『WIRED』日本版の元編集長でありコンテンツメーカー「黒鳥社」を立ち上げた若林恵がソニーと仕掛ける新プロジェクト、「trialog」(トライアログ)が、第二回となるイベント、trialog vol.2「ヴィジョナリー・ミレニアルズ」を、2018年7月28日(土)、天王洲アイルのコミュニケーションスペース「amana square」にて開催しました。
「trialog」は、「What is the future you really want?(本当に欲しい未来はなんだ?)」を合言葉に、毎回設定する1つのテーマに対して、様々な領域で活躍するクリエイター、エンジニアやアーティストなどの三者が、対話を通じ異なる立場から意見を交わすトークイベントを実施しています。
第二回の開催となった今回のtrialog vol.2では、「ヴィジョナリー・ミレニアルズ」をテーマに、20~30代の通称「ミレニアル世代」のフォトグラファーやパブリッシャーを迎え、トークを行いました。台風12号が日本列島を襲い、あいにくの荒天となったイベント当日は、急きょ一般客の招待を取りやめ、会場をクローズ。「trialog」公式Twitterアカウントにてライブ配信のみ行うという異例の開催となりました。一方で、ライブ配信は最大約7200人もが同時視聴し、計3時間にも及ぶイベントの累計視聴者数は約450000人にものぼり、足をお運びいただけなかった皆様から、非常に高い関心を集めました。
「trialog」は、今後もテクノロジーとクリエイターが出会う、次世代の価値創造の機会となるプラットフォームとして定期的に展開していきます。これからの活動にご期待ください。
○About trialog
■trialog Twitterアカウント:
@trialog_project (https://twitter.com/trialog_project)
■trialog WEBサイト:
https://trialog-project.com/
■trialog コンセプトムービー:
https://www.youtube.com/watch?v=QjJW5ECNQtw
SESSION1 【なぜ、いま、彼らはカメラを手にするのか?|Why Do They Shoot the World?】
SESSION1では、ロシア生まれの写真家のマリア・グルズデヴァ氏と、日本の若き写真家の小林健太氏、また、『IMA』エディトリアルディレクターとしてIMA galleryの運営や、IMA photobooksのレーベルでの写真集刊行を行う太田睦子氏の3名が登壇。注目の2名の写真家が、自らの写真と表現、そしてミレニアルズ世代とは何か、またデジタル社会におけるアナログへの回帰など、議論を深めた。
まずマリア・グルズデヴァ氏は、伝統、歴史、日常が合いまみえる写真を多くフィルムに収めた自らのアートブックを紹介し、ロシアの国境沿いの風景や人々を撮影した写真から、「人間と環境の関係性」について語った。マリア氏いわく、地図という一枚の紙の上、あるいは人間が作り出した概念の上でしか語られることのないものこそ「国境」であるが、本当に大切なのは、移民や環境問題をはじめとする問題に直面するなかで、人とその人がいる環境との〈関係性〉をみることだという。伝統や歴史、それらすべてを見て理解することで、何かの解決が見いだせると思っている、と持論を展開した。
一方小林健太氏は、テクノロジーが進んだ現代や未来に対して、〈テクノロジーとの対話〉がモチベーションとし、カメラというテクノロジーを通して世界にアクションしている、という。さらに、イメージ自体の背景にある〈運動〉にフォーカスしている、と自らの表現の特性を紹介。人間と環境の関係性などの概念的なことを表現するマリア氏と、テクノロジーのその先にある人間性を表現する小林氏の対比と調和に、太田氏もミレニアル世代ならではの感性を読み取っていた。
その「ミレニアル世代」について小林氏は、前提として「デジタルネイティブ」とだとした上で、〈飽きる〉というのがこの世代の特徴かもしれないと推測した。またその様を、「テクノロジーとダンスを踊っている感じ」と表した彼からは、年齢には似つかわしくない幅の広さが感じられた。
マリア氏は、「わたしが生まれたロシアは、激変の時期にあった。だから、たしかにデジタルテクノロジーの進化に直面してきた世代だけど、それだけでなく、社会が大きく変化した時代に生まれ育ってきた。」と自らの生い立ちと社会に絡めて「世代」を考察した。そしてその社会に対して、〈観察したい〉との欲望をもったことが写真へ興味を抱いた理由だとも語り、また写真を撮ることで社会の中での自分を〈昇華〉できたのだと思う、と世代、社会、そして写真を羅列し、分析した。
