また、周りの歩行速度や暗黙のルールを無意識に守ることで、スムーズに人の流れに乗った歩行が実現している。
こうしたオペレーションをロボットに教え込むのは至難のわざだが、今後ロボットが歩道や屋内で人や物の運搬をおこなううえで、必要不可欠なものとなるだろう。
MITのエンジニアらは、歩行者の行動を観察しながら、環境のルールに従って自立走行できるロボットを設計している。
このほど、MITのホール内でおこなわれたロボットの試験走行では、歩行者の流れに乗って、衝突を回避しながらの自律走行に成功した。自立走行を実現した技術とはどんなものだろうか。
・最適経路を素早く計算し直しながら周囲の流れと同調
ロボットが人通りの多い環境で自律的に走行するためには、自身がどこにいるかを知る(ローカリゼーション)、周囲を認識する、走行経路を計算する、思い描いた経路での走行を実行する、といったオペレーションが必要だ。
ローカリゼーションと周囲の認識については、オープンソースのアルゴリズムによる環境マッピングや、市販のウェブカメラ、深度センサ、高解像度LIDARセンサの搭載で実装可能だが、最適な経路の決定とそれに従った走行が難題となる。
このロボットでは、そのとき目に入った人から最適な経路を計算し、周囲の流れと同調して移動する。計算を素早く繰り返すことにより、予測不可能な歩行者の動きにもシームレスに対処でき、自然な走行を実現している。
・強化学習により社会規範を獲得
最適経路の計算や周囲と同調した走行といった能力獲得に用いられたのは、機械学習の一種である強化学習だ。
まず、周囲のオブジェクトの速度と軌道を考慮した経路をとるような強化学習がコンピューターシミュレーションにより施された。
現実世界で実施すれば時間と計算リソースを要する膨大なパターンのシナリオから、シミュレーション上で効率よく学んでいる。
・現在は試験運用中
また、ロボットに右側通行という社会規範を教えるために、オブジェクトの左を通ったときにはペナルティを科す、といったトレーニングを実施。周囲の流れと同調した速度と経路の選択は、10分の1秒間ごとにおこなわれ、走行が調整される。
これらによりロボットは、歩行者の流れにスムーズに乗り、通路の右側を維持したまま20分間の走行を成し遂げたわけだ。ときには、左側の人を通過させたりツアーのグループを避けたりといった行動も見られたという。
今回の試験走行は人がまばらな環境で実施されたが、群衆をどう扱うかが次の課題となるという。
このロボットで活用された技術が発展することで、ショッピングモールや空港、病院など混雑した施設での人の輸送や、細い道や歩道を通ってのラストワンマイルの配達にも応用が広がるだろう。
参照元:New robot rolls with the rules of pedestrian conduct - MIT News