そんななかMITの研究者らは、不完全な情報からより精度の高い診断結果を導き出すべく、複数のタイプの健康データを融合して扱える手法を開発した。
診断の際に用いるデータにはあいまいなものが含まれていることがある。例えば、正確性が怪しい痛みのレベルの自己報告などだ。
今回開発した手法は、モデル間のコミュニケーションによって欠けている情報を補うものだ。
・患者の感情や痛みのレベルの予測が可能に
研究者らは、「睡眠心臓健康調査2(SHHS2)」のデータセットにてネットワークをトレーニング。データは脳波(EEG)、心電図(ECG)、呼吸パターンの測定値に加え、幸福度、疲労度、社会性…といった聞き取り調査からの情報を含んでいた。トレーニングでは、ネットワークは各変数が他の変数にどのように影響するかについてのパターンを学習する。例えば、長いあいだ息を止めているのは緊張の表れかもしれないし、痛みを示している可能性もありこれらの判別を要する。
実験では、ネットワークが他の情報のいずれかに基づいて、8つの情報のいずれかを70~80パーセントの精度で予測できた。
・サブモデル間のコミュニケーションで予測値を修正
同手法では2つの革新的技術が用いられている。サブモデルの設置とサブモデル間の相互通信だ。ニューラルネットワークは、複雑なデータを処理するために各ノードが相互接続して形成されている。研究者らは、ネットワークを入力データそれぞれにマッチするよう調整されたサブモデルに分割した。
一般的なニューラルネットワークでは、単一ノードが、比較的単純な計算から次のノードに送信する出力値を導き出す。今回開発したネットワークではサブモデルを実装することで、各ノードはより複雑な計算ができる単一のネットワークとして機能する。
・痛みや疲労のレベルの定量化へ
また研究者らは、ネットワークで予測を進めつつ、サブモデルが互いに通信できるようにする、「双方向推論ネットワーク(BIN)」と呼ばれる技術を開発した。この技術は、「バックプロパゲーション」として知られるトレーニング技術の応用だ。バックプロパゲーションは、データが一方向で処理されるのではなく、計算エラーを前のノードに送り返してネットワークのパラメータ値を更新する。
BINでは、出力値から入力値を予測して前のノードに送り返す。すべてのサブモデルは相互に依存し合うネットワークを形成していて、各ノードの出力値は随時変更されていく。
現在研究者らは、ネットワークを実装したデバイスを開発しようとしている。同デバイスでは無線信号により呼吸と心拍数を追跡。これらのデータから患者の感情を推測する。
このように同技術の応用範囲は広く、痛みや疲労のレベルなど、あいまいな健康データを限られた情報から測定するのにも役立つだろう。
参照元:Filling the gaps in a patient’s medical data/MIT News