近年、マグネシウム生産のおよそ9割を担っているとされているのが中国だ。中国ではマグネシウムが陸上で採掘され、熱エネルギーを大量に消費するプロセスで採掘・精製されている。CO2排出量の多さに加え、マグネシウムの高コスト化、供給の不確実性など、世界の製造業者の間ではさまざまな懸念が高まっている状況である。
こうしたなか、米国のTidal Metalsは電気を用いて海水からマグネシウムを取り出すというカーボンニュートラルな生産技術を開発している。
環境に優しい抽出方法を開発
マグネシウムの製錬方法には「マグネシウム鉱石を用いた熱分解法」「海水から得た塩化マグネシウムを電気分解する方法」などがある。Tidal Metalsが採用しているのは後者にあたる。Tidal Metalsによると、海水1㎥あたり1.3kgのマグネシウムが含まれているという。これを効率良く取り出すことができれば、膨大なマグネシウムの生産が期待されるが、従来行われていた化学抽出では環境に負荷を与えてしまうデメリットをもつ。
Tidal Metalsの特許技術は濾過、結晶化、脱水などの効率的な物理的プロセスを用いて海水中のマグネシウム塩を濃縮・抽出し、その後、電気分解でマグネシウム塩を金属に変換するというもの。この方法で使用されるのは電力と海水のみ。廃棄物は発生せず、化学薬品を海に垂れ流すようなこともない。
これまでにも海水からマグネシウムを抽出しようとした企業はあったものの、安全かつ経済的に抽出できる技術はなかったという指摘もある(参考)。Tidal Metalsの技術は、低コストで経済的である点が評価される。
シードラウンドで850万ドルを調達
9月19日、Tidal Metalsはシード投資ラウンドで850万ドルを獲得したことを発表(プレスリリース)。このラウンドはDCVCが主導したもので、First Spark VenturesとBidra Innovation Venturesが参加した。Tidal Metalsは調達した資金を、海水からマグネシウムを抽出する同社の技術を実証するための商業用パイロットプラントの開発と建設にあてる予定だ。
DCVCのオペレーティングパートナーであるEarl Jones氏は「マグネシウムは、航空宇宙・防衛、輸送・モビリティソリューションの軽量化にとって重要な金属だ」としたうえで、Tidal Metalsによる低コストでカーボンニュートラルなマグネシウム金属の供給は、この業界を根本的に変えることができるとコメント。
さらに「Tidal Metalsは数十億ドル規模の産業を脱炭素化させるだけでなく、マグネシウム合金の技術革新やマグネシウム金属の新たな用途による成長も促進するだろう」と語った。
引用・参考:Tidal Metals
(文・澤田 真一)