「イオンウォレット」は、2016年にイオンカード公式アプリとしてサービスを開始して以来、累計で1,700万以上ダウンロードされており、ユーザーと金融をもっと近くするアプリにすべく、2023年9月に新たにリニューアルを実施しました。フォーデジットがサービスデザインからUI/UXデザインまで一気通貫で支援しています。
これまでに数々の国際的なデザインアワードを受賞している「イオンウォレット」。今回は、イタリアで行われたA' デザインアワード授賞式出席に際し、イオンフィナンシャルサービスとフォーデジットの執行役員が、リニューアルへ向けた取り組みや今後の展望について対談を行いました。
光石 博文 - Hirofumi Mitsuishi
イオンフィナンシャルサービス株式会社
執行役員
システム本部 本部長
末成 武大- Takehiro Suenari
株式会社フォーデジット
取締役COO
抜本的な変革への挑戦
末成
イオンウォレットが、従来の形を大きく刷新し、2023年9月にリニューアルされました。世界三大デザイン賞と言われる iF DESIGN AWARDやInternation Design Exellence Awards(IDEA)、他にもイタリアのA’ Design Awardなどを受賞することができましたね。
光石
こうして一定の評価をいただけたことは嬉しく思います。とにかくそれまでのものを「抜本的に変える」ことをしたかった。
末成
最初に光石さんから「今までに見たことのないようなものを作るぞ」と言われたのを今でも覚えています。光石さんとしては、どんな想いでこのプロジェクトを立ち上げたのでしょうか?
光石
私たちはもともとクレジットカードやコード決済などの決済チャネル、銀行サービス、保険サービスなどを提供していますが、主なお客さまは主婦層や中高年層でした。若年層にはあまり使われていないのが現状です。世の中でのイオンのイメージも、生活感が強く、ファミリー層向けという印象があると思います。その側面は大切にしつつも、若年層にも受け入れられるような、新しいデザインに一新することを目指しました。アプリそのものが一人歩きして、印象に残る「あっと驚く世界観」にチャレンジしたかった。それによって、これまでアプローチできなかった若年層や、イオンを利用していても金融サービスを意識していない層にアプローチしたいと考えました。
末成
様々な業界でお仕事をさせていただいていますが、クライアントから「全く新しいものを作りたい」と言われることはあまり多くありません。特に、堅く真面目なイメージのある金融業界ではなおさらです。言葉としてはそういう要望があったとしても、実際にはそこまで振り切れないこともよくあります。最初はどこまで振り切るべきか様子を見ていた部分もありましたが、光石さんに「いいから持ってこい!」と言われたのを覚えています(笑)
光石
「絶対に変えるぞ」という強い覚悟で進めようとしてたから、それに共感してスピード感を持ってついてきてくれる人たちと一緒にやりたかったんです。
末成
僕たちもその意思に真正面から向き合って、全力で応えたいと思いました。僕たちなりにペイメントアプリの次の姿をどう描くか、必死に考えました。
自分らしく、使いたいものを選んでもらう
末成
まず、現行の決済アプリがどのように使われているかを調べるため、イオン商圏に住んでいる一般ユーザー1,300人にアンケート調査を実施しました。その結果、昨今の決済アプリには多くの機能が備わっているものの、実際に使われているのはほんの一部の機能に限られていることが分かりました。このことから、使わない機能やサービスのレコメンドが常に表示されることで、ユーザーにとって有益な情報が埋もれてしまっているのではないかと考えました。
光石
たしかに、日常でよく使う機能って限られていますよね。支払いとチャージ、あとは履歴を見るくらい。クレジットカードに関しては請求金額や利用明細くらいで十分です。普段の利用で多くの機能を求めているわけではないんですよね。そこで今回導き出したのは、多機能を一律に並べるのではなく、「自分が使いたいものを選ぶ」というコンセプトです。アプリを開いてサッと自分のやりたいことができる、まず第一に実現したかったことはこれです。
末成
