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STORY 衝撃的な生成AI(ChatGPT)の登場と「これは人の役に立つ」という直感。「ITを組織の力に変える」という創業以来のミッションから生まれたfusion AIの誕生秘話

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衝撃的な生成AI(ChatGPT)の登場と「これは人の役に立つ」という直感。「ITを組織の力に変える」という創業以来のミッションから生まれたfusion AIの誕生秘話

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シナジー研究所は創業27年目のコンサルティング会社です。「IT(情報技術)を組織の力に変える」ために、オブジェクト指向技術の普及を目指し、システム・モデリング、プロジェクト管理、要求分析、システム開発、などを手掛けてきました。

そのシナジー研究所が、生成AIを使いこなすためのサービス、fusion AI(フュージョン・エーアイ)を発表しました。

「ITを組織の力に変える」ために、テクノロジーだけでは足りないものに気づき、それを発見するまでの、そしてfusion AI誕生までの経緯を、代表の依田がお伝えします。

社名はシナジー研究所。実現したいのは「人と人のシナジー」

シナジーとは、相乗効果という意味です。1+1を2以上にするのがシナジーであると説明されることがあります。M&A(企業の合併・買収)でしばしば使われる言葉ですが、私が実現したいのは、人と人のシナジーです。

1+1>2ということは数学的に言えば非線形だということです。この非線形性は、シナジー研究所のロゴにも表れています。左下から右上へと上昇する放物線でこの非線形性を表しました。



シナジーが働く時とそうでない時では、人と人、つまりチームワークの生産性は大きく異なると思います。生産性以上に大切なのは、仕事の面白さです。チームワークで仕事が面白いと感じられる状態こそ、今注目されているウェルビーイングが高い状態といえるのではないでしょうか。

「IT(情報技術)を組織の力に変える」ことでシナジーを生み出す

では、どのようにして1+1>2を実現するのか。その手段として、創業以来一貫して変わらないのは、「IT(情報技術)を組織の力に変える」ということです。ITとして当時集中して取り組んでいたのは、オブジェクト指向技術でした。オブジェクト指向技術は現在、ソフトウェア開発技術としてすっかり定着しています。

いまでは意外に思われるかもしれませんが、創業当時の2000年前後は、オブジェクト指向技術がBPR(ビジネス・プロセス・リアンジニアリング)、つまり業務改革を可能にすると言われていました。

どういうことかというと、オブジェクト指向技術が情報システムの構造を明らかにして、ビジネスとの関係性を説明できるので、時代の変化に応じて情報システムは俊敏にその姿を変えることができる。そこで、競争力が増すということなのです。

このアプローチは、お客様の一定の理解を得ることができ、お客様組織の発展に大きく寄与する経験を得ることができました。情報システムについてそのユーザーが内部構造も含めて良く知ることが組織に力を与えるという考えは今も変わっていません。その信念が、これからお話しするfusion AIを生み出したと思っています。

fusion AIの開発のきっかけとなったChatGPTとの出会い

この原稿を書いているのは2023年11月ですが、今からちょうど1年前に、ChatGPTのサービスが始まりました。その後の1年間でのChatGPTの勢いはいまさら私が書くまでもなく、いまや世界の多くの人が利用体験を持つところまで普及してきました。

私自身は、ChatGPTが始まるかなり以前から大規模言語モデルであるGPTの存在を認識していましたが、実はこれが実用的なものになるとは考えていませんでした。

その理由は、大規模言語モデル(LLM)は、訓練データから得られる確率分布に従って文脈をたどってみせているだけですから、それがなにか生産的な成果を出力できるとは考えていなかったのです。

ところが、この大規模言語モデルとユーザーの間に、適切なデータを挟み込むことで有用な仕事をさせることができることを知り、考えが変わりました。そして、fusion AIの開発に着手したのですが、そのお話の前に、ChatGPT誕生の数年前から取り組んでいたVisiWork(ビジワーク)というサービスについて少し説明します。

「仕事の見える化・可視化」を目指したVisiWorkの取り組み

VisiWorkは、Visible Work、つまり「見える仕事」という意味です。詳しくはホームページ( https://visiwork.synergy-res.co.jp/ )に書いてありますが、仕事の見える化・可視化によって、生産性改善の行き詰まりを解消できるはず、という思いから生まれたサービスです。

VisiWorkでは、そのためのツールとして、オープンソース・ソフトウェアであるREDMINE(レッドマイン)を使います。REDMINEは、オープンソースですから、安価に導入することができます。しかもとても柔軟性が高いので、気軽にタスクを管理するツールとしても使える一方で、本格的なプロジェクト管理にも使えます。そのため、いろいろな課題を抱える広い範囲のお客様に対してお勧めしやすいのです。

幸いVisiWorkの提案はお客様の理解を得ることができて、サービス業、製造業、エンジニアリング企業と異なる産業分野における導入を支援することができました。また、その経験の中で、REDMINEの優れた機能の一つである、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を駆使して、REDMINEを足腰とした部門間連携のシステム構築を経験することもできたのです。ChatGPTとの出会いはそんな時期でした。

fusion AIの誕生

多くの人が初めてChatGPTを使ったとたんに驚きの経験をしていることと思います。まず、会話が極めて自然で物知りです。固い話題も柔らかい話題もこなして、ユーザーを飽きさせません。

