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STORY 創業から8年、CEO中村晃一が語るIdeinのこれまでとこれから

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創業から8年、CEO中村晃一が語るIdeinのこれまでとこれから

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実世界のあらゆる情報をソフトウェアで扱えるようにする──。そんな想いのもと、2015年4月に創業したIdein(イデイン)株式会社。


開発に5年もの歳月をかけ、2020年にローンチしたエッジAIプラットフォーム「Actcast(アクトキャスト)」の累計登録台数は2023年3月時点で16,000台を突破。現在、エッジAIプラットフォーム国内シェア2年連続No.1を誇る。さらに、本導入に向けた実証実験も各所で進行中である。


急成長の裏側にはどのようなストーリーがあるのだろうか?


代表取締役 / CEOの中村晃一氏に、Idein創業までの経緯やActcast開発までの歩み、Ideinの目指す将来像について語ってもらった。

国内シェア2年連続No.1のエッジAIプラットフォーム「Actcast」とは?


「Actcastは最先端の解析技術を用いて、実世界にあるさまざまなデータを自動で収集・分析するプラットフォームです。幅広い分野での利用を想定しており、例えばリテールであれば商業施設の映像や音声といったデータをリアルタイムに解析し、マーケティングに活用することができます。この他、店舗や工場などさまざまな現場のデータを業務効率化に利活用することが可能です」(中村氏)

取得したデータはエッジデバイス側で解析を行うため、クラウドには必要な情報のみを送信できるのもエッジAIの大きな特長だ。対してクラウドAIはすべてのデータをクラウドへ送るため、プライバシーの問題が懸念されている上、通信やサーバーのコストが増大する。そういった課題をクリアできる点もエッジAIが近年注目を集める理由だろう。


「ActcastとAIカメラで混雑状況をリアルタイムに計測したり、来店客の属性や動線を把握することもできます」


さらにAIカメラとデジタルサイネージを組み合わせることで、視認率や視認者の属性データを取得することも可能だ。広告の費用対効果を測定できる上、より適切なコンテンツの出し分けや商品開発にデータを生かすことができる。

これからの時代に不可欠ともいえるエッジAIテクノロジー

またエッジAIはエネルギーの大量消費問題が深刻化する現代において、サステナブルな仕組みであることでも関心が寄せられる。通常のクラウドAIは、取得データそのものをデータセンターに送信するため、膨大な通信量がかかる。2030年には世界中のデータセンターの消費電力のうち、半分以上がAI用途になると想定されているほどだ。



一方でエッジAIは無駄なデータの送受信が行われないため、通信量の削減に大きく寄与する。例えば、下図のユースケースで試算すると、データをデータセンターに送信した場合の1日当たりの消費電力はクラウドAIで1万8千世帯分になるが、エッジAIではわずか4世帯分となる。その差は歴然だ。



Actcast は2020年1月に正式版がリリース。2022年に入ってからは3ヶ月間で登録台数が5倍となるほど伸び、2023年3月時点で累計登録台数16,000台を突破している。また、協業パートナー数は150社を超え、国内のエッジAIプラットフォーム2年連続シェアNo.1を獲得している。なぜ、ここまで急速に拡大したのか。


「当初から低コストを実現し、大規模運用を想定したプラットフォームとして開発しました。その価値を評価いただけていると考えます」



技術者魂を発揮し、ハードウェアコストを劇的に削減

Actcastの特筆すべき点は、エッジAIのハードウェアに安価な英国発デバイス「Raspberry Pi」(ラズパイ)を使用していることだ。ラズパイは1台数千円程度。クレジットカードほどのコンパクトサイズで、汎用エッジデバイスとして広く普及している。


高度なAI解析にはそれが処理できるだけの高性能なコンピュータが必要なため、数十万円といった高価なデバイスを用いることが通常だが、ラズパイの活用により導入コストを従来の数十分の一に圧縮することが可能なのだ。


ラズパイのような安価なマシンでも、AIモデルを軽量化せずに高度なAI解析を実行できるのは、Ideinが独自の高速化技術を保有していることに他ならない。


ランニングコストも安価であるため、大規模導入しやすいのもActcastの大きな魅力。多くの面(店舗)を持ち、顧客接点の多い大手小売では導入が特に進んでおり、全国の店舗で一斉にAIカメラを導入するなどして規模が数千台に膨らんだ。


さらに大手百貨店では店舗運営の効率化やプロパティマネジメントなどデータの多様な利活用に向けて、Actcastを活用した顧客分析の実証実験を行なっている。このような大企業での導入が相次いだことから、登録台数の拡大に拍車がかかったのだ。

本来、エッジAIを働かせるためには相応の処理能力を持つハードウェアが必須だった中、安価なラズパイに目を向けた中村。その理由とは?


