カサナレ株式会社は、「いつもの仕事をもっと簡単に」をミッションに掲げ、生成AIを活用したプロフェッショナルSaaS『Kasanare』を提供しているスタートアップ企業です。最先端技術領域の中でもLLM Ops(LLMオペレーション)やRAG領域に強みを持ち、これらの技術を統合したプロフェッショナルSaaS「Kasanare」を通じて、導入から運用までをワンストップでサポートしています。
このストーリーでは、これまで複数の企業でCTOを務め、2024年6月からカサナレに業務委託として参加いただいた海老原さんにお話を伺いました。カサナレを選んだ背景や、LLM技術への考え方、そしてスタートアップにおける組織論について、深いお話をお聞きすることができました。
海老原 智
慶應義塾大学大学院政策メディア・研究科修了後、凸版印刷株式会社でバーチャルリアリティ用3DCGビューア/SDKの開発、3DCGコンテンツ制作会社でテクニカルディレクションに従事。インターネットサービスに転身し、グリー株式会社にてSNS/プラットフォーム系開発に携わった後、株式会社サイカ、株式会社カケハシで取締役CTOを経て、現在はフリーランスとしてカサナレ株式会社をはじめとする複数のスタートアップ企業を支援している。
まず、経歴を拝見し、よくあるソフトウェアエンジニアとは異なるユニークなキャリアだと感じるのですが、どのような経緯で歩まれてきたのでしょうか?
もともと人文系の学問や文章で何かを表現することに興味があり、大学進学時は文学部を検討していたんですが、情報技術やメディア研究の将来性を感じて、最終的にはその方向の学部に進むことを決めました。情報処理系のかたわら現代思想や社会学関連も学んでいたことや、凸版印刷ではデザイン組織に所属していて周りにもデザイナーやクリエイター系が多かったことが、これまでのキャリアに影響している気がします。
これまでのキャリアで、ターニングポイントになった経験はありますか?
グリーでの経験は、私の思考チェンジが起こったターニングポイントですね。
それまでは、業務スタイルとして一人で特定テーマの開発に着手する環境が多かったので、チームで動くということもほとんどなかったのですが、グリーに入社してからはチームで開発を行ったり、チームリーダーを担ったことから、大きく働き方が変わりました。
その中でも、スクラム開発には大変感銘を受けました。プロジェクトの進行状況やチームの動きを可視化して、効率よく進める方法を学び、情報共有の重要性を実感しました。
その後、いくつかの企業でCTOを務められ、現在はフリーランスとしてスタートアップを支援されていますが、その経緯について教えてください。
10年以上経営陣として事業成長のために全力疾走していたのを一旦立ち止まって考える時間ができ、今後自分が何をしたいのか考えた際に、スタートアップ業界への恩返しや還元というものがまず最初に出てきたんです。
私自身長くスタートアップ業界で働いてきたし、CTOも二度経験してきたので、これから事業を立ち上げたり成長させていく際の苦労や気持ちが分かる部分も結構あるんじゃないかと思っています。
これまでの経験や知見を活かして力になることで還元していきたいですし、事業領域にとらわれず、広い視点でスタートアップをサポートしたいと思ったのが、現在のフリーランス活動につながっています。
数あるスタートアップがある中、支援先としてカサナレを選んだ理由について教えていただけますか?
実はお話をいただいた当初は、カサナレは非常にアーリーステージの企業なので、自分の経験が生かせるフェーズではないかもしれないと考えていました。しかし、CEOの安田さんやCOOの西田さんと話をする中で、開発がまだまっさらな状態の今だからこそ私の知識を活かして効率的な開発体制を築けるかもしれないと考え直しました。
また、今の社会は、LLM(大規模言語モデル)がこれからさらに大きな影響をもたらしていく「変革の時代」だと考えています。これまでの経験や知識だけでは解決できない新たな領域において、私自身もLLMについて学びを深めながら、カサナレと一緒に新しい開発手法を作り上げ、未来のインターフェースを作っていく挑戦にワクワクしたことも、カサナレを支援させて頂くことにした大きな理由の一つです。
現在、カサナレではどのような業務に取り組んでいるのでしょうか?
現在は、顧客へ提供する成果物に直接携わっているというよりはどちらかというと、一人一人が開発している状況から一丸となった開発チームとしての動きをどう向上させられるかという提案に力を入れています。
例えば、エンジニアメンバーの情報共有や、それぞれが何を行っているか可視化するためのミーティングやチームとしての振り返り機会の創出を取り入れました。これまで情報共有が遅れがちで、属人化が進んでしまうことが課題の一つとしてありましたが、組織全体がよりスムーズに機能するようになりました。
ただし、開発のためのプラクティスが目的化してしまうことはよくないと考えているため、参加者全員が意味のあるものだと実感できるものであることを大切にしています。
海老原さんから見て、カサナレの魅力は?
