しかし、AppleのARKitで水平面・垂直面の認識精度が向上するなど、ARはいまも着々と進化し、ARオブジェクトがより現実空間に馴染んできている。
こうしたARのバックエンド技術を開発するスタートアップ、Escher Realityが2月にARゲーム開発の巨人、Nianticによって買収された。
Escher Realityの持つ技術と買収に至った経緯について見ていく。
・MITのスタートアップ立ち上げ支援プログラムより輩出
Escher Realityの創始者2人は、2016年の初めに、起業家の資金調達や教育、ならびにスタートアップの立ち上げ支援をおこなうMITのプログラム「サンドボックス」に参加し、企業の原型を築いた。
当時はARテクノロジーを開発しているスタートアップはごくわずかだったが、2人は「ARの能力向上」という漠然としたビジョンをMITサンドボックスでブラッシュアップしていく。
その年の7月にポケモンGOがリリースされ、AR市場を席巻。以来「ポケモンGOをどのようにして次のレベルに引き上げるか」と考えるようになったようだ。
そこで2人は、複数人でゲームをプレイするマルチユーザーや、iOSとAndroidの両デバイスで同じARセッションを提供するクロスプラットフォーム、ゲームの保存などポケモンGOに欠けている機能に気づくことになる。
・マルチユーザーやクロスプラットフォームに必要な技術を開発
Escher Realityの2人は、マルチユーザー機能を提供するために、異なるデバイス同士を低遅延で同期させるアルゴリズムを開発。この技術は複数人のプレイヤーがAR空間上で同じポケモンを見るために必要なものだ。
また、クロスプラットフォーム機能を提供するために、異なる機種のデバイスがアクセスできる「統合レイヤー」を設け、OSによる違いを吸収した。
プレイヤーがARゲームを終了すると、すべてのデータが失われる。これを補うために、物理空間上での仮想オブジェクトの位置をデバイスが記憶しておくアルゴリズムを開発した。
・ARKit公開でEscher Realityの技術が明らかに
2017年8月に、AppleがARソフトウェア開発者向けにARKitをリリース。これにはEscher Realityが1年以上にわたって開発してきた機能が欠如したことから、同社の技術に注目が集まることになる。これに目を付けたNianticは、すばやくこのスタートアップの獲得に動いたのだ。
すでにEscher Realityの開発チームはNianticに加わっており、今年リリースが予定されている「Harry Potter:Wizards Unite」には、Escher Realityの技術が反映されていることが予想される。このリリースがポケモンGO以来のセンセーションを巻き起こすことことに期待したい。
参照元:MIT Sandbox’s first acquired startup gives back/MIT News