SESSION2 【来たるべきクリエイティブの肌触り|New Forms and Textures of The Next Creative】
SESSION2には、ISSEY MIYAKEとのコラボで知られる写真家の平澤賢治氏、国内外企業のブランディング、広告キャンペーンなどを手掛けるエージェンシー「SIMONE INC.」の代表・クリエイティブディレクターのムラカミカイエ氏、そして過去にウォークマン(R)、ブラビアなどの多くのブランドロゴのデザインに従事してきた、ソニー株式会社クリエイティブセンターのチーフアートディレクター、福原寛重が登場。クリエイティブや写真、アートの価値や役割、そしてその変化などについても触れ、広く深い議論となった。
サーモグラフィーカメラを用いた写真表現を行う平澤氏は、これまでに撮影した生身の人間とマダム・タッソーで撮影した蝋人形など、いくつかの作品を紹介。それぞれが大きく異なる「温度」を持つと一目でわかる表現については、「その人の存在、命を記録するメディアとしてとてもふさわしい」と、自らの考えを述べた。
また、スマートフォンによりカメラが普及したことで、写真の社会的な位置は変わってきており、写真1枚のもつ価値が大きく変容していると思う、とムラカミ氏は語った。その中で、アート写真はどういう役割を果たしていくのか? と問いかけ、かつてはメディアが担うべきものだった〈批評性〉についても言及し、議論を深堀っていた。加えて、「写真におけるクオリティ」についても登壇者に問いかけ、「ぼくが扱うことの多い商業写真の場合、それは〈欲望をかき立てる〉ことだと思っている」との持論を展開した。さらに、「テクノロジーの恩恵で表現の幅が拡がるのはいいと思うし、探ってはいる。ただ、フレームが変わるだけで自分が表現したいものは変わっていない。コンセプトに新しい何かを与えるものはない、という気がしている。」と、「表現」に対して持ち続けている熱い芯も語ったムラカミ氏に対しては、平澤氏、そして福原も大きな賛同を見せていた。
SESSION3 【ポストSNS時代のパブリッシャーたち|The Publishers of Post-SNS Age】
SESSION3ではインディペンデント出版社『Same Paper』のファウンダー/写真家のシャオペン・ユアン氏、『Be Inspired!』編集長の平山潤氏、そしてコンテンツディレクター、trialog代表の若林恵が登壇した。紙媒体で発信することと、WEB、SNS上で発信することに対する考えや、編集のクオリティ、ミレニアル世代としての社会とのコミュニケーションについてなど、幅広く、多角的に意見を交わした。
トークが始まるや否や、若林が「なぜ、若い人たちは紙の雑誌に惹かれているの?」との問いを投げかけると、自身も紙のアートブック等を編集・出版しているシャオペン氏からは、「紙の雑誌は、本当に好きな人に届く。明確なメッセージを届けることができる。そして、寿命が長い。建築物のように、ずっとそこにあり続けてくれるという感覚がある」と、詩的に自らの考えを表現した。一方、WEB媒体の編集長を務めている平山氏は、「ZINEをつくる友人たちは、不本意な拡散に抵抗感をもっている。自分たちの意見をオフラインに閉じ込めたいと思っている」との意見を紹介した。バックグラウンドの異なる二者から語られた紙媒体に対する考え方には、若林も刺激を受けていた様子だった。一方でWEBについて平山氏は、1つ1つの記事を断面的に、ぶつ切りにできるところがある種のストロングポイントだとしつつも、やはりミレニアル世代の作り手たちは、小規模出版を行うアートブックのように、WEBやSNSでは表現できない部分をつくり、コミュニケーションの手段としているのではないか、と推察していた。
いずれにしても、「ユーモアを効かせたものをつくることで、写真家のネームバリューでなく本を手に取ってもらいたい。我々ミレニアル世代がどうやって世界を捉えているかを提示したい」との想いをもっている、とシャオペン氏は語っていた。そこに対して平山氏も、「自分、あるいは自分たちの世代の考えや思想を、ユーモアを持って、あるいはポリティカルに発信することはコミュニケーションとして非常に重要だ」との考えを述べていた。
○登壇者 プロフィール
マリア・グルズデヴァ|MARIA GRUZDEVA
写真家。1989年生まれ。ロシア出身の写真家。写真を通じ、人々が共有する記憶や土地とアイデンティティの問題を追求している。写真集『BORDER: A journey along the edges of Russia』は多くのメディアで取り上げられ、『Forbes』では「30 Under 30」欧州アート部門に選出された。英ウェールズ国立美術館の常設展をはじめ、数々の国際的グループ展、個展、フォトフェスティバルで展示を行っている。