もちろんそれだけでは、ChatGPTを使ったサービスを事業化しようという発想にはつながりませんが、そこまで考えたのは、先に述べたREDMINE、そしてREDMINE APIの経験、さらにそれを使った大規模な部門間連携システム構築の経験があったからでした。

ChatGPTを初めて触ったのが今年(2023年)のはじめでしたが、4月くらいには、「業務を可視化して生産性を改善するVisiWorkの考え方に生成AIを加えることで何ができるか」を考え始めていました。

そして、ChatGPTとREDMINEを接続し、「プロジェクトで今月忙しい人の一覧表を見せて」というリクエストに応えて、該当する担当者の予定工数の一覧をChatGPTが表示した時が、「この仕組みは人の役に立つ」と確信した瞬間でした。しかも、その表示の最後には、労働時間が多いことを気遣う言葉が、プログラミングもしていないのに、添えられていたのです。

この仕組みは、REDMINE、つまりタスク・プロジェクト管理に限らず、業務システム全てについて適用することができます。つまり、その業務システムが、ERP、営業システム、人事システム、生産管理システムなどなんであっても、APIが提供されていれば、そのシステムに対する自然言語インターフェースを提供することができます。

そこで、この自然言語インターフェース構築サービスにfusion AIという名前を付けて、事業化することを決めました。fusion(フュージョン)とは融合という意味ですから、業務システムと生成AIの融合という意味になります。

fusion AIサービスにおけるREDMINEは、おすすめのタスク・プロジェクト管理システムであると同時に、ChatGPTと連携する業務システムのサンプルという位置づけでもあります。fusion AIサービスの体験コースでは、REDMINEが接続された環境で、業務システムの自然言語インターフェースを体験した後、それを拡張し、また、タスク・プロジェクト管理から離れて、ユーザー固有の業務システムと連携を実験し、さらに本格的なシステムに拡張することもできるのです。

自然言語インターフェースは現在、CAFE(Conversational Application Front End: 会話型アプリケーション・フロントエンド)と呼ばれるプログラムとして構築されています。fusion AIサービスでは、このCAFEがユーザーに提供されて、自由に業務システムとの対話にトライすることができます。以下は、REDMINEが接続されたCAFEを使って、「フュージョン建設株式会社」というテストプロジェクトについて対話をしている画面です。(人名は、実在の人物と一切関係ありません)

テクノロジーだけでは足りないもの

ChatGPT に関わってすごいと思うことがあります。生成AIの活用を促進する技術は日進月歩で進化し、それを解説する情報がネットにあふれ、書籍も出版されています。生成AI活用を進めたいと考える人々のエネルギーに触れるだけでも素晴らしい経験をしていると感じることができます。

そんな状況ですから、VisiWorkの世界をAIに接続するための手段はすぐにわかりました。主な手段は、ChatGPTのプラグインという仕組みです。プラグインはユーザー側が開発したプログラム(関数)をChatGPTに提示すると、ChatGPTが必要と判断したタイミングでそのプログラムの実行を要請してくるという仕組みです。

この仕組みがよく考えられていると思うのは、ユーザーが開発したプログラムをChatGPTが直接呼び出すのではなく、あくまでもユーザーが呼び出すという点です。プラグインは、ChatGPTが直接実行するのであれば、その内部でユーザーの組織の機密データにアクセスしてさらに更新まで行ってしまうかもしれませんが、それを行うのはChatGPTではなくユーザーなのですから、すべてがユーザーによってコントロールできているという安心感があります。

ただし、ChatGPTからのプログラム呼び出しの依頼自体が、いわゆるハルシネーション(幻覚)を引き起こしている可能性がありますから、関数の実行に当たっては、その依頼内容を吟味する必要はあります。

すでに述べたように、生成AIの世界は文字通り日進月歩。そこに追いついて技術を形にしていくのは本当に大変だと痛感しています。

fusion AIの構想ができたのが今年の7月頃で、それ以降、エンジニアが頑張って、REDMINEの自然言語インターフェースが現在できつつあります。

以上が、fusion AIサービスのテクノロジーのお話ですが、あと二つ、fusion AIサービスのリリースに当たって時間を費やして工夫をしたことについて語りたいと思います。それは、fusion AIのエンジニアリング・プロセスと、fusion AIからのメッセージは何かというお話しです。

エンジニアリング・プロセスをどうするか

ここまで述べたのは、生成AIと業務システムが連携して動く時の仕組みのお話しです。その業務システムには、すでに述べたように、ERP、営業システム、人事システム、生産管理システムなど、さまざまなものがあり得ます。そして、そのどれがテーマになってもfusion AIはその自然言語インターフェースを構築できると表明するわけですから、連携の仕組みだけではなく、それを設計して開発する手順、つまりエンジニアリング・プロセスも必要です。