カサナレの魅力は、何より、新しい技術に全力で投資しながらその可能性だけを楽観視せず、現状の限界を踏まえて顧客や提供すべき価値に対して真摯に向き合い、泥臭くプロダクトを磨き上げている姿勢ですね。
また、一人一人が大きな裁量を持ち、自律的に動けるところも大きな魅力です。
メンバーがボーダーレスに業務に取り組み、自分の考えやアイデアを直接反映させることができる環境は素晴らしいと感じています。マイクロマネジメントがなく、役職や雇用形態に関係なくフラットな関係で仕事ができる文化が根付いているからこそ実現できていることでもあるため、変わらず大切にしていってほしいです。
先ほど、情報共有についてお話がありましたが、LLMのようなランダム性の高い技術では、形式知化が難しい場合もあるかと思います。その点について、どのように考えるべきでしょうか?
ハルシネーションを防ぐためのRAGチューニングのようなノウハウは、属人性が高く、形式的で外部化された知識として共有しにくい部分はあると思います。
文書化などの形式知化のアプローチは取りつつ、実際のチューニング業務を複数人で一緒に行うような実践の共有なども進めてみるとよいと思います。
経歴を拝見すると、今後発展する先見性のあるキャリアを経験してきたことが伺えます。マーケットがまだ存在しない成長産業において、どのようなマインドセットで働くべきだとお考えですか?
この十年ぐらいは経営陣として動いていたので、その中で大切にしていたのは、足元で作っているものに向き合いつつそれはそれとして、自分達が作っているサービスや事業が人類や社会の歴史の中でどのような役割を果たし、どのようなインパクトを与えているのかということに時々立ち戻って考えることだったと思います。
例えば、LLMが人間の技術史の中でどのような立ち位置にあるのかを考えながら事業を進めるみたいな視点ですね。
必ずしも経営陣でなくても、自分たちの社会や生き方がこれらの技術によってどう変わるのかを日常的に考えながら業務に取り組むと、より大きなやりがいや楽しさを感じられるのではないでしょうか。
日々の生活の中での実感を踏まえて、どんな未来に変わるとより良いと感じるか、そこに共感や情熱を持てるかが、これから新しい価値や市場を作っていく事業においては特に大切になってくるように思います。
カサナレはフルリモート環境で活動していますが、チームワークの維持が課題として頻繁に議論されます。海老原さんが効果的だと感じるアプローチはありますか?
すぐに思いつくのは、いわゆる「ハレ」と「ケ」というか、日常的なリモートワークの環境とフェイス・トゥ・フェイスで会う時間のそれぞれの役割を意識してメリハリをつけることです。
通常は個々が目の前の業務に集中し、四半期に一度はオフサイトミーティングを実施するなど、定期的に対面でのコミュニケーションの場を設けることが大切だと思います。
こうした場では業務に関することよりも、相互理解、事業理解、ビジョン共有など、普段のリモートワーク上の会話では扱わない内容を全員で共有し合う形がいいと思います。
リモートワークの利点を活かしつつ、対面での交流を補完的に取り入れることで、チーム全体の一体感を維持するためのリズムを作っていくことが課題解決に繋がると考えています。
カサナレには、今後どのような課題が想定されると思いますか?
一つは、「エンジニアに求められるスキルや開発スタイルが多様化すること」です。
現在は顧客ごとに特化したプロダクトを作っている状態ですが、将来的にパッケージ化されたプロダクトをリリースしていく場合、異なる価値観を組織内で共存させ、両者のバランスを保つことが課題となりそうです。
どちらの価値観に寄せ切るといったものでもないので、二つの価値観が存在するという前提で建設的な組織作りを行っていく必要があります。また、相互理解に重きを置いたコミュニケーションも形成していかなければいけません。
もう一つは、「品質保証」です。 規模の大きなプロジェクトで、より多くのユーザーに提供していく際、LLMが持つランダム性や推論力をどのようにコントロールし、精度を担保するかは課題になってくると思います。
なかなか定義の難しい領域ではあるのですが、カサナレの中での評価指標を作り、可視化する作業を繰り返し行っていくべきですね。
最後に、カサナレの未来について、どのような展望をお持ちでしょうか?
私が考える技術の本質は「民主化」です。
つまり、何らかの特別な力や立場、膨大な資源を持つ一部の人々にしかできなかったことが、技術の進歩によって間口が広がったことで多くの人が実現できるようになるということです。たとえば、昔は口伝でしか伝えられなかった情報が、文字の発明で記録できるようになるとか、活版印刷や蒸気機関、電気、インターネットなど様々な発明により民主化はさらに広がりました。
同じように、LLMも技術の民主化を進めていると感じています。背景情報を備え、ある程度確からしく自然な応答反応が可能な「人と機械のインターフェース」の開発が、今では多くの人々にとって手軽に行えるものとなりました。LLMが広く使われることで社会がどう変わっていくのかを考えるのは、とても興味深いことだと感じています。
私がカサナレに期待しているのは、社会が大きく変わろうとしているこの時代に、その変革をリードする存在になることです。
カサナレは、「人と機械のインターフェース」を根本から変えるプロダクトを作り出そうとしている企業だと思うので、それを一緒に実現していきたいですね。
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