これによりFordは、NASAに10万ドル(約1140万円)支払って「D-Wave 2000Q」を1年間使用する。
量子コンピュータの活用に関しては、すでに同業者のVolkswagenが先行しており、北京での悪名高い渋滞のなか、1万台のタクシーの経路を最適化する実験で成功をおさめている。
このように、自動車業界で加熱する量子コンピューティング技術の導入競争だが、従来のコンピュータよりもはるかに高速な演算処理が可能な量子コンピュータを、いったいなにに活かそうという算段なのか。
・巡回セールスマン問題の解決に
量子コンピュータは量子ビットを用いて情報を符号化し、大規模な並列演算処理を可能にする。なかでも、D-Waveのような量子アニーリング方式の量子コンピュータは、組み合わせ最適化問題の解決を得意としており、複数のルートから最も効率的なものを選び出す、いわゆる「巡回セールスマン問題」の解決にも向いている。
車の走行では、立ち寄る場所が増えるほど目的地までのルートが複雑化する。一般的なコンピュータで最適なルートを求めようとすると膨大な処理時間を要することになる。そこで、量子コンピューティングプラットフォームが活用できないかを探っているわけだ
今回の契約では、FordからNASAの研究者に最適化問題をが提示され、D-Waveによって得られた結果のフィードバックを受ける。また、Fordの研究者にD-Waveの使用方法が伝授され、定期的なアクセスが許可される。
・具体的な活用についてはまだ先
Volkswagenは現在、自律運転車両が環境とやりとりする際などに、処理スピードの高速な量子コンピュータを活用しようとしているようだが、Fordは今のところまだ、具体的な活用手段を探っている段階だ。同社は自律走行研究のために、今後5年間に40億ドル(4560億円)を投資する意向を示しているが、この計画に量子コンピュータの導入は含まれていない。
量子コンピューティングにより巡回セールスマンの問題が解決できることは間違いないが、Fordは、量子コンピュータが既存の技術よりも優位性があるかを十分検証する必要があると考えている。
ただしFordも、長期的には量子コンピュータを活用していくスタンスをとっており、"高価なお試し期間"はしばらく続くと見込まれる。
参照元:Ford Signs Up to Use NASA’s Quantum Computers/IEEE Spectrum