いビジネス”にNFT技術を組み合わせ、DePIN事業を展開している点にある。Scent Storeで通貨として利用可能な「SML (Smell Token:スメルトークン*)」を発行しているのだ。現在トークン保持者は約7,000人、Scent StoreのID数は2,600ほど。実際にディフューザーが購入できるようになるのは来年の第二四半期で、ディフューザーが普及すればユーザーは大幅に増えていく見込みだという。

Image Credits:Smell Token


*Smellはネガティブな意味になるため改称予定とのこと

J-StarXの審査を突破、米国滞在プログラム参加の10社に

2022年設立のHorizonは現在社員数10人程度、シリーズAまで資金調達を完了済み。今夏に開催されたWeb3イベントでも昨年に引き続きセッション登壇した同社創業者兼CEOのAlex Tsai氏に、今後の事業展開を含めお話を伺った。

台湾の台北生まれ・高雄育ちのAlex氏は、5歳で大阪に移住。日本語がまったくわからない状態から、小学校に入る頃には不自由なく話せるようになっていたとのこと。普通話(いわゆる中国語)は「頑張ればいけるけど…(5歳で止まっているので)」という。

英語に関してはホテル業界時代に業務で身に着けたそうで、そこで培った英語力を発揮してJETROおよび500 Global主催の「J-StarX Silicon Valley Extended Program」の英語面接を突破、米国滞在プログラムに参加する10社に選出された。Alex氏は今月27日からアメリカに滞在予定。同国市場進出に向けて大きな一歩を踏み出すことになる。

「テレビから匂いがしたらいいのに」小学生の頃から

――楽天退社後すぐに起業を始めて、ホテル業界とITソフトウェア開発の2社の後、2022年にHorizonを立ち上げたとのことですが、匂いに対する関心はいつからあったのでしょうか。

Alex:それはもうずっと前から…「なんでテレビから匂いせえへんのやろ」って小学校ぐらいから思ってましたね。それで、ことあるごとに「できないのか」って知り合えた人に質問してたんですよ。それで、印刷業界の人に「匂いってプリントアウトできないんですか」と聞いたら、「できるよ」という返事があって。「こういう技術があって、こうしたら可能だよ」、「できるやん」となってやり始めた。それが2021年の夏過ぎかな。

――起業の翌年2023年の取材動画がHorizon社サイトトップにありますが、これに登場するディフューザーに差せるカートリッジは6種類のみで、「テレビで言ったら白黒レベル」と表現されています。8月末のWebX 2024でも発表されたエレコム社製の球状ディフューザーはカートリッジが12個あるそうですが、「良い匂い」以外も作れるのでしょうか?

Image Credits:Horizon


Alex:“くさい臭い”も作れますよ。作り方は、一つのカートリッジを何パーセント出力するみたいなのをやっていくだけなんですよ。カートリッジAの出力を10%、Bを2%のように設定して「再生」すると、その設定の匂い・臭いが出てくるので。目指す匂いになるまで調整していけばいいのです。

――雨が降り出したときのアスファルトの匂い(ペトリコール)が好きなんですが…

Alex:あれは土っぽい匂いですよね。どうかな…いや、もしかしたらできるかもしれません。というのは、いま調香師さんがディフューザーを使って香りを作っているんですけど、 思いもかけない素材から思いもよらない匂いが作れたりするんですよ。

「なんか青リンゴの匂いできたよ」、「(意図してではなく)偶然できちゃったよ、Alex」と。偶然できたレシピでも、同じ比率で再生すれば同じ匂いになるので再現可能です。

なので、カートリッジが12個になったときもそういうことが起こり得る。「これもしかして、ペトリコールじゃん?」ってなる可能性はあります。ただ、食べ物の香りは多分できないですね。それまた全然違うジャンルなので、カートリッジが足りないんです。

