そんななか東芝が、量子の持つ不確実性を利用して機能する暗号化技術を実用に近づけたようだ。
「量子鍵配信(QKD)」と呼ばれるこの暗号化技術では、1bitの情報を1光子として送受信。光子の状態の変化から不正なデータへの干渉を確実に検出できるという。
同技術において世界的にリードする東芝は、通信速度を従来の5倍に引き上げ、さらには周辺環境からの干渉がQKDの安定性にどう影響するかを明らかにした。
・実用性十分な鍵配信速度を実証
東芝は、ここ数年間、日本と英国でQKDの実証実験をおこなってきた。最近の東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)との共同実験では、1ヶ月間にわたって安定した速度(平均10.2Mbps)での量子鍵配信を達成している。同実証実験では、QKDの管理システムを開発し、データ暗号化ソフトを組み込んだ。
一般的な光ファイバ回線を用いたQKDにより、2つのサイト間7kmで、ゲノム解析データを送受信。2016年に東芝欧州研究所によって確立されたQKD速度1.9Mbpsの約5倍に相当する配信速度を達成した。
・エラー修正速度を向上
QKDでは送信側で光子の位相をランダムに変調して0か1にセットする。受信側では光子の位相に基づいて暗号鍵が生成され、送信データを暗号化/復号化する。こうして暗号化されたデータは、今ある技術を使っての第三者による解読が不可能だ。ただ、量子の状態を保つことは難しく、エラー修正がシステムのボトルネックとなっていた。今回はこれが改良され、システムの後処理速度が大幅に向上した。
また実証実験では、加速度センサーと温度センサーを組み込んだマルチセンサーデバイスにより光ファイバ回線をモニタリング。気象や振動など環境の変化が高速QKDにどうに影響するかを見て相関を明らかにした。今後はこれをもとにQKDシステムの安定性向上に取り組んでいく計画だ。
東芝は実験環境下においてはすでに、英国で240km、東京では45kmの光ファイバ回線を用いた実証実験を成功させている。また、5月には「Twin-Field QKD」という、光子を両端から中央に向かって送信する規格を発表し、通信距離を2倍(500km以上)に拡張している。
今回の実証実験は、実用に近い環境下での実証実験を成功させたという意味で、商用化への重要なステップとなる。
参照元:Quantum Technology Promises Practical Cryptography With Unbreakable Keys/IEEE Spectrum
High-speed quantum cryptographic communications with key distribution speeds exceeding 10 Mbps in a real-world environment/Toshiba