同時に、ビジネス目線で伝えたい情報やプロモーションもありますよね。それらはユーザーにとって必要なタイミングで適切な量だけ伝えるようにすることで、「スムーズに目的を達成でき、必要なときに必要なものが得られる」体験を目指しました。
光石
今のデザインの原型を初めて見たときは、率直にワクワクしました。それまでの常識を覆すようなインパクトがあった。勢いですぐに社長に持っていって話しましたね。あとは「自分らしく」というコンセプトも大事にしました。イメージはお財布でしたよね。背景デザインを全面的にカスタマイズできるようにしたことで、「自分のもの」として捉えてもらえるよう狙いました。そもそもこのアプリの名前は「イオンウォレット」。計らずも体が名に追いつきました(笑)。
末成
一部をカスタマイズできるアプリはあっても、画面全面をカスタマイズできるものはあまり見たことがない。イギリスの金融サービスRevolutも、イオンウォレットがリニューアルした少しあとにホーム画面のカスタム機能を追加したのを見て、そうした流れが広がっているのかなと思いました。
光石
これまでは「まあ使えればいいや」という期待値だった金融アプリに、少しでも楽しさや自分事化できるエッセンスを加えることで、ユーザーにとって全く新しい存在になっていくことを目指しています。
末成
ちなみに、リサーチからコンセプトやデザインの原案作成まで、1ヶ月弱くらいで作っています。相当なスピード感で進めましたよね。
光石
このスピード感で一緒にギュッとやれたのは良かった。
ユーザー反応から導いたデザインの受容性と変化の道筋
末成
プロジェクト初期にはZ世代向けにアンケートを行い、「アプリのデザインを気にするか?」という質問に対して、30%弱のユーザーが気にするという結果が得られました。さらに、デザインを意識したことがある層を含めると約60%に上ります。アプリのデザインなんて気にしないと言われたりもしますが、実際には一定の関心を持つ層が存在することが分かりました。コンセプト立案後には受容性調査のため、一般ユーザーに対面でプロトタイプを触ってもらい、シンプルなコンセプトに対して9人中8人が共感できるという反応を得ました。
光石
Z世代の反応は「雰囲気が好き」「ワクワクする」という情緒的な意見が多く見られましたが、30代以上の層では「シンプルで明快」というコメントが目立った。この反応は我々が仮説として狙っていた通りの印象でした。
末成
壁紙の好みについても、バリエーションを持たせたアンケートを1,300人を対象に実施しました。全体的にはシンプルで抽象的なグラフィックが好まれる傾向があります。
光石
やはり、WindowOSの影響なのか...草原の人気が目立ちますね(笑)。
光石
経営会議でコンセプトが承認された後は、全社員を対象にアンケートを実施し、424名の回答がありました。この年からアジャイルチームを組成していたので、全社員のスマホで新しいデザインを早期に見られるよう準備し、社内の反応を見ました。全体的にはポジティブな意見が多く、視認性や初見の人には少しわかりにくいという意見もありましたが、プロジェクトチームでも既知の課題だったので、大きな方向性には問題なく進められました。
末成
ただ、初めてアプリを使う人にとって構造が分かりにくいという課題は、リリース後のフィードバックでも引き続き指摘されています。ヘルプ機能を追加したり、コーチマークの表示方法を試行錯誤するなど、改善が必要な点として認識しています。
光石
ユーザビリティの課題には早急に対応する必要があります。リリース後も継続的にUI改善やテストを実施していますが、コンセプトが誰にでも理解され、使いやすい形に磨きあげる必要がありますね。
アイデアと制約の狭間で模索したデザインの可能性
末成
画面詳細化の過程でも、さまざまなデザイン検証をしています。一般的なUIバリエーションを試しながら、日常的に目にする画面には、より印象的なギミックやデザインを導入する方向性が合うよねと話していました。アイドルカードの壁紙のカスタマイズなども印象に残っていますね。
光石
あとはインタラクションですね。ぶっ飛んだものも含めていろいろ作りましたよね。正直やりすぎかなと思うものもありましたが(笑)。
末成
今回のデザインはシンプルでスマートな方向性なので、アニメーションや動きを加えることで楽しさや使いやすさを高めることができるのではないかと考えました。
光石
