情報が失われる過程で起こるのが、量子の「スクランブル」で、これにより1つの量子の情報がシステム全体に拡散され混ざってしまう。
カリフォルニア大学バークレー校、メリーランド大学らの研究チームは、7量子ビットの量子コンピュータを使ってスクランブルを再現した。
・量子もつれによる情報転送を測定
研究チームは、スクランブルによる影響を調べるために「量子もつれ」による情報転送を利用している。量子がもつれた状態では、スピンのタイミングや向きが一致するなど、お互い離れていても一方の量子の状態がもう一方の状態を決定する。したがって、離れた量子の情報が転送できるというわけだ。ブラックホールでは、「事象の地平線」付近からわずかにエネルギーを放射している(ホーキング放射)ことがわかっているが、もつれた量子をブラックホールに落とし、出現するホーキング放射に対して大規模な量子計算をおこなうことで、理論的にはブラックホール内の量子の状態を観測することができるという。
・3量子ビット量子回路でスクランブルを実証
実験では、タイミングが異なる2つの量子状態を比較することで、もつれた量子の情報の取得精度の指標となる関数(OTOC)を作成し、これを測定している。研究チームは、7量子ビットの量子コンピュータのうち3量子ビット上に量子のスクランブルを再現する量子回路を作成。その結果、作成したOTOCが崩壊することを明らかにした。
量子同士の干渉による影響を調べた結果、量子状態の半分がスクランブルにより崩壊し、残りの半分が量子同士の干渉によるものだったとのこと。
あくまで、スクランブルはブラックホールで起こっていることを説明する1つの理論にすぎないが、3量子ビット量子回路でスクランブルを実証できたことは有益だ。
参照元:Physicists Use Seven-Qubit Quantum Computer to Simulate Scrambling inside Black Holes/Sci-News