「創業直前、ラズパイに高性能なGPUが搭載されていながら、活用されていないことを発見しました。このGPUを利用すればAIを動かせると気づいたのです。とはいえGPUをAI用途で使用するためのツール群の開発は極めて難しく、受託開発の案件などが重なり開発に集中できない日々が1年くらい続きました。


なかなか腰が上がらなかった中、着手するきっかけとなったのがエンジニア界隈で人気の『アドベントカレンダー』でした。クリスマスに向けてブログで技術ネタを披露するというお祭り的なイベントで、これに便乗するかたちで3日間ほぼ徹夜して最初のツールを完成させたんです」


こうしてコンパイラでGPUの処理能力を活用し、最先端のAI解析を行うIdein独自技術が誕生。ラズパイの未利用領域の発見により、エッジAIデバイスの低コスト化が実現したのだ。

子どもの頃から数学と物理にのめり込んでいた

東大時代にスーパーコンピュータの研究に没頭した経験を発揮した中村。どのような生い立ちを歩んできたのか。



中村は1984年、遺伝子工学の研究を行う父と、助産師の母の長男として名古屋に生まれる。その後父の仕事の都合で岩手県へ移り住み、幼少期から高校までを岩手で過ごす。父の仕事の影響もあり、物心ついた頃から科学に興味を持ち、図鑑を読んでいた。


中学からは数学と物理にのめり込んだ。教科書を片っ端から読み、休み時間にひたすら数学の問題を解くといういわゆる“ガリ勉”だった。言うまでもなく成績は優秀で、高校の物理の模試では全国2位に輝いたことも(1問だけ不正解で満点を逃したためとのこと)。


中学、高校は吹奏楽部に所属。東京芸術大学の音楽理論を研究する「楽理科」を志望しており、高校2年までピアノのレッスンを受けていた。しかし、「東京芸大に受かるのは難しい」「得意な数学や物理を活かさないのは勿体無い」という周囲のアドバイスもあり、東京大学に進んだ。

コンピュータに取り憑かれた東大時代

大学入学当初は物理学者になりたいと考え、教養課程の間は理学部物理学科を目指していたという。


「宇宙が好きだったので、物理学研究会というサークルに入り、天体のシミュレーションを行うプログラムを作っていました。ただ計算量が多すぎて、普通のノートPCでは処理できず、解決の道を探す中で計算機科学という分野を知って。そこからスーパーコンピューターに面白みを感じ、理学部の情報科学科に進みました」


情報科学科では「CPU(中央演算処理装置)実験」という、プロセッサーの回路やソフトウェアをゼロから作るという課題に没頭した。一方で、好きな授業ばかり出席して、英語などの必修科目にはほとんど出ていなかった。その結果、3回留年。卒業は半ば諦めていたが、CPU実験で成果を出していたことが評価され、大学院に進学。スパコンを専門に研究する研究室に進むことになる。


最適化コンパイラという技術の研究を行う中、人生の転機となる出来事が訪れた。


「当時、米プリンストン高等研究所の教授が指導教官を訪ねていて、たまたまその人に研究内容をプレゼンすることになって。そうしたら『面白い!来月から来なさい』と言われ、その2か月後に渡米しました」



同研究所では異なる分野の研究者たちが議論を重ね合いながら、各々が好きな研究に取り組むというスタイルだった。自由な環境こそがクリエイティブな発想につながると実感した。


「学問的な学びは山ほどありましたが、最も大きな収穫は個人で生きるという道を知ったことです。企業や研究所といった組織に属さずに活躍する“一級品”の人間ばかりで。過ごしたのは2カ月だけでしたが、間違いなく人生の選択肢が増えた時間でした」

「ソフトウェアで実世界のデータを取得したい」と、起業を決意

帰国後は、プリンストンで築いた人脈を活かし、京都大学や神戸大学などの研究グループに個人として参加した。さまざまな人と会う中で、大学に残るのではなく、自身で新しい“コト”を模索する道を探し始めた。そんなある日、突然思い立ったように起業を決意したという。


「現在、Ideinのビジョン・ミッションとして『ソフトウェア化された世界を創る』『実世界のあらゆる情報をソフトウェアで扱えるようにする』を掲げていますが、その根底には東大時代、スパコンの中でさまざまな仮想空間をシミュレートする研究に関わっていた経験が深く影響していると思います」


