1世紀以上にわたって模索されてきた水陸間の通信技術だが、このほどMIT Media Labの研究チームが、水面下の信号を水面で変換することで、シームレスに地上に伝える技術を開発した。
同技術は、潜水艦との通信だけでなく水中探査などでも有用だろう。
・ミリ波レーダーを利用して水面の動きを検出
現在、水中での通信の多くは超低周波(ELF)を利用している。3~300Hzの電波は水中でも遠くまで伝わり、波長の長さは数千キロメートルになることもある。ただアンテナが相当大きなものになるため、すべての潜水艦に設置するわけにはいかないようだ。
研究チームは、水中と地上どちらにも通用する電波を探るのではなく、水中から発信した音響信号(ソナー)を水面で変換する方法を思いついた。
研究チームが開発した「TARF(Translational Acoustic-RF)」と呼ばれる通信技術では、水面の微妙な変化を検出するために、ミリ波レーダーを利用している。
・実用までにはまだまだ課題も
TARFでは、水中に設置したスピーカーから水面に向かってソナーを送信。ソナーは水面で反射してしまうため、水と空気の境界を越えられないが、水面をわずかに動かす。水面上8cmのところに受信機を設置し、ミリ波レーダーを照射して水面の動きを捉えることで、水中からの通信内容が読み取れる。
ただし、繊細な動きを捉えるには水面に近接したところに機器を設置する必要があり、波が8cmよりも高いことから、現時点では実用的ではない。
また、このシステムでは地上から水中に向けて通信できないのも弱点だ。
・将来的には水中のセンサーからのデータ収集にも
このように、実用までにはクリアしなければならない課題がまだまだあるTARFだが、将来的には水中との通信を可能にするだろう有望な技術だ。同技術は、潜水艦と通信するためだけでなく、学術的用途などで幅広く活用できるだろう。たとえば、海洋生物のモニタリングなどで水中のセンサーから送られてくるデータを、ダイバーがわざわざ回収に行かなくても地上から収集できる。
また、TARFを飛行機に搭載し、海上で事故が起きた際にソナーを発信することで捜索が早くなる。研究チームは、上記の課題克服やデータレートの改善を進めていくとのことで、水陸間通信が実現する日も近いだろう。
参照元:MIT Researchers Develop Seamless Underwater-to-Air Communication System/IEEE Spectrum