中国はすでに通信衛星からの量子もつれ配信を行う実験を成功させているほか、日本でも情報通信研究機構(NICT)が、小型衛星を使っての量子通信の実験をおこなっている。
こうした世界情勢に後れをとるまいと、シンガポールとイギリスが手を組んだようだ。
・重量12kgの通信衛星を目指す
シンガポール-イギリスは、2021年までに小型量子通信衛星を打ち上げることを目指し、共同プロジェクトを開始した。両国の戦略は、量子通信の分野で先行する中国よりもはるかに小型で低コストな量子通信システムを開発し、広域をカバーする通信網を展開すること。
中国の通信衛星の重量が600kg以上あるのに対して、シンガポールの開発する「QubeSat」は最終的に約12kgにまで軽量化する計画だ。ただ、通信衛星を小さくすればバックアップシステムなどを搭載する余裕がなくなり、冗長性を犠牲にせざるをえない。
このため、シンガポール国際大学の量子テクノロジーセンターが、発進の振動や宇宙での温度変化などを綿密にシミュレートし、そのうえで性能テストを実施。極力故障が起こらないシステムを設計しているようだ。
・ピンポイントでの光子の送信にイギリスの技術を活用
次のステップでは、宇宙から地上の基地局に向けて量子鍵をうまく送信する課題に取り組んでいく計画で、課題クリアにはイギリスの持つ専門的技術力が不可欠となる。通信衛星が量子通信で地上とやり取りする際には、自分の位置を極めて精密に調整しなければならない。そのため全ての通信衛星は、継続的に軌道をトラッキングする必要がある。また、光子を捉えるためには基地局の望遠鏡の角度を微調整し、光子を追跡する必要がある。
いままでCubeSatでは、このような精密な位置制御を実現するのは難しかったが、イギリスの開発チームのナレッジを活用することでこうした技術を開発していくという。
将来的には、通信衛星による量子鍵配布ネットワークは、現行のペイメントシステムやデータ通信の一部を置き換える可能性がある。
CubeSatのサイズが縮小できて、量子通信システムの開発に成功すれば、量子通信が世界に広がるきっかけとなるかもしれない。
参照元:Singapore and United Kingdom Plan Quantum CubeSat for 2021 Launch/IEEE Spectrum