Ideinという名前、ロゴに託す想い

社名はアイデアの語源で、ギリシア語で見る・知るという意味を持つ「イデイン(Idein)」が由来だ。世界中のさまざまなアイデアを実現できるプラットフォームを作りたいという想いが込められた。

ロゴは日本神話に登場するカラスで、導きの神と信仰される「八咫烏(ヤタガラス)」がモチーフ。「知性で勝負したい」と知的なシンボルを探す中、たどり着いたのがカラスであったという。

初期メンバーは、創業前に中村が講師を務めていたプログラマー向けの数学勉強会の聴講生などで構成された。共同創業者・CTOの山田とはこの勉強会で知り合っている。


創業初期はActcastの原型である、電球型カメラ「Actbulb(アクトバルブ)」と遠隔管理のプラットフォームサービスを構想していた。Actbulbの開発には2年ほど費やしたが、金型を作るだけで数千万円必要であり、当時の資本力では量産までたどり着くのが困難であった。一方でエッジAIの需要が伸びることが予見されたため、2018年からActcastにフォーカスした。


Actcastという名前は「Act(アクション、アクティビティ)」をインターネットに「cast(投げる)」というコンセプトを表現。実際にプロダクトもactとcastという名称の仕組みで構成されている。

Actcastはα版として2018年12月にリリース。当時はどのような反応だったのだろうか。


「エッジAIは注目され始めていたので関心を頂く場面は多々ありましたが、『どうやって使うの?』『実世界のデータを集めてどうするの?』と、キラーとなるユースケースを見出すことに苦労しました」


転機となったのが、米国・ラスベガスで開催される世界最大級のテクノロジー見本市「CES」であった。Ideinのブースに総合商社の担当者が偶然立ち寄ったことがきっかけとなり、全国展開する小売大手での採用が決定。登録台数が急激に伸び始めた。その後も積極的に営業活動を推進。徐々に商談も増え、ローンチ半年でパートナーは70社を超えた。


現在では、Actcastの認知度は確実に高まりつつある。引き合いもα版リリース時と「雲泥の差」と中村は笑う。


「技術力がいかに優れていても、売れるかどうかはまた別の話。まず知ってもらわなければ意味がないので、営業やマーケティング・PRはやはり不可欠ですね」

未来のモビリティ社会を見据えて

アライアンスへの取り組みにも注力。多彩な技術やフィールドを持つ企業と事業展開を行う。エッジAIは今後、生活の身近なシーンで活用され、新たなソリューションが誕生すると想定されている。その代表格となるのが、自動車やドローン、ロボットなどのモビリティだ。技術の進歩によってこれらは着々と自立化し、極めて大事な社会インフラとなると中村は捉えている。


そんな未来のモビリティ社会を見据え、2023年2月に株式会社アイシンと共同で開発したのがエッジAIカメラ「AI Cast(アイキャスト)」である。


個人の存在感を発揮してもらいたい

2022年末には、Ideinの新Value「Dots&Circle」を制定。旧Valueの制定時よりも社員が増えたため、組織としてのメッセージを改めて伝えたいという想いからだ。

社員一人一人が置かれた現状に対し、未来への想像力を働かせながら高いパフォーマンスを発揮し続けていく。その点(ドット)が重なり合うことで好循環(サークル)が形成されていく。そんな組織を目指しているという。



エッジAIプラットフォームへと急成長を遂げている今、社員にどのようなことを期待しているのだろうか。


「スタートアップというチャレンジングな環境に飛び込んでくるのは優秀である証。個人として存在感をどんどん示してもらいたいと思います。この先100人、1000人と規模が拡大した時の技術やカルチャーは、今の社員たちが作り、伝えていくもの。チャンスはどこにでも転がっているので、力を発揮してもらいたいです」


最後に、中村が目指す未来を語ってもらった。


「Actcastは十分価値があると手応えを感じました。次のフェーズはプラットフォームとして離陸させること。Ideinだけではなく、第三者が自発的に使っていく段階であると考えます。近年ではベンダーエコノミクスが立ち上がりつつあるので、パートナーのアクティベートがより重要となってくるでしょう。


また海外進出も視野に入れており、まずは世界各地に拠点を持つパートナー企業と共に、北米でのシェア獲得を目指していく予定です。また会社の一つの節目として上場も目標としています。いつかは鐘を鳴らしてみたいものですね」



「国内シェアNo.1」について

デロイト トーマツ ミック経済研究所 『エッジAIコンピューティング市場の実態と将来展望 2022年度版』(https://mic-r.co.jp/mr/02530/) 「エッジAIプラットフォームのベンダシェア(台数)」の調査結果に基づく




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