僕が常々「普通のものはつくらないでくれ」と言っていたこともあり、この頃にはそのプロジェクトポリシーが浸透して、いろいろなアイデアが出ていたと思います。
末成
ちょっとやりすぎかな?ぶっ飛んでるかな?くらいのものを出した上で、「ここまで行ってみるか」「このくらいがいいか」というポイントを見極めながら進めましたね。とりあえずフルスイングでアイデアを出して、その後議論する。開発工数の制約で初期段階では実現に至らなかったアイデアもありますが、今後随時実現していけることを期待しています。
光石
一般的な企業サービスでは、ここまで個性的なデザインはそもそも検討されないことが多いかもしれませんが、今回はその壁も取っ払った。そのくらい「変化」を印象付けたかったのはあります。
国際的なデザインアワードの受賞とこれからの展望
末成
さて、今回国際的なデザインアワードを3つも受賞できたわけですが、受賞のポイントを振り返ってみましょう。iF DESIGN AWARDでは、評価観点として「Idea」「Form」「Function」「Differentiation」「Impact」 がありますが、そのうち「Idea」「Impact」の項目で高評価を得ています。どう思われますか?
光石
iFの評価基準の説明を見ると「Idea」は デザインの目的や意義を、「Impact」は 社会への影響力を指しますが、イオングループが提供する金融サービスという、多くの人々の日常生活に接点を持つサービスをデザインした点が評価されたのだと思います。特に、多様な顧客のニーズやリテラシーに合わせたデザインを創出したことが、評価に繋がったのではないでしょうか。
末成
そうですね。アワード応募の際には、イオングループの日本やアジアでの社会的な立ち位置や役割の説明も盛り込みました。あとは、リリース後にユーザーが実際に好みの壁紙を設定している様子を見るのは嬉しい一方で、「もっと普通でもいい」「そこまで求めていない」という声がユーザビリティテストやSNSで挙がることもありました。そういう反応は予期していましたが、我々は新しいところに行くためにやっているので、こうした反響も含めて価値があると感じています。特に、誰もが知っているイオングループがこういう挑戦をしていることに意義があると思います。
光石
たしかに、まだまだこれからではありますが、狙っていた若年層のユーザー数は増え始めています。ただ、プロモーションや拡散の施策はまだ十分とは言えず、今後の強化ポイントですね。決済方法についても、今はコード決済のみですが、将来的には最新技術を活用した決済方法を導入し、より多様なニーズに応えられるサービスに進化させていきたいと考えています。
末成
今回、アプリの体験やデザインの他にも、コンセプトムービーの作成やデザインアワードへの応募、プレゼン資料の準備、WEB開発など、トータルで支援させていただきました。最近では、獲得・拡散施策やファイナンス関連のUIアイデアなども議論しています。フォーデジットとしては、アウトプットが僕たちのコア領域ですが、最終的にはビジネス成果に帰結していなければならない。そのためにできることはまだまだ多くありますし、最近だと決済の海外展開の話も進み始めていますよね。
光石
そうですね。イオングループはアジア各国にモールや金融ビジネスの拠点があり、各国で新たなビジネスの話も進んでいます。その分、本当に様々なチャンスが広がっています。
末成
我々も、タイやベトナム、マレーシアなど、イオンフィナンシャルさんの拠点がある国にブランチを持っていますので、国内はもちろん、海外での活動もぜひサポートさせてください。
光石
フォーデジットの価値は、自分たちで思っているよりも高いと思います。もっと自分たちで動いた方がいいんじゃないかな。今はSIerやコンサルの下で「いちデザインロール」と見られることが多いかもしれないけど、もったいない。僕も一緒に動いてみて、「あ、こんなこともできるんだ。こんな動きもするんだ」みたいな、ユーティリティさや柔軟性を強く感じるようになった。
末成
ありがとうございます。僕らは常に「サービスの成功のためにできることは何でもやる」というスタンスです。これからも引き続きよろしくお願いします。今日はありがとうございました。
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