2000年に日本初のネット銀行として誕生したジャパンネット銀行は、2021年にPayPay銀行へと名称変更し、グループ会社との連携を強化しながら、進化を続けてきました。
2024年の「Nikkei Financial銀行ランキング」で1位(※1)、「2024年 オリコン顧客満足度調査」では「初めてのカードローンランキング」で1位(※2)を獲得。
口座数も右肩上がりで拡大し、2024年5月には800万口座を突破しました。近年、金融業界にはどんな潮流があり、PayPay銀行がユーザーに支持される理由、強みは何なのか? PayPay銀行の田鎖社長、PayPay銀行の親会社にあたる金融中間持株会社Zフィナンシャルの小笠原社長に聞きました。
※1 PayPay銀行「Nikkei Financial銀行ランキング」では第1位を獲得(プレスリリース)
※2 「2024年 オリコン顧客満足度調査 初めてのカードローンランキング」で第1位を獲得
目次
田鎖智人(たくさり ともひと)
PayPay銀行代表取締役社長
2003年ヤフー入社。2006年、ジャパンネット銀行取締役となり、2017年、代表取締役に。2018年にジャパンネット銀行がヤフーの連結子会社化したことに伴い、代表取締役社長に就任。PayPay銀行のミッションである「金融サービスを空気のように身近に」することが自身のミッション。
小笠原真吾(おがさわら しんご)
Zフィナンシャル社長執行役員CEO兼COO営業本部長
2018年ヤフー入社。金融統括本部事業推進本部長などを経て、2024年、Zフィナンシャル社長執行役員CEOに就任。PayPay銀行の取締役も務める。
Zフィナンシャルのミッション「情報技術のチカラで、すべての人のお金に無限の可能性を。」を自らのミッションにし、グループ金融機関の連携やサポートも推進。
最近の金融業界の潮流
――近年の金融業界で起きている変化、潮流について教えてください
田鎖:
銀行そのものですと、海外発のBaaS(Banking as a Service)という流れが活発になっています。銀行が提供する機能やサービスを、API(Application Programing Interface※3)を介して、クラウドサービスとして提供することです。これは銀行以外の事業者からのニーズによるものですが、このAPIを介して公開するオープンバンキングの流れが生まれたことで、フィンテックベンチャーが続々参入しているほか、デパート、鉄道会社など異業種が銀行と連携するケースが増えています。
われわれは、BaaSとはあえて呼んでいませんが、PayPayとの連携は、「サービスに溶け込ませる」という意味で重視しているテーマです。大きくなってきたネット銀行がサービスにより入っていくところが1つ、勝負のポイントかなと思っています。グループ連携では、PayPayのほか、LYグループ各社との銀行サービスの連携、ここが1つ大きな潮流であり、われわれのミッションとテーマになっています。
※3:ソフトウェアやプログラム、Webサービスの間をつなぐインターフェースのこと
小笠原:
他では、エンベデッドファイナンス(組込型金融)が、よくメディアでも取り上げられていますね。お客さまが金融機関にアクセスしなくても、普段利用しているサービスから自然な動線で、さまざまな金融サービスを受けられる仕組みです。
BaaSもそうですが、単純に金融サービスを提供するのではなくて、何かをサービスの中に組み込む流れが徐々に広がってきています。
もう1つは、2014年、2015年ぐらいに「フィンテック」という金融と技術を掛け合わせた単語がバズり始めたのですが、それから約10年たつのですよね。会社によっては単独で大きくなっているところももちろんありますし、大手企業と組む動きもかなり活発化してきています。今後、次の10年に向けて、どのようにフィンテックが進化していくかとても楽しみにしています。
――最近のユーザーによる銀行の使い方で特徴的なものはありますか?
田鎖:
今の話にもありましたが、だんだん、「お客さまの自然な生活行動の中に銀行機能がある」状態になってきていると思います。キャッシュカードも今、必要はなくなってきているので、スマホだけで現金を下ろす人も増えてきていますね。
PayPay銀行では、スマホを使ってQRコードを読み取ることで、ATMから現金を引き出せるため、お客さまはどんどん財布レスになっています。
飛行機、鉄道、タクシーなど、移動も基本的に、スマホがあれば十分ですよね。そういった中で、われわれは、「銀行もスマホで完結する状態を目指すべきだ」と思っているので、そういう機能を強化して、日常生活のあらゆるシーンにおいて、どんどんスマホだけで完結する世界を磨き込んでいます。
小笠原:
昔は、銀行もそれほど複雑なサービスを提供していなかったですし、ネットサービスを展開するプレーヤーがそんなにいませんでした。比較すると、本当にいろんなサービス、手段が増えたなと実感します。例えば、デビット(決済と同時に、即座に銀行口座から代金が支払われる仕組み)と、PayPayのような決済サービスが出てきましたが、一見同じようなサービスであっても、そういったものを、お客さま側で「自分の使いように合わせて選択している」というのが顕著になってきたなという感じがします。
PayPay銀行の成長の歴史
――PayPay銀行は国内初のインターネット銀行ですが、順調にユーザーを獲得し、800万口座を突破するに至ったポイントはどこでしょうか?