小林健太|KENTA COBAYASHI
写真家。1992年神奈川県生まれ。「真を写すとは何か」という問いとして写真を捉え、様々な試みの中からその輪郭を縁取っていく。主な個展に「自動車昆虫論/美とはなにか」G/P gallery(東京、2017年)、「#photo」G/P gallery(東京、2016年)など。2016年、写真集「Everything_1」がNewfaveより発行。クリエイターを結びつけている。
太田睦子|MUTSUKO OTA
『IMA』エディトリアルディレクター。早稲田大学第一文学部卒業後、91年サントリーに入社。雑誌『マリ・クレール』編集部を経て、『エスクァイア』『GQ』などで特集を中心に数多くのジャンルを担当。その後、フリーランスの編集者となり、さまざまなプロジェクトに携わる。2012年よりアート写真雑誌『IMA』のエディトリアルディレクターを務め、IMA galleryの運営や、IMA photobooksのレーベルで写真集を刊行している。
平澤賢治|KENJI HIRASAWA
1982年東京都生まれ。2006年に慶應義塾大学環境情報学部卒業後、スタジオ勤務を経て独立、渡英。2011年、写真集『CELEBRITY』を発表し、同タイトルの個展を開催。2016年には新作『HORSE』シリーズがISSEY MIYAKE MEN秋冬コレクションに起用される。同年、Royal College of Art 写真専攻修士課程を修了。 現在は東京とロンドンを拠点に活動する。
ムラカミカイエ|KAIE MURAKAMI
SIMONE INC.代表、クリエイティブディレクター。三宅デザイン事務所を経て、2003年、ブランディングエージェンシー「SIMONE INC.」を設立。国内外企業のデジタル施策を軸としたブランディング、コンサルティング、広告キャンペーンなどを手掛ける。
福原寛重|HIROSHIGE FUKUHARA
1975年生まれ。ソニー株式会社クリエイティブセンター、チーフアートディレクターとしてコミュニケーションデザイン領域を担っている。ソニーのコーポレートタイプフェイスの制作を起案しモノタイプ社と協業してSST(R)フォントを開発。過去にウォークマン(R)、ブラビア、ソニー・エリクソンなどの多くのブランドロゴのデザインに従事。現在はソニーコンピュータサイエンス研究所においてビジネス開発も行なっている。
シャオペン・ユアン|XIAOPENG YUAN
1987年生まれ。写真家。上海を拠点に活動中。2013年、グラフィックデザイナーのイージュン・ワンとともにインディペンデント出版社「Same Paper」を設立。同社刊行の雑誌『Closing Ceremony Magazne』は、若い世代を中心に人気を博しており、15年には書店「Closing Ceremony」もオープン。いくつかのファッションブランドをクライアントに持ち、アートディレクションも手がけている。
平山潤|JUN HIRAYAMA
1992年神奈川県生まれ。成蹊大学卒業後、『Be inspired!』の編集部に入り、2016年8月同誌編集長に就任。消費の仕方や働き方、ジェンダー・セクシュアリティ・人種などのアイデンティティのあり方など日々、世の中の「当たり前」に挑戦する人々から刺激をもらい、それを少しでも多くの人に届けられるよう活動中。今秋『Be inspired!』は『NEUT magazine』へのリニューアルを控えている。
○trialog代表 若林恵 プロフィール
若林恵|KEI WAKABAYASHI
1971年生まれ。ロンドン、ニューヨークで幼少期を過ごす。早稲田大学を卒業後、平凡社入社『月刊太陽』編集部所属。2000年、フリー編集者として独立。以後,雑誌,書籍、展覧会の図録などの編集を多数手がける。音楽ジャーナリストとしても活動。2012年に『WIRED』日本版編集長就任、2017年退任。2018年、黒鳥社(blkswn Publishers)設立。
○trialog共同企画者 水口哲也氏 プロフィール
水口哲也|TETSUYA MIZUGUCHI
ヴィデオゲーム、音楽、映像、アプリケーション設計など、共感覚的アプローチで創作活動を続けている。代表作に「Rez」や「ルミネス」など。独創性の高いゲーム作品を制作し続け、「全感覚の融合」を提示してきた“VR研究・実践のパイオニア”でもある。06年「Digital 50」(世界のデジタル・イノヴェイター50人)の1人に選出される。金沢工業大学客員教授、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科特任教授。
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