この新しい技術を用いれば、従来は何年もかかっていた分子構造の解析が数分で完了するという。また、これまで研究がむつかしかった複雑なタンパク質の構造解明に役立つ可能性もある。
・分子の形を測るのに原子核スピンの変化を利用
一般的なNMRは原子核の磁気特性を利用して、分子構造を解析する。水素原子や炭素原子には原子核スピンを持つ同位体原子が存在するが、分子の形質測定ではこれらを原子核スピンと相互作用する磁場にさらす。原子核スピンに働く磁場や共鳴周波数に起こる変化(化学シフト)は各原子で固有なものなので、原子どうしがどのように接続されているかを明らかにするために活用できるのだ。
原子核スピンの集団を磁場の中に置くことで、ランダムだった向きが上方向/下方向に整列するが、NMRの感度はこの変化の大きさ(分極)によって決定する。分極が大きいほど感度が高くなり、またより高い磁場を発生させることでサンプルの分極を強化する。
・110年近くかかっていたサンプルを1日で検査
MITの研究者らが過去25年間にわたって開発してきた分極を強化するためのアプローチは、従来から用いられている「動的核分極法(DNP)」に似たものだ。DNPは通常、サンプルに高周波のマイクロ波を連続的に照射することによって分極を強化する。これはNMR感度を約100倍向上させる。しかしながら、この手法には大量の電力が必要で、高い磁場ではうまく機能しない。
この問題を克服するためにMITの研究者らは、連続的なマイクロ波照射ではなく、短パルスのマイクロ波照射した。これにより、分極が最大200倍まで向上。必要な電力はDNPのわずか7%で、より高い磁場での適用も可能となった。
NMRの感度向上により、以前は分析に110年近くかかっていたサンプルを1日で検査することができたという。
今後はより複雑な分子で同技術を活用していくとのことで、アルツハイマー病患者の脳に蓄積するタンパク質「アミロイドベータ」の解明なども進むと考えられる。
参照元:Enhanced NMR reveals chemical structures in a fraction of the time/MIT News