田鎖:
PayPay銀行には「金融サービスを空気のように身近に」というミッションがあります。
お客さまのストレス、摩擦を減らしていこうというところが1つの軸になっています。まず店舗をなくすところですね。これまで銀行は店舗に行かなきゃいけなかったわけです。あとは通帳、届出印をなくすとか、基本的に何かを媒介して銀行サービスを届けるというところの摩擦を全部なくすことを進めています。
例えば一般的な銀行でローンを組むと、キャッシュカードとは別のカードを発行するのですが、われわれは、Visaデビットも含めて、銀行のサービスがキャッシュカード1枚で完結し、その先に、スマホだけでも完結するような状態を作っています。そういったところを1つ1つ丁寧に見ているわけです。
また、JRA(中央競馬)やボートレースなど公営競技のネット投票も展開しています。決済ビジネスが軸だったジャパンネット銀行時代に、携帯電話から投票できる仕組みをボートレースと提携して全国で初めて導入しました。今、投票場に並ばずにスマホから投票する方が多くなっていますし、全国どこからでも参加できるのがインターネットの特性ですよね。そのほか、外貨貯金や投資信託といったさまざまなサービスも展開しています。
小笠原:
田鎖さんからもあったように、いろんな積み重ねがあって今の口座数や評価につながっているのでしょう。特にUI/UXの進化はすごく効いてきていると思います。
また、サービスで言えば、公営競技に限らず決済ビジネスに取り組んだことが、今の収益の大きな柱になっています。
次のターニングポイントは、決済で柱をつくったあとに、今度はアセットを使う、ローンのビジネスに乗り出しました。これは2018年2月のヤフーとの連結後に力を入れ始めたのですが、住宅ローンの利用は現在、3,000億円ぐらいの規模になっています。
決済、フローの銀行、という特徴をつくったあとに、銀行の得意技といいますか、一般的な銀行が稼ぎどころとしているアセットビジネスに踏み出していった、この2つの両輪があるところが、PayPay銀行のユニークなところかなと思っています。
それと、忘れちゃいけないのが、PayPay銀行への商号変更ですよね?
田鎖:
はい、そこは大きなターニングポイントでした。商号変更は当時、社内でも賛否両論ありましたが、お客さまにとっての摩擦をなくす上で重要な施策でしたし、変更後すぐに口座開設数が伸びるなどポジティブな結果につながりました。さまざまなチャレンジがあって、今のPayPay銀行の姿になっているのだと思います。
PayPay銀行が評価される理由
――「Nikkei Financial銀行ランキング」では1位を獲得しました。どんなところが評価されているのでしょうか?
田鎖:
評価軸は、サービスレベル、利便性、顧客接点、企業姿勢など、いくつかあるのですが、その中でやはりサービスの使いやすさ、利便性のところは引き続き高く評価していただけました。
これはLINEヤフーの文化そのものでもあると思うのですが、競合とのサービスレベルのチェックはきめ細かくやっています。同質化するところと差別化するところを全部、比較して、「ここは今、負けているけど、ここは差別化まで持っていくべき」という話を丁寧にやって、そこに向けて改善を進めているところが最終的には高い評価、多角的な評価につながっていると考えています。
収益の基盤となるアセットを伸ばすことで、ATMや振込の手数料、普通預金や定期預金の金利など、経済条件もより良いものをだんだん出しやすくなってきています。たとえば、住宅ローンでも組みやすい銀行の1位の評価(※2)をいただきましたし、カードローンも高い評価をいただいています。
今、日銀の政策金利が上がる中で、普通預金金利も銀行の中でトップクラスのものを提示しているので、ほかと比較したお客さまが流れてしまうようなこともなく、UXで勝負することができているかなと感じています。
小笠原:
面白いことにPayPayの成長とともに、PayPayと連携するお客さまもものすごく増えていますし、そうではなくて普通にPayPay銀行口座を開設してくれる方も増えていまして、銀行全体として強くなっている印象です。
外部との連携に関しては、PayPay銀行とPayPay連携の仕方は、かなりこだわって設計しています。例えば、「PayPayでeKYC(electronic Know Your Customer:電子本人確認)している人だったらPayPay銀行の口座開設はツータップでできますよ」といった機能的な連携を意識しています。マーケティングに頼らない連携こそが、本質的なお客さまの利便性につながっているのかなと。そこが一番支持されているポイントじゃないかなと感じています。
――ネット銀行初の取り組みに挑戦する風土に加え、UXの磨き込みなど、何か会社に根付いている文化があるのでしょうか?
