しかし、ここに1つ問題がある。意外かもしれないが、ハラスメントをする側の大半は、自分の行為がどういうものなのか、気付いていないということだ。「ハラスメントを受けたから」と、いきなり辞表を出され、面食らうケースもあると聞く。
相手にとって、どんな言葉が不快なのか、どんな行動が傷つくのか。その判断基準があれば、訴訟や離職といった大ごとには、つながらずに済むのではないだろうか。
5月末にリリースされた「ソレハラ」は、ハラスメントを匿名メールで本人に教える代理通知サービスだ。目的は、被害者・加害者・勤め先が最悪な事態に陥るのを、未然に防ぐこと。そのために、「どこまでがハラスメント行為なのか」を、世代や上下関係の壁を超えて、教え合うのだという。
提供元は、2017年設立のクアレレ。代表の吉田 樹生(よしだ たつき)氏に、話を聞いた。
・会社のメンバーからのひと言が開発のきっかけに
Q1:まずは、このようなサービスを提供するに至ったきっかけから、お聞かせください。
私自身が、「眠いならカフェイン剤を飲めよ」と、同じ会社のメンバーに、言ってしまったことがきっかけです。そのとき、冗談っぽく、「それは、パワハラになるよ」と言われてしまって。気遣っていなかったことを、反省しました。(中略)
アドバイスで言ったつもりが、相手は不快に感じてしまう。その線引きは、なかなか難しいものです。何か気軽に教えられるような仕組みを作れないかと思ったのが、開発の始まりです。
Q2:サービスの仕組みについて、教えてください。
「ソレハラ」は、完全無料の匿名メールから、ハラスメント行為を通知できるサービスです。
まず、(通知する側が)ハラスメントのカテゴリー(セクハラやパワハラ)と、レベル(もしかしたらやっているかも、というものから裁判寸前まで)を選択します。ハラスメントの疑いのある人のメールアドレスと名前(ニックネーム可)を入れて、送信ボタンを押すと、弊社の“ソネレコ”からその人へ、メールが届くという仕様です。
送られてきたメールの中には、「反省している/してない」「感謝している/してない」「身に覚えのある/ない」といった、3つのボタンが用意されています。その反応が、送った人に届くことで、一方的に注意するのではなく、善意で教え合えるような仕組みを提供しています。
・深刻になる前の段階で相手に気付かせる
Q3:セクハラ・パワハラは、かなりデリケートな問題で、やり方によってはトラブルを招く恐れもあるかと思われます。最悪の事態に陥らないよう、サービス提供に当たって、注意していることはありますか?最も力を入れているのは、イメージとライティングです。メールの文面にも、キャラクター性を取り入れています。
最近のフラットデザインによくある、白基調の無機質なウェブサービスではなく、「猫からメールが送られる」という、シュールで可愛いものを前面に出し、“送られた側の怖さ”を、なるべく抑えるように心がけています。
メールに関しては同じ日、同じ人にいっぱいメールが来ないような仕組みにし、暴言や嫌がらせの言葉が入らないよう、フィルタリング機能も実装しています。
Q4:"Me too" キャンペーンに見られるように、今、ハラスメント撲滅に向かって世界が動き始めています。このような時代、このような社会で、 「ソレハラ」はどのように貢献していくのでしょうか。未来の展望をお聞かせください。
私たちは、"MeToo運動"は、最終手段である、と考えています。公の場での実名告発は、する側、される側双方に、大きな精神的負担をもたらします。公の場でのリンチ(私刑)につながってしまう恐れも十分にあるため、最終手段として可能な限り、回避すべきではないでしょうか。(中略)
「ソレハラ」なら、深刻になる前の段階で、相手に気付かせることができます。「身に覚えがあるのか、反省しているのか」の反応も返ってくるので、セクハラに対する自覚の有無など、自分と相手のセクハラの基準みたいなものも、わかるようになります。軽微な段階で、なるべく第三者を交えて、注意を促す。それが、「ソレハラ」の目的です。
ハラスメントは、とてもデリケートな問題。1つ間違えば、自分ばかりか、相手の人生まで狂わせてしまう。まず、よく考えて、そして慎重に行動しよう。本サービスは、そのために存在するのだから。(取材・文 乾 雅美)
ハラスメント匿名代理通知サービス ソレハラ