昨今話題となっているChat GPTなどの生成AI。業務に活用するか否か、使用する際のルールはどうするか?など、活用に対する対応は企業によってまちまちです。そんな状況下においてSMBCグループでは2023年7月、大手銀行グループの中でいち早く、専用環境上でのみ動作する従業員専用AIアシスタントツール「SMBC-GAI」を開発し、業務に活用しています。
安心・安全に配慮しながらも、わずか4カ月という短期間でSMBC-GAIのリリースを実現できた理由はどこにあるのか?ガイドラインをどのように整備したのか?いくつものハードルを乗り越え実現に携わった関係者へ、その開発秘話をお伺いしました。
Microsoft Teamsに組み込み、常駐するAIアシスタントを実現
――Chat GPTの公開後、業務に活用するかどうかの様子見をしていた企業が多かったと思いますが、即座にChat GPTを活用しようという機運が生まれた理由を教えてください。
植村:SMBCグループにはすべての役職員が共有すべき「Five Values」があり、その中に「Proactive & Innovative(先進性と独創性を尊び、失敗を恐れず挑戦する)」という価値観があります。Chat GPTの公開前からAIなどの先端技術に関しては積極的に導入を進めており、多くの業務で活用しています。
生成AIに限らず新技術に関しては上手に使えば大きな効果を得られますが、使い方を誤ると大きなリスクになるのでリスクコントロールが重要です。今回開発・導入を進めたSMBC-GAIもガイドラインを整備し、SMBCグループ専用環境上で動作するチャットツールとして、情報が社外に流出しないプロトタイプを構築し、社内従業員のみが利用できる形で活用を始めました。
株式会社三井住友銀行 システム統括部 副部長 植村 征広氏
―― SMBC-GAIのプロトタイプの作成にあたり、工夫した点はどこでしょうか?
兵頭:2023年の3月にマイクロソフトがAzure上でChat GPTが使える「Azure OpenAI Service」をリリースしました。これを機にぜひ業務に活用したいと思い、早速開発に取りかかりました。まず社内SNSの「みどりの広場(ミドりば)」に「社内でChat GPTのような機能が使えるツールを作ります」と投稿したところ、ものすごい数の「いいね」がつきました。さらに、「こんなことができたら嬉しい」というような声も多くいただきました。反対の声が少なかったのは、「リスクに考慮し、安心・安全に使えるものを作ります」と投稿していたからだと思います。
工夫したのはMicrosoft Teamsの中で利用できるようにしたことです。Webページに組み込んでしまうと毎回そのページを開く必要が出てきますが、Teamsのようなコミュニケーションツールに組み込むことで、Chat GPTが従業員の一人として調べものをしたり翻訳をしたり、音声データから文字起こしをしたりしてくれます。
株式会社三井住友銀行 システム統括部 部長代理 兵頭 和樹氏
システムをスピーディに開発し、ルールづくりに時間をかける
――SMBC-GAIを実際に活用する際の、ルールづくりではどのような点を意識したのでしょうか?
佐橋:生成AIは事実と異なる回答をすることがあるため、そのリスクを認識することが重要です。今までは、AIを活用してシステムを構築する側の視点でルールづくりをしていましたが、現在は「利用する側もリスクを考える必要がある」という視点でルールづくりを進めています。最も重要視しているのは、利用者自身でしっかりと生成AIの回答した内容の正確性、妥当性を判断する必要があるということです。
SMBC-GAIは回答した内容がどのWebサイトを参照したのか、利用者にも見えるようURLを表示する仕様となっています。URLをクリックすることで参照元に飛べるので、回答の正確性を判断することができます。AIの回答については個人個人がしっかりと判断するようルールにも明記した上で、社内の通達や研修動画、マニュアルでの徹底を行っております。
株式会社三井住友銀行 システム統括部 佐橋 優氏
――SMBC-GAIの開発からルールづくりまで、わずか4ヶ月で行ったとのことですが、迅速に進んだ要因を教えてください。
自在丸:私たちは2017年にマイクロソフトの統合型情報共有クラウドサービス「Office 365(現Microsoft 365)」を導入して、各種サービスを安心安全に使うための対策を講じてきました。2022年にはマイクロソフトと戦略的パートナーシップを締結しています。そういった技術的な蓄積があったからこそSMBC-GAIを短期間でリリースできたと考えています。
株式会社三井住友銀行 システム統括部 上席推進役 自在丸 健氏
兵頭:実は開発自体は数日で済ませ、残りの3ヶ月半をルールづくりに費やしました。当時も今もAIはまだ様子見の段階で、何が正解か誰にもわからない状況です。まずは開発して一部社内でリリースして、フィードバックを受けて改良する。この繰り返しをすることで正解に近づけると思っております。なので開発においては、とりあえず多くの人に使って欲しかったという思いがあります。まずは手軽に使ってみて、優れた回答が得られたら多くの人が活用してくれると考え、そこはスピーディに展開しました。
私はルールとシステムの比重が大事だと考えています。ルールが改訂されたら、それに合わせてシステムも変更する。新しい技術が出てきたら、それに伴いルールも変える。そういったアジャイル・ガバナンス(※)をバランス良く進めてきました。
(※)周囲の環境変化を踏まえ、ゴールやシステムをアップデートしていくガバナンスモデルのこと。
「2秒に1回」利用されるツールへと成長
――SMBC-GAIは行内でどのような用途に使われているのでしょうか?
山本:専門用語の検索やメールの下地作り、文章の要約や翻訳、プログラミング言語のソースコードの生成など、あらゆる業務で活用しており、生産性向上に寄与しています。一方で、生成AIは基本的に過去データをもとに学習しているので、データに基づいた回答はできますが、そこから逸脱する創造的な発想は難しいのが実状です。新しいクリエイティブな発想などは引き続き人間が担うことになるでしょう。
株式会社三井住友銀行 システム統括部 インフラ企画グループ グループ長 山本 陽太郎氏
――リリース後に利用者から「こんなことで困った」という声はありましたか?
