日本では書店で本を買って読んだり、電子書籍をダウンロードして読んだりと目で文字を追うことが一般的だ。しかし、海外に目を向けるとオーディオブックという本を「読む」のではなく、「聞く」スタイルが日本以上に人気がある。今回は「audiobook.jp」を手掛ける株式会社オトバンク取締役CTOの佐藤氏に、オーディオブック市場の現状と将来性について伺った。
着目したのは「耳のスキマ時間」
Q1.海外ではオーディオブックは広まっていて、特にアメリカでは1600億円の市場規模にまでなっています。なぜ日本でチャレンジしようと考えたのですか。
スマートフォンが出てきて、消費者の目の時間は奪い合いになっています。そんななか、意外に空いているのが「耳の時間」なんです。音声コンテンツは、耳さえ空いていればよいので生活のあらゆるシーンで「ながら」で楽しむことができます。ユーザーの方からも、「一度使うと耳がさみしく感じるので聴くのが習慣になる」という声をいただくことが多く、使ってもらえれば自然と生活に浸透しやすいサービスだとも思います。また、米国のオーディオブック市場もまだまだ伸びていて、2018年第1四半期(1月~3月)のオーディオブックの売上は前年の同時期と比較して32.1%増となりました。一般的に書籍市場全体の5〜10%相当がオーディオブックの市場に当たるといわれており、日本のオーディオブック潜在的市場も1,000億円程度と考えられるため、今後コンテンツを引き続き増やすことで市場はまだまだ伸びていくと思います。実際に、月間の登録者数が前年比で3~5倍に増えてきているので、「耳のスキマ時間で読書を楽しむ」のを文化として広げていければ、これからさらに市場拡大が加速していくと思います。
Q2.アメリカでは車でオーディオブックを聴くことが多いと聞きます。日本ではどのような利用シーンでaudiobook.jpが使われていますか。
1番多い利用シーンは、通勤通学中の「移動時間」です。平成28年に行われた総務省の調査によると、日本における通勤時間の平均は1日当たり1時間強。移動時間を「ながら読書」に充てて、スキマ時間を有効活用されている方が多いです。ほかにも、「家事の最中」や「入浴中」「メイクの最中」「農作業中」など利用シーンがかなり細分化されていて、ユーザーの方それぞれの生活シーンに合わせたスキマ時間でご活用いただいています。
Q3.3年で3倍のユーザー数が増えたとのことですが、どのような広告戦略を行なっているのでしょうか。
広告戦略は、ほとんど行ってきませんでした。というのも集客よりも「ユーザー理解」が重要と考えていて、これまで定量・定性データをもとにスピーディーにサービス改善していくことを優先してきました。また、これまでは書店の棚を埋めるようなイメージでオーディオブックをまずは増やしていくというフェーズでした。広告を大々的に打ってお客様にお越しいただいても、棚がスカスカだとがっかりさせてしまいます。そのため、まずはコンテンツの拡充というところに重きをおいてきました。近年では、年間のベストセラーに入っている作品や芥川賞の受賞作品なども配信が増えており、「聴きたい」という作品がある状態には近づいてきているのではないかと思います。
「耳でも読書できる」 という文化を広める
Q4.AIスピーカー向けのコンテンツ作りは今後予定していますか。AIスピーカーとの連携は検討しています。音声というジャンルにおいて、最近ではさまざまなスタートアップやサービスが生まれてきているので、オーディオブックとしても、新しいことにどんどんチャレンジしていきたいと考えています。Q5.最後に今後の展望について教えてください。
2007年からスタートしたオーディオブックの配信サービス「FeBe」(フィービー)を、2018年3月に「audiobook.jp」へ全面リニューアルいたしました。それに伴い、月額750円の聴き放題プランも開始し、「オーディオブックって何だろう」と気になった方がすぐに試しやすい環境になってきたかと思うので、オーディオブックそのものの認知を広げること、そして試していただき音声による読書の楽しみに触れていただくこと、最終的にはオーディオブック市場と書籍市場の拡大に繋げ、「耳でも読書できる」ということが当たり前な世界にできたらうれしいです。
好きな著者の本を耳で聞きながらランニングする。電車の移動中に耳で朗読する。「本を読む」という行為から、まるでイヤフォンで音楽を聞くかのような「ながら読書」が今後広がっていく可能性は大いにありそうだ。
忙しいあなたも、耳は意外とヒマしてる- audiobook.jp