パーソルグループでは、中期経営計画2026において目指すべき方向性として「テクノロジードリブンの人材サービス企業」への進化を掲げ、グループ一丸となりテクノロジー活用の取り組みを加速させています。
テクノロジー活用の一環として導入されたのが、“業務で安心して活用できるChatGPT”として2023年8月に国内グループ38社へ展開された、パーソル社内版GPT「PERSOL Chat Assistant(CHASSU)」。そのリリース後、社員の利活用促進やリテラシー向上のためにさまざまな取り組みが続けられてきました。
今回は、この取り組みをリードするデジタルEX推進室の上田にインタビュー。リリースからおよそ1年、取り組みや現在の課題、さらなる展開に向けて描く戦略について話を聞きました。
パーソルホールディングスが運営するWebメディア「TECH DOOR」では、パーソルグループ内で取り組んでいるITプロジェクトを紹介しています。本記事と併せてぜひご覧ください。
生成AIによって“はたらくWell-being”を実感できる環境をつくりたい
―まずは、上田さんの役割から教えてください。
2023年10月、パーソルホールディングス グループIT本部に新設されたデジタルEX推進室において、室長としてマネジメントを担っています。この組織は「デジタルの力を使って、パーソルグループではたらくことに喜びを感じてもらう」ことをミッションとして掲げ、社内環境のデジタル化によって従業員体験を良くすることに日々取り組む組織です。
この取り組みにおいて、キーとなるテクノロジーの一つとして注力しているのが生成AIで、生成AIを活用したツールの開発やグループ各社への展開と、各事業のプロダクトに生成AIを組み込むための基盤の展開に取り組んでいます。
―改めて、「PERSOL Chat Assistant(CHASSU)」の概要を簡単に聞かせてください。
CHASSUは、GPT-4oを搭載したパーソル社内専用の対話型の生成AIです。セキュアな環境やガイドラインの整備によって「安心・安全」なChatGPTの利用を実現すること、学習コンテンツやプロンプトを共有できる機能などによって「学びが得られるプラットフォーム」であること、コミュニティ運営を通じて「利用者参加型で成長させていくプロダクト」であることの3つをコンセプトとしています。
―単にツールを提供するだけでなく、環境整備やコミュニティ運営なども含めたパッケージとして「CHASSU」を展開されてきた背景には、どのような思いや課題があったのでしょうか。
すべての原点は、パーソルグループに所属する社員一人ひとりが、当然のように業務の中に生成AIを組み込んで使いこなし、効率化できる部分は徹底的に効率化し、仕事に対する自己決定感や満足度を高めていくことで、“はたらくWell-being”を実感している状態にしたいという思いにあります。
生成AIテクノロジーの登場以降、その汎用性の高さから、ユースケースをうまく発見できている人とそうでない人の二極化は進んでいます。この差が大きな“格差”につながる危機感がありました。なかなかユースケースを思い描けずにいる方、活用に踏み出せずにいる方がこれまで通りはたらく一方、生成AIを活用してこれまで1週間かかっていたような業務をものの1~2日で終わらせたり、同じ時間内でアウトプットの量を劇的に増やしたり、今まで難しくてできなかった仕事にチャレンジしだした方も出てきていますよね。
そうした中で単に「こんな使えるものがありますよ」とツールを展開するだけでは、差をさらに広げるだけだろうなと。グループ全体のリテラシーの向上を見据えた取り組みまでパッケージ化してお届けすることが必要だと考えたのです。
「間口を広げて皆さんに使ってもらう」という視点に立って、注目される新モデル「GPT-4o」をCHASSUに実装したり、ユースケースをイメージしやすい画像生成機能などを追加したりと、“触ってみたくなる仕掛けづくり”に取り組んできました。
―現時点での取り組みの手応えとしてはいかがですか?
約1万9000人の国内グループ社員に展開して、2024年5月時点で利用率は66%超*1となっており、着実に利用が伸びてきています。
*1 利用率は、国内グループ会社で導入している社内専用GPT2種類の合算数値
加えて、社内コミュニティは1500人を超える規模(2024年8月時点)にまで成長しており、その中で「CHASSUの画像生成機能でTeamsのアイコンを作ってみました」「CHASSUロゴのアシカの仲間を作ってみました」といった活発な発信も見られます。こうしたコミュニティ活動から、まだ触ったことのない方にCHASSUを通じた新たな体験を知ってもらい、「自分でも使えそう」と感じていただく流れが生まれることを期待しています。
生成AIが“パーソルグループの社員として”活躍する世界
―「CHASSU」を今後どのように進化させていこうと考えていますか?