山本:プロンプト(指示)の問題ですね。AIに投げる指示や質問によって期待した回答が得られないことがあります。AIが理解できるような質問の仕方をする必要があるので、当初は利用者との認識のズレがありました。
兵頭:わかりやすい例として、「夕飯の献立は何がいい?」という質問をするときは、冒頭に「管理栄養士の視点で答えてほしい」と投稿に付け加えると、身体にいいものをお勧めしてくれます。夕飯の献立一つとっても、美味しいものを求めているのか、手軽に調理できるものを求めているのか、身体にいいものを求めているのかで回答は大きく変わります。利用者はその点を意識して質問をする必要があります。現在はSMBC-GAIの回答後に、より具体的なプロンプト候補を三つほど提示して、会話が円滑に進むような工夫しています。
山本:プロンプト(指示)の仕方については、マニュアルなどでもコツを紹介しており、徐々に使いこなすことができるようになっていると感じています。
――現状、SMBC-GAIは1日でどれくらい利用されているのでしょうか?
植村:7月のリリース当初は1日6,000件ほどでしたが、徐々に広まっていって現在(※)は倍の12,000件ほどに。大体、2秒に1回使われています。
(※)本記事の取材は2024年1月に行われました。
AIアシスタントがコールセンター業務をサポート
――今後、SMBC-GAIの本格的な業務活用に向けてどのようなことを予定しているのでしょうか?
中内:SMBCグループとしてはこれからも積極的にSMBC-GAIを活用していくつもりです。すでにTeamsに組み込んでチャットボット形式で社内全体に展開をしておりますので、今後は社内規程を検索できるようにするなど、実装に向けて検証を進めています。AIが持つリスクを排除した上で、お客様サービスの品質向上にもつなげていければと考えています。具体的には、コールセンターでの活用を検討しています。
現状ではコールセンター業務のすべてをAIに代替させることはできないため、人間の業務とAIの業務を切り分けて、まずは最初のステップとして人間のサポートをAIが担当する予定です。また、コールセンター業務でネックになっているのが、お客さまとの通話内容を記録する作業です。ここは非常にオペレーターの負担になっているので、AIに任せることで業務効率化を測っていこうと考えています。
株式会社三井住友銀行 システム統括部 中内 陸氏
【プロフィール】
株式会社三井住友銀行 システム統括部 副部長
植村 征広氏
1999年三井住友銀行入行。営業店で銀行実務を経験後、情報システム部門へ異動。2005年日本総合研究所への転籍後もSMBCグループで共用可能な仮想サーバ基盤、ネットワーク、メインフレームなどITインフラ分野でのプロジェクトを企画・推進。2022年10月より現職。
株式会社三井住友銀行 システム統括部 インフラ企画グループ グループ長
山本 陽太郎氏
2007年三井住友銀行入行。中堅・中小企業向けの法人営業を経験後、システム統括部にてIT戦略の立案や予算運営の他、銀行・グループ会社の各種システム開発プロジェクトの推進に従事。日本総合研究所、三井住友カード情報システム部門の出向を経て、2023年4月より現職。
株式会社三井住友銀行 システム統括部 上席推進役
自在丸 健氏
1993年三井住友銀行入行。営業店で融資・ローン等の銀行実務を経験後、情報システム部門へ異動。2005年日本総合研究所への転籍の後はSMBCのイントラ基盤、メールシステム等のOA関係のプロジェクトを企画・推進。2013年11月に現職へ異動し、OA関係の対応を継続しつつクラウド活用やAI等の新規分野の企画・推進に従事。
株式会社三井住友銀行 システム統括部 部長代理
兵頭 和樹氏
2011年からフリーランスとして様々な開発案件に従事。2014年に日本総研情報サービスに入社。2015年から日本総合研究所での開発を経験後、2019年に三井住友銀行 システム統括部に配属。さまざまな新規技術の開発に携わる。システム統括部の部長代理として、新技術の活用やITインフラの最適化、セキュリティの強化に関する企画立案・実行を担う。
株式会社三井住友銀行 システム統括部
中内 陸氏
2018年三井住友銀行に入行。法人営業部にて2年間の銀行業務の経験後、システム統括部に異動し、社内OA関連のプロジェクト企画・推進に従事。2023年7月より、社内業務システムにおける生成AI活用を担当。
株式会社三井住友銀行 システム統括部
佐橋 優氏
2019年三井住友銀行入行。中小企業向けの法人営業を経験した後、2022年からシステム統括部にて、社内ITインフラの最適化を進め、情報基盤を強化。2023年7月、業務効率化と従業員の生産性向上を目指し、最先端技術である生成AIを社内へ導入。現在は生成AI関連の企画・推進を担当。
【SMBCグループ/DX-Link】
https://www.smfg.co.jp/dx_link/
SMBCグループはお客さまと社会の課題解決のためのソリューションを
提供するためにデジタルを活用し、外部のパートナー企業とも連携しながら、
金融・非金融の垣根なく、ニーズを先取りしたサービスを提供していくことを
目指しています。
“DX-link(ディークロスリンク)”では、 DXにおけるSMBCのビジョン、
企業のDX推進のためのソリューション、共創パートナー企業との取組、
DXの最新動向などの情報を発信し、業種や地域等の垣根を越えて、
様々な情報やサービス、企業がクロスする場としていきたいと考えています。
皆さまとともに、明日につながる新たな価値を創出できるよう、
SMBCはグループ一丸となってDXの取組を進めてまいります。
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