GPS衛星にも搭載されている原子時計だが、一般的に大掛かりな設計が必要だ。近年では米国防高等研究計画局(DARPA)がチップサイズの原子時計を導入しているが、こちらについては高価で、消費者向けのデバイスに組み込むのは現実的でない。
そこで、MITの研究者チームはたちは、原子の替わりに分子の回転に共鳴して正確な時間を刻む時計を開発。オンチップの分子時計は、スマホをはじめとするデバイスに搭載できて、時計やナビゲーションの精度を大幅に向上させる可能性がある。
・現行のスマホよりも1万倍安定した時間が得られる
原子と同様、分子の回転は一定で、MITの研究チームによる新技術では、これによる周期的なエネルギー出力を時計の基準として利用する。実験では、分子時計は1時間当たりのエラーが1マイクロ秒以下に調整された。これは、小型原子時計に匹敵し、スマホに搭載されている水晶発振器を用いた時計の1万倍安定していることになる。
分子時計では、原子時計で使われる絶縁のための部品が必要なく、したがって、これに使う電力も必要ない。このため、安価で技術的にもスマホのチップ上に乗せられる。
一般的なスマホのGPS、Wi-Fi、LED照明といった機能では数100ミリワットを消費するのに対し、チップの消費電力はわずか66ミリとのこと。
・衛星からの時間情報の代替に
スマホなどで位置情報を取得する際は、3基の衛星からブロードキャストされたGPS信号を活用して三角測量のようなことをしている。
より正確な位置を把握するために、4基目の衛星信号から時間情報を得る必要があるが、これによりナビのスピードとパフォーマンスが犠牲になる。
また、信号が反射する建物やトンネルで囲まれたエリアでは衛星からの信号が弱まるため、スマホは主に時計と加速度計を使用して現在地を推定している。
もし、スマホの内部に原子時計並みの正確な時間を持つことができれば、4基目の衛星の役割を担えるだろう。
研究チームは、分子時計の消費電力やエラーレートをさらに改善し、将来的にはすべてのスマホのチップに搭載することが目標だ。
参照元:Molecular clock could greatly improve smartphone navigation/MIT News