しかし、スピーカーから耳に音が届くまでの時間は数十マイクロ秒。マイクを耳に近いところに配置しているがために、計算に使える時間が短く、どうしてもキャンセルできる音の周波数帯域が制限されてしまう。
このため、打ち消せない高い周波数のノイズを遮るのに吸音材で耳穴を覆う必要があった。
このほどイリノイ大学の研究者らは、イヤホンからマイクを取り除き、ワイヤレスネットワーク上に外部化することに成功した。ノイズキャンセリングシステム「MUTE」は、吸音材で耳をふさがなくてもよいので、そのぶん軽量化も可能だ。
・プレミアムノイズキャンセリングヘッドフォンよりも高性能
マイクはノイズ源の近くに配置し無線で転送した。音波より100万倍高速な無線信号の性質により、音が届くまでにノイズをキャンセルするための計算時間が生まれる。計算時間に余裕ができたぶん、システムはより複雑なノイズに対応できるというわけだ。
こうして開発されるシステムは、プレミアムノイズキャンセリングヘッドフォンの性能を超える可能性がある。
実際、BoseのプレミアムノイズキャンセリングヘッドフォンにMUTEを組み込んだ結果、従来のBoseヘッドフォンがアクティブノイズキャンセルできる帯域が0~1kHzなのに対して、0~4kHzの帯域でノイズキャンセルできることを証明した。
研究者は、耳の中にぴったりと納まる円筒形のイヤホンを開発する計画だ。外耳道をほとんどふさがないことで、より自然で快適にイヤホンを着用できるだろう。
・外部にマイクを設置することによる制限も
ただし、外部にマイクを設置することによる実用面での制限もある。1つは、今のところ主要なノイズ源のみしかシャットアウトできないこと。これを解決するために研究者は、ノイズを区分できる音源分離アルゴリズムを適用することで、複数のノイズ源に対応することを考えている。
もう一つは、外部マイクが、イヤホンをつけている人よりノイズ源に近くなければならないこと。つまり、環境からの音をすべて遮断するには、イヤホン着用者の周りをマイクで取り囲む必要がある。
ノイズキャンセル性能・快適さとポータビリティはトレードオフ。MUTEは、オフィスや自宅、ジムなど特定の場所での据え置きとしての活用に限られる。
にも関わらず、同技術が有用なことに変わりはなく、例えばコールセンター用の大規模なノイズキャンセリングシステムや、建設現場の近くの住人への配慮など、幅広く活用できそうだ。
参照元:New Wireless Noise-Canceling Tech Is Faster Than the Speed of Sound/IEEE Spectrum