生物のような複雑なシステムや動きをロボットが備えるのはとても困難な課題で、これをクリアするのにかかるコストも相当なものだ。
そこで、生き物の持つシステムをそのままロボットに利用してしまおうという試みが進められている。
生き物のロボット化というと、詳しい方ならDraperの「DragonflEye」プロジェクトを思い浮かべるかもしれないが、今回ご紹介するのは、光学的手段によりトンボの神経を直接制御するものではなく、カブトムシの触覚に働きかけるものだ。
比較的、侵襲性が低く容易で、コストがかからないこの昆虫サイボーグ化手法の詳細を見ていこう。
・触覚を電気信号で刺激して動きを制御
シンガポールの南洋理工大学、佐藤裕崇教授が率いるの研究チームは、生きた昆虫と機械のハイブリッドロボットを開発している。
カブトムシの一種にバックパック型の小型電子装置を取り付けて、ここからの電気信号を触覚に送ることで、「何かが近づいてきた」と騙されて、方向を変えるらしい。
刺激の送り方を変えることでカブトムシの動きを調節できて、例えば刺激頻度を上げると旋回速度も上がり(成功率は85%よりも高い)、両方のアンテナを一度に刺激するとバックする。
・昆虫の生態システムをそのまま借用
生きている昆虫をプラットフォームとして活用することで、昆虫の筋肉、関節、神経系や移動能力などをそのまま使えて複雑な設計が必要ない。また、高い制御性と低消費電力を実現できるのも大きなメリットとなる。
わずか2個のコイン型電池を使用することで、8時間の制御が可能で、秒速4cmで1km以上移動できる計算だ。
昆虫は、自重の2倍のものを運べるので、バックパックには各種センサーが搭載可能。
・災害現場での活用を想定
サイボーグ・カブトムシは、災害現場での被災者の発見での活用が想定されている。低コスでの作成が可能なため、数100のサイボーグ・カブトムシを災害現場に放出できるだろう。
体長2~2.5cmと小型なカブトムシは、瓦礫の隙間など狭い場所にも入っていき、被災者を検出すると、救助チームにアラートが送信される。
また、自分の位置と周辺環境の地図を送信することで、レスキューチームの救出計画に役立てられる。カブトムシは、被災者検出時に一旦制御を解除され、自由に歩き回ることで周囲の環境情報を取得。レスキュー完了後に再びコントロールモードに切り替わる。
今後は、制御精度をさらに高め、昆虫のエネルギーを活用した電力供給システムの開発をおこなうことで、5年以内での実用化を目指すとのこと。もっとも、災害現場で活用するレベルに達するにはまだまだ時間がかかるようで、サイボーグ・カブトムシの早期社会実装に期待したい。
参照元:Controllable Cyborg Beetles for Swarming Search and Rescue/IEEE Spectrum