次世代のCHASSUの像として描いているのは、「社内データ」に詳しいAIアシスタントです。
今はまだ“一般的なデータ”をふまえて答えを返してくれるものですが、社内データをかけ合わせることで本質的に社員をAIがアシストしてくれる世界が実現すると思っています。それはまさに“パーソルグループの社員として”活躍してくれるイメージですね。現在はコンセプトをベースにして、さまざまな実証検証を進めています。
―具体的な取り組みの例があれば教えてください。
現在検証に着手しているのは、RAG(Retrieval-Augmented Generation)というアーキテクチャによって社内検索結果の活用(名称:Cloud Search)や、社員が自分で知識データベースを作成してAIに組み込むことができるノーコードのAIエージェント開発機能(名称:AI Agent Studio)などが挙げられます。
「Cloud Search」と「AI Agent Studio」の実現により、ユーザーが持つ独自のナレッジを知識データベース化して生成AIに組み合わせたり、社内データを検索して回答させられるようになれば、たとえばある部門における必要なナレッジを生成AIに与えて、ヘルプデスク機能を担ってもらうようなことも実現できるだろうと考えています。ノーコードな開発環境まで実現することができれば、専門的に知識をもっていない社員でも、高度なAIエージェントを自分たちで作れるような世界を実現できるのではという期待があります。
―取り組みの進捗としてはいかがですか。
「Cloud Search」に関しては、検索範囲として社内全域にわたることを想定したものと、限定的な範囲をデータソースとして検索させるものと二通りの検証を進めています。そして、「AI Agent Studio」の検証活動を進める中で、次なるCHASSUのコンセプトは見えてきています。
一人ひとりが目的に合わせて生成AIを活用できる環境の実現が、“ここではたらける喜び”に繋がる
―今後CHASSUを展開していくにあたっての、コンセプトや戦略について教えてください。
「社員一人ひとりが目的を見つけて生成AIをつくり、活用できる環境」を生み出すことが、今後に向けたCHASSUのUXコンセプトです。このコンセプトを追求する中で、まず一つの成果として生成AIを活用したヘルプデスク機能の改善事例を作っていくこと、そしてパーソルグループにおける生成AIの活用スピードを圧倒的に向上させていくことを目指します。
―目指すコンセプトと成果の実現に向けて、どのようなテーマに取り組んでいくのでしょうか。
「全社員が汎用的なChatGPT/チャットボットを利用できる」というこれまでのフェーズから一歩進んで、「全社員が特定用途に特化したエージェントを利用でき、かつノーコード開発も行える」、さらに「全エンジニアが高度なAIエージェントの利用・開発や、そのAIと他システムとの連携を行える」機能を搭載した次世代CHASSUを今年の秋ごろにはスタートしていきたいという目標で取り組みます。
―グループ各社への展開、普及という観点ではどのように取り組んでいこうとお考えですか?
グループ会社においての実装を後押しするべく、CoE*2を通じた技術支援を行いながらCHASSUの利活用の輪を広げています。
また社員のリテラシーや関心を高めるために、既存のCHASSUのコミュニティ運営は継続しつつ、社内マーケティング施策にも注力していきます。たとえば、今期は社内イベントとしてデジタル活用の祭典「サマーフェス」を開催し16個もの社内研修やイベントを発信しています。情報発信や外部企業の方との交流を行っており、今後次世代CHASSUを社内展開する際にもこうした場を活かしていきたいところです。
*2 CoE(Center of Excellence):組織を横断して、パーソルグループの各事業でのテクノロジーの実装・活用を強化する組織。優秀なテクノロジー人材の採用やノウハウをパーソルホールディングスに集約して組成。
―掲げるコンセプトが実現した先に、どのような世界観を描かれていますか?今後の展望や、今後に向けた上田さんの思いを聞かせてください。
改めてとなりますが、私が思い描くのは、生成AI活用の間口が広がり、社員一人ひとりがテクノロジーの力で“はたらくWell-being”を実感できている世界です。次世代CHASSUは、あらかじめ目的やユースケースが見えているところで生成AIを活用するものですから、これが普及して実際に利用されるようになれば、これまでユースケースを発見できていなかった人も生成AIを活用しはじめる起爆剤になるはずです。
また、こうした取り組みに力を注いだ結果として、社員一人ひとりのリテラシーが向上し本質的に「テクノロジードリブンの人材サービス企業」と世の中から認められる存在になること、従業員体験が良くなって「パーソルグループではたらくことの喜び」を皆さんにより感じてもらえるようになることを目指していきたいと思います。
※2024年8月時点の情報です。
パーソルホールディングスが運営するWebメディア「TECH DOOR」では、パーソルグループ内で取り組んでいるITプロジェクトを紹介しています。本記事と併せてぜひご覧ください。
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