――将来的にはカートリッジがもっと多いディフューザーも出てくるでしょうか。

Alex:エレコムさんだけでなく他のメーカー企業さんが「カートリッジ25個の製品を出します」というのはあり得る話です。ただ、 基本的には当社は音楽で例えるとiTunesで、ディフューザーはスピーカー。 iTunesとスピーカーのメーカーは全然別物で、 ユーザーがどのスピーカーで聴いてもiTunesには関係ないですよね。それと同じなんです。

プラットフォームとしてのプレゼンス

――配信プラットフォーム「Scent Store」に加えて、香りの世界共通フォーマット「Universal Scent Format」をいち早く開発・展開している御社は、香りビジネスの業界において有利な立場では。Horizonがフォーマットを持ってるから、香りビジネス後発の競合もこのフォーマットを使うことになると。

Image Credits:Horizon


Alex:有利とは思います。ただ、僕らがどれだけ強いか、当社のプレゼンス次第ですね。どれだけユーザーを抱えていて、僕らのフォーマットを採用したディフューザーが世の中に何種類あるかによります。「世界の総人口が80億人のところ、当社ディフューザーが50億台出てます」となったら、他社も絶対僕らのフォーマットを使うんですよ。でも、10台しかないとなったら他社は自分のフォーマット作るでしょうから、そこのプレゼンスの問題ですね。

いち早く僕が投資家にプレゼンしたのは、「香りのデジタル配信プレイヤーに最速でならなきゃいけない」ということでした。当社の仮想敵が「香りのデジタル配信、儲かるんじゃないか、やろうか」ってなったときに「自社でやるよりもHorizonのプラットフォームを買った方がいいな」と思ってもらえるようなスピード感で事業をしなきゃいけないですよね。

匂いに限らず事業展開においてトークンは必要不可欠

2000年代に入り、AIと機械学習技術が急速に発展し、複雑な嗅覚情報の処理や分析に応用されるようになったうえに、人間の嗅覚を模倣したセンサー技術 「電子鼻(e-Nose)」の開発も進んだ。これにより、匂い成分の客観的な測定が可能になったことから、嗅覚情報のデジタル化を主とする“匂いビジネス”が徐々に形成され始めた。

Research Nesterの予測では、デジタル香水技術の世界市場は2022年~2030年にかけて、年平均10%程度で成長するという。

嗅覚情報のデジタル化といった匂いに関するビジネスを展開する企業は、いまや多数存在するが、上述の通りNFTやトークンといったWeb3技術と合わせて展開する点がHorizonのユニークな特徴だ。

Image Credits:Scent Store



――匂いビジネスにトークンを組み合わせた企業は珍しいと思いますが、やりたいこととしてはどちらが先だったんでしょう。

Alex:順番でいうと同時な気がします。僕がトークンをどう位置づけているかというと、結局は「ユーザーを獲得するためのツール」。トークンでユーザーを獲得して、継続的に自社サービスを使ってもらい、ロイヤル化するためのツールだと思ってるんですね。何であれ事業をするってなったら、そういうマーケティングツールは絶対必要じゃないですか。

仕組みは楽天ポイントと同じなんですよ。楽天市場でお客さんにもっと買い物してもらうために楽天ポイントがありますよね。新規会員を獲得するために、たとえば「新規登録で○○ポイント付与」「楽天モバイル契約で○○ポイント付与」のように使われる。NFTトークンも同じように、“ポイント”として使われるべきだという考えがもともとあったので、今回この事業を伸ばしていこうと考えたときに本来あるべき使い方をしようと思って実行しました。

あともう一つは、ディフューザーがリリースされるまでに確実に時間がかかること。ディフューザーの開発に1年半もかかったんですよ。そうなると、「香りをデジタル化して配信します」と事業を発表しても、実際に製品が世に出るまで何もできないことになってしまう。それでは良くないから、まずはトークンを発行して興味を持つ人たちをユーザー化しようと。

なので、事業の設計・展開において、トークンが必要不可欠なツールだったんです。ディフューザーがない段階で、NFTとトークンという技術を使っていなかったら、今のコミュニティは見てくれないし、事業としてスタートダッシュを切れなくなってしまうんです。

可能性は未知数、匂いのデジタル配信はどこまで拡大するか

トークンと組み合わせたDePIN事業者のHorizonだが、実態がある匂いビジネスについては今後、タレント・音楽・ゲーム・アニメ、映像コンテンツなどエンタメ全般だけでなく、 広告やインテリア、医療など、 幅広いジャンルでの提携を見込んでいる。Scent Storeをローンチし、子会社を設立したインドネシアでは、ラフレシアの匂いをデジタルで体験できるといった学生の学習体験向上の可能性を提案している。


――教育分野を含め、匂いビジネス単体でもほぼすべての業界・分野での展開が可能と思いますが、これから特に注力したいところはありますか?

