実際、南カリフォルニア大学は以前の研究で、ニューロンの活動パターンを分析して、記憶が損なわれている場合も正しい活動パターンを再現するモデルを開発。動物実験で記憶の解読に成功している。
そして、今回のウェイクフォレスト・バプテスト医療センターによる研究では、ついに人間に対して特定の記憶に働きかけ、これを書き換える手法が示された。
・ターゲッティングした記憶をピンポイントで補正
研究では、車をどこに駐車したかや、鍵をどこに置いたかなど、比較的容易に書き換え可能な一時的な記憶に焦点を当てた。
ターゲットとなる記憶は細かく設定され、これを補正することに成功している。
まず、てんかん治療のために脳に電極を埋め込んだ14人の被験者に対して、記憶課題を遂行。その間、一時的な記憶と深くかかわる脳の機関、海馬の活動のパターンを記録した。
一度に10~60のニューロンの活動を同時に記憶し、南カリフォルニア大学の開発したモデルを用いてこれを解読、損なわれている記憶に関して正しいものに再合成したとのこと。
・電気刺激で記憶を脳に書き込む
特定の記憶を書き換えるために、各被験者に合わせてカスタマイズされたパターンの電気刺激をターゲット領域に与えた。これにより、ニューロンの発火パターンを変え、記憶を書き換えたかたちだ。
特定の記憶に関連するニューロンの活動を記録し、正しく再合成したものを脳に書き戻すことで、被験者の記憶力が35%向上。特に記憶障害を持つ被験者では大きな改善が見られ、反対にもともと記憶力がよかった被験者では、それほど変化はみられなかったという。
今回開発された技術は、外傷性脳損傷を伴う記憶喪失の治療などにも貢献するものだ。また2月には、ペンシルバニア大学が、記憶が失敗する脳の状態を予測し、これに刺激を与えることで脳の状態を変化させる技法を開発していて、電気刺激による記憶の改善が身近になる日がくるかもしれない。
参照元:Electrical Pulses and Neural Code Boost Memory Storage/IEEE Spectrum