田鎖:
サービスをつくるときに問いを立てるようにしています。「これ、本当にお客さまにとって必要なの?」といった問いですね。先ほど住宅ローンの話をしましたが、マンションの借り換えのときに、われわれ、物件の書類提出は求めていません。普通、借り換えるとき、どういう家なのか、いろんな書類を出させることが一般的ですが、マンションを一度購入して借り換えということは、そこに住んでいるということだから、ある日突然マンションがなくなったりしないじゃないですか。なくなれば、われわれもわかりますから、「その書類ってなんのために出してもらっているの?」というと、実は大した使い道がなくて、形式的になんとなくということでしたから、「じゃあ取るのをやめようよ」と変えました。そういったお客さまの摩擦をいかに取り除くかという動きを細かく実施して、それが最終的にご契約などにつながっているのでしょうね。
小笠原:
私は他の金融機関から移ってきて、当初驚いたことが、PayPay銀行が「新しいサービスを始めます」となった場合、当時のヤフーのトップであった川邊さんや小澤さんといった会社のトップがウォークスルー(欠陥の早期発見と除去を目的としたITレビューの手法の一つ)でバンバン、サービスの改善点を指摘してくるのですよね。一般的な銀行では頭取がウォークスルーをするというのは考えられません。そういったことが当たり前にやられている環境があります。
田鎖:
その状況もかなり成熟してきまして、私もよく開発チームに疑問をぶつけたり、改善案を指摘したりするのですが、「トップが言ってきたから」とそんたくすることもなく、一お客さまの意見として、フラットに判断していますね。先日、私が指摘したポイントも、「みんなで揉んだ結果、こうすることにしました」と見事に別案が出てきて却下されてしまいました。お客さま視点に立った判断なので納得しています。
開発体制においても、開発の視点とデザイナーの視点、ビジネス、サービスの視点で、それぞれ、改善するポイントの気付きってそれぞれの軸であるはずなので、今はそこをチームアップして、同時に今、「UX-One」というテーマでやっています。
サービスごとに三位一体で、エンジニアとデザイナーが入って、「何を改善していくか」を担当者がどんどん決めながらPDCAを回して変えていて、LINEヤフーと同様、ネット企業ならではのサービス改善の活動と組織体系のような形になってきているような状態です。
今後の展望
――今後、金融のカタチはどう進化していきそうでしょうか?
小笠原:
ここ最近の技術の進歩はものすごく早いなと感じます。「ガラケー対応のインターネットバンキングをどうしようか」みたいな話をしていた時期が10年ぐらい前です。そこから急速にスマホ、そしてアプリが出てきて、その昔は10年後に新しいものが出ると言っていたのが、今では5年、次は3年とか、どんどん新しくなっていくので、アプリの先がまたあるのでは、と思っています。
その技術に対応するということと、お客さまの利便性なり、使う理由にアジャストするような進化が銀行に必要になっていきます。先ほど、今後のフィンテックの可能性の話もしましたが、そういったさらなる進化の10年になるのかなと思っています。
われわれもお客さまに対しての利便性はまだまだやれるところがあるので、そういったグループ全体での動きをもっと加速していきたいなと思いますし、それをサポートするのはわれわれの役目でもありますので、PayPay銀行の成長のため、親会社としてしっかりサポートしていきたいなと思っています。
田鎖:
銀行が目指すものというところで言うと、「そもそも銀行ってなんだっけ?」というと、最終目的にはどこまでいってもなり得ない業態です。どこまでいっても手段なので、手段であるからには、とにかく摩擦は減らしていきたいですし、とにかく空気のように身近にしていくというのが、われわれのミッションです。
テクノロジーの進化、サービスの周りの変化もありますので、そういった変化に機動的に対応して、摩擦の少ないものを入れていく。また、その裏の業務については、AIを使い倒して、自律的にどんどん進化したものをお客さまに提供できるという循環をつくっていきたいです。そうすれば、お客さまにとってもいいサービスになって、「WOW」や「!」と思っていただける状態になるのかなと思っています。
取材日:2024年5月17日
※記事中の所属・肩書きなどは取材日時点のものです。
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