実は、これがなかなかの難題です。生成AIと業務システムとの連携は、すでに述べたように、技術的にはプラグインの開発で実現可能になりますが、では、お客様が要望する業務システムに生成AIを接続するためには、どれだけの数のどのようなプラグインを開発すれば良いのでしょう。

これは、REDMINEを使った自然言語インターフェースのサンプルを作成する際のエンジニア悩みでした。一体、ユーザーは自然言語インターフェースに何を望むでしょうか。自然言語インターフェースはどこまでの能力を持てばよいのでしょうか。

これは、従来のシステム開発においては、要件定義が取り扱う課題です。これまでは、ユーザーが「画面はこうして欲しい」などと要望して、エンジニアがそれに答えるシステムを設計し実装していました。もし、ユーザーの意図していない結果が現れたら、開発者は意図通りの動作となるようにプログラムを修正するか、「それは仕様です」と、打ち合わせ内容と異なる要望であることを指摘したりするわけです。

しかし、自然言語インターフェースの仕様とは何なのでしょうか。

ここで認知工学と、冒頭にお話ししたオブジェクト指向技術が参考になりました。認知工学からは、スキーマとメンタルモデルという概念を導入し、オブジェクト指向技術からはUML(統一モデリング言語)のユースケース図やクラス図を使うことにしました。このあたりはシナジー研究所の創業期に一番注力していた技術です。

下の図で示しているのは、ある特定のユースケースにおいて、ユーザーがどのようなメンタルモデルを持ち得るのか、それをクラス図によって表現します。そして、プラグインはそのメンタルモデルに応えるべく、実装するという考え方です。

具体的にどんなプラグインをどこまで作りこめばよいかわからないという、サンプルを作成した際のエンジニアの悩みがこれで解消しました。ということは、fusion AIをお客様に導入する場合においても、つまりお客様のためのエンジニアリング・プロセスとしても、このアプローチは有効なものとなるはずです。

「より良いコミュニケーション」を。

fusion AIサービスのリリースに当たり、最後の悩みは、メッセージでした。つまり、fusion AIサービスによって実現されるものは何か、ということ。言い換えれば、fusion AIのメッセージは何かということです。

実はこれも、認知工学について学ぶ過程で発見することができました。ネットの記事(1)を読んでいて、「コミュニケーションの心理学」(松尾太加志著、ナカニシヤ出版)(2)という本と出合いました。下の図は、その本が提案する人対人のコミュニケーションモデルです。(図は書籍の図をもとに筆者が作成)


この図が意味しているのは、人と人がコミュニケーションを行う上では、メッセージだけではなく、お互いが既に持っている知識(既有知識)が共有されることが重要だということです。上で述べた、スキーマやメンタルモデルという言葉も、この図によって理解した概念です。

(1)の記事に書いてあるのは、AIが進化してChatGPTのようなものが現れた現在、この人対人のモデルは人対AIに対して当てはまるのではないかということでした。そうなると、スキーマやメンタルモデルが共有できれば良いことになります。

その方法はいろいろ考えられますが、まずは、このスキーマをクラス図としてユーザーとAIエンジニアの間で共有することで、すでに述べた、AIにおける仕様とは何かの問題がひとまず解決できるように思えます。

この本では、もう一つの考え方も参考になりました。人対人のコミュニケーションは、電話やテレビなどの技術で、機械を経由した姿に拡張されました。それを「メディアコミュニケーション」と呼ぶのだそうです。そこで、人対機械の自然言語インターフェースを含むメディアをfusional media(融合メディア)と呼びたいと思います。

fusional mediaについては、現在ホワイトペーパーを準備中ですが、その価値は、いわゆるダイバーシティー&インクルージョン、つまり多様性と包摂性の実現にあるのではないかと考えています。

詳しくはホワイトペーパーに譲りますが、融合メディアは、言語を選びません。なぜなら生成AIがいとも簡単に言語の壁を乗り越えてくれるからです。また、語彙についても多様性が許されます。なぜなら生成AIがすでに豊富な語彙を学習していますから、「予定」工数や「計画」工数といった言葉の揺らぎも、生成AIが簡単に乗り越えてくれます。

そうなると、ITがお得意でない経営者がいても、自社の情報システムから最新の情報を得て、従業員や顧客とのより良いコミュニケーションが実現するかもしれません。また、国際的なスケールでの人材獲得やジョブ型雇用への対応なども敷居が下がってくるでしょう。融合メディアは、冒頭で述べた人と人とのシナジーを実現するものとも言えるので、創業27年目のシナジー研究所の集大成になれば良いと考えています。

このストーリーで、ChatGPT、生成AI、そして融合メディアの大きな可能性に気づいていただけたら嬉しく思います。


fusion AI紹介ページ: https://synergy-res.co.jp/fusion-ai


(1)     ニッセイ基礎研究所 島田壮一郎、ChatGPTの台頭で求められるコミュニケーション能力、ニッセイ基礎研究所 基礎研レポート 2023-06-02

(2)     松尾太加志、コミュニケーションの心理学 認知科学・社会心理学・認知工学からのアプローチ、(ナカニシヤ出版、1999)





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