そうした問題を解決するために生まれたのが、「CETRA(セトラ)」だ。ウェブ画面を通じて、犯罪の発生した位置範囲と時間帯を指定するシステムを実現。事件の早期解決に、期待がかかる。
開発元は、2015年創業のプライムサーバント。代表取締役の岩井 泰章(いわい やすあき)氏に、話を聞いた。
・子どもの誘拐事件をなくしたい
Q1:まずは、このようなサービスを提供するに至ったきっかけから、お聞かせください。
子どもの誘拐事件を、なくすことが目的でした。私の実家は、12年前に起きた、奈良小1女児殺害事件の犯人の自宅近くにあります。この事件では、1人の子どもの命が奪われ、犯人逮捕まで、43日を要しました。
片田舎の住宅地では目撃証言も乏しく、既存の捜査方法では、誘拐発生から殺されるまでに助けられない。政府が主導して、街の至る所に固定カメラを設置する方法もありますが、莫大な予算がかかる上、映像が一元管理された監視社会を、招く恐れがあります。
そこで、これまでの治安維持の発想を転換し、市民が主体となることで、迅速性・低コスト・高プライバシーの3点を併せ持つ、映像分散型の防犯システム開発を始めたのです。
Q2:「CETRA」とは、どのようなサービスなのでしょうか。一般的なドライブレコーダーとの違いと併せて教えてください。
「CETRA」は、撮影した映像を警察等へ手軽に提供できる、無料ドライブレコーダーアプリです。既存のドライブレコーダーとの違いは、「動く防犯カメラ」として、位置付けた点にあります。既存ドライブレコーダーでは、子どもを誘拐した犯人の車とすれ違っても、ドライバーがそれを知る術を持たないため、この価値ある映像は、埋もれてしまいます。
「CETRA」では、映像注文システムから事件現場のエリアと時間帯を受信し、これらの映像発掘を試みます。偶然撮影されていた場合には、ワンクリックで対象映像だけを提供できます。このように特定の場所・時間に対する通報手段を獲得したことで、発生した事件への証拠収集に加えて、将来への犯罪予防効果が得られます。
・めざすは市民主体の分散防犯型システム
Q3:システムを構築するにあたって、最も苦労したのはどんなところですか。
抽象的なアイディアを、事業として具現化する過程そのものです。もともと特許業界で生きてきた私には、システム開発能力がなかったため、アイディアで特許を取り、事業化は企業にお願いするつもりでした。(中略)しかし、世の中に何かを本当に出したいのであれば、一番リスクの高い事業化を、自分で負わなければならない、とわかりました。それで、弁理士を辞めて、経営とプログラミングを一から学び、事業化に漕ぎ着けたのです。
リスクを取るということは、今ある安定を捨てること。折れずに続けられたのは、自分の中でビジョンが明確だったからだ、と思います。
Q4:この先「CETRA」は、どんなサービスに育っていくのでしょうか。未来の展望を、お聞かせください。
iPhone版の開発に加え、既存ドライブレコーダーからも、映像を発掘できるよう、専用ライブラリとウェブAPIを近日中にリリースします。これからは、車自体が動くカメラになる時代。「CETRA」では対象とする映像を、車やスマートグラスなど、さまざまなデバイスへ広げていきます。
(将来的には)中国で進められているような一元管理型監視システムではなく、市民が主体となった分散型防犯システムを、身近な市町村を皮切りに、日本以外の国々へも広めていきたいですね。そうすることで、安心安全な社会実現に、貢献していきたいと思っています。
(取材・文 乾 雅美)
CETRA SYSTEM