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Tech 【Interview】世界も注目!曲がる太陽光電池の開発秘話に迫る

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【Interview】世界も注目!曲がる太陽光電池の開発秘話に迫る

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東北大学大学院工学研究科電子工学専攻の研究チームが、透明で曲がる太陽電池を開発した。曲がる太陽電池は既に実現されていたが、曲がることに加え透明な太陽電池の開発という点においては、前例のない大きな進歩と遂げた研究ということで世界からも注目を集めている。今回は東北大学の研究チームの加藤俊顕准教授にお話を伺った。

 

・透明かつ曲がる太陽電池の開発


Q1:今回の研究では、高い透明性が特徴の半導体材料TMDを用いて技術開発が実現し、“曲がる太陽電池”の開発成功に至ったとのことですが、構造の特徴や、開発のポイントについてお聞かせいただけますか?
まず今回開発した太陽電池の特長は “透明でかつ曲がる”ということです。 “曲がる”だけの太陽電池は既に有機薄膜で実現されています。今回の研究では、“透明でかつ曲がる太陽光電池”という点がポイントとなります。今回の研究に用いた遷移金属ダイカルコゲナイド(Transition metal dichalcogenide, TMD)は、遷移金属(Mo, W等)がカルコゲン原子(S, Se等)でサンドイッチされた基本構造が二次元的に連なった構造を持つ材料です。

シート状の層が積み重なる多層の層状物質として古くから研究されてきた材料ですが、厚さが1nm(10億分の1メートル)程度の極めて薄い単層シートの物性が明らかになったのは、 2011年頃からとかなり新しい材料です。単層TMDシートは、可視光を90%以上透過する透明なシートです。さらに、 同様の二次元シートとして知られるグラフェン(炭素からできた二次元シート)とは違い、バンドギャップを持つ半導体特性を示します(グラフェンは金属特性)。この半導体特性を持つ材料はトランジスタや太陽電池等様々な電子機器に使えるため、グラフェンとは異なる用途でTMDを使った産業応用が大きな注目を集めています。 我々はTMDの最大の特長である透明で柔軟な半導体という性質に着目し、透明で曲がる太陽電池開発を開始しました。

Q2:デバイスの大面積化も今回の開発の大きな特徴の一つとのことですが、難しいといわれていた大面積化が実現に至ったポイントはどんな点にあると思われますか?またこの開発がもたらすメリットはなんですか?
既にTMDを使った太陽電池作製に関してはいくつか報告がありましたが、それらは従来の太陽電池同様シリコン等の不透明基板上に作製したものであり、またマイクロメートルオーダーの極小さなTMD片を使用して太陽光発電が可能であることを実証したものに留まっていました。さらにそれらは、 局所的に不純物をドーピングしたり、異曲性の電界をかけたりと非常に複雑なデバイス構造を必要とした発電形態でしたので、実用化の観点からは大きな問題がありました。今回我々は、容易に大規模化が可能な発電形態を念頭におき開発を進めました。 その中で、金属と半導体材料が接合した際に、界面に自発的に形成されるショットキー電位に着目しました。このショットキー電位を使った太陽電池はショットキー型太陽電池として古くから研究されていましたが、透明な太陽電池の開発に関してはこれまで用いられている例はほとんどありませんでした。

当然TMDを使ったショットキー型太陽電池は全く研究されていませんでした。 そこで、ショットキー電位形成に必須な電極種類とTMDとの組み合わせを系統的に探索しました。 TMDの両端に配置する電極の一方を発電用に、 他方は電流を取り出す捕集電極用にそれぞれ使用する目的で最適の金属の組合せを複数試した結果、両電極の仕事関数差に比例して発電効率が向上することを実験的に明らかにしました。 さらに、 電極間の距離やTMDの配置方法を最適化した結果、TMD太陽電池では世界最高の発電効率 (0.7%)を実現することに成功しました。また、この手法は、TMDに電極を接触させるだけという非常に簡便な手法であるため、透明フレキシブルな大面積 (センチメートルオーダー)基板上へのデバイス作製が可能です。そこで実際にTMDと最適電極を配置したデバイスを作成した結果、透明フレキシブル状態を維持したまま太陽光により発電することを実証しました。

・透明で曲がる太陽電池が実用される社会


Q3:“ 透明で曲がる”太陽電池は、実社会では主にどのような分野での実用が期待されていますか?
現在の太陽電池は不透明で硬いシリコンが主流です。発電効率自体を追求する場合、いかに光を高効率で吸収するかというところが大前提になりますので、その意味で透明とは対照的です。つまり、透明な太陽電池はそもそも高い発電効率を目指した太陽電池ではないことをご理解下さい。その中で、 透明である必要性ですが、これはかなりの広がりがあると期待しています。つまり今現在太陽電池が不透明で硬いために設置したくても太陽電池を設置できない空間が日常生活には多数存在します。 例えばビルの窓ガラスや車のフロントガラス、携帯電話やPCの画面等が最たる例です。ここに太陽電池を組み込むことで今まで使えなかったエネルギーを環境から取り出して有効活用する点で大きな期待があります。使いたい場所で使いたい電力を創り出すコンセプトは、発電所で作ったエネルギーを送電する際のロスがないことからも、非常に有効な手段と考えます。

Q4:人体の皮膚などにも太陽電池が設置できるようになるという可能性もあるとのことですが、人体の皮膚に設置された場合、具体的にはどのように活用されていくとお考えでしょうか?
インターネットオブシングス(IoT)として最近広く知られている通り、ものをネットにつなぐ社会が既に広まりつつあります。 これはウェアラブルデバイスというデバイス自体を身に着ける社会ともリンクしています。デバイスを身に着けて動作させる際に最大の問題は電力をどこから供給するかという問題です。そこで期待できるのが、デバイス自体で発電し電力を確保するというアプローチです。ここで、 皮膚にあらかじめ太陽電池を配置しておくことで、ウェアラブルデバイス駆動用の電力を賄える可能性が十分あると考えています。

Q5:今回の開発をどのように発展させていかれるのか、今後の計画・研究予定についてお聞かせください。
少なくとも、現時点では透明で曲がる太陽電池がいたる所にあふれている社会ではありません。現時点ではまだいくつか課題がありますが、今回の研究成果を発展させて、近い将来その様な社会の実現に貢献できればと考えています。 


曲がる透明な太陽電池が様々な場所で活用されれば、私たちの暮らしは大きく変化することだろう。今後の研究にも大きな期待が集まっている。

東北大学

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