Alex:最初はエンタメの分野でスタートしていくんですけど、このインフラがどういう使われ方をするか、僕は正直分からないんですよ。 僕の仕事は当社のインフラを整備することで、その中で「香りのiTunes版」にあたるサービスを作りました。このインフラが活用されると、将来的にはまったく異なるサービスが生まれる可能性があるんですよ。

たとえばゲームと連動して、「ゲーム内で銃を発射すると火薬の匂いがする」とか。あとは広告ですね。Uber Eatsのメニュー画面を見ていて、マクドナルドが表示されたらハンバーガーやポテトの匂いがするとか。あるいは、無料で配られるディフューザーが登場して、機械そのものは無料なんだけど毎日午前11時になるとマクドナルドの匂いがする。そのディフューザーのスポンサーはマクドナルドさんでした、みたいなことがあり得るんです。

それともう一つ、社会貢献の形としてはやっぱり医療分野に使いたいと思っています。ここまではまだ、僕がまだ想像できるところ。でもそこから先は、いろんなプレイヤーが当社プラットフォームを使って事業していく範囲なので、何が登場してくるかわからないんですよね。

ただ、「匂いをデジタルデータ化して一般の人が扱えるようにする」ことで、おそらく我々人類にとってより良い世界を作れるはずなので、自分はそれをやってるというイメージがありますね。インターネットが出てきた当時は、「これが何の役に立つの?」みたいな感じだったと思うんですが、今は誰もが使い方を理解して、多様なサービスを展開している。多分、最初にインターネットを生み出した人たちは、今こんな世界になっているとは想像していなかったんじゃないでしょうか。それとちょっと似てると思ってるんです。

ディフューザーが普及してたくさんの人がScent Storeを使ってみて、「香りってこうやってデータでやり取りしてダウンロードできるんだ」ということが一旦分かれば、どんどん進化していくと思います。

情報発信強化で「香りのメディア」を立ち上げ予定

Horizonは、CEO自らYouTubeアカウントを設け、積極的に情報発信を展開中だ。


――2026年のNASDAQ上場を目指すと以前の取材記事で読んだのですが、今後のロードマップとしては英語ローカライズや英語での情報発信でしょうか?

Alex:いえ、NASDAQ上場は、2027年の第4四半期を目指しています。新しいアプリのUIが出るんですけど、 それまでには英語化対応を済ませ、2026年第4四半期にはアメリカで事業を展開します。そこで売上と実績をちゃんと作り、日本とインドネシアではローンチ済みなのでこの実績をもって上場審査に出して、2027年の第4四半期に上場させるのが今描いているストーリーですね。

情報発信については、「Proust(プルースト)」という香りのウェブメディアを10月中に立ち上げる予定です。「プルースト効果」のプルーストです(プルースト効果とは、ある匂いを嗅いだときにそれに関連する過去の記憶や感情が喚起される現象のこと)。 いわゆる「オシャレ」な人たちをアサインして、香りについて話してもらうという企画です。

――オシャレな人というとインフルエンサーなど?

Alex:まだ言えないんですが…オシャレな人たちが、「この人と対談できるなら喜んでやりたい」みたいに憧れるオシャレのカリスマ的な人がいますよね。アパレルやモデル、いろんな業界で「レジェンド」と言われるような人。このレジェンドと一緒にメディアを立ち上げます。その人と対談したい人たちが大勢いるので、毎週ゲストを招く予定です。


(取材/文・Techable編集部)

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