・スマホアプリから指令を送り、人工細胞がインスリンを生成
そんな悩める患者たちをサポートしようと、中国の華東師範大学のHaifeng Ye氏らのチームがある研究に取り組んでいる。スマートフォンアプリを通じて人工細胞に指令を送り、インスリンを生成させるというものだ。
チームではスマートホームシステムや遠距離通信技術のほか、細胞療法、オプトジェネティクス(光遺伝学)の技術を組み合わせることを考案。このオプトジェネティクスとは、細胞活動の統制に光を用いる手法で、心臓鼓動や失明の回復、ネズミの捕食本能の刺激など、さまざまな実験研究に使われている。
・特殊なLEDライトを照射
今回の研究でもオプトジェネティクスは重要な役割を担う。電気的信号によって光が生成されるだけでなく、“遺伝子発現”の生物学的プロセスのトリガーの役割も果たす。
チームでカスタマイズした“光感知たんぱく質を含む細胞”は、ワイヤレスで動作する“遠赤LED(FRLs)”を照射されると、インスリンを生成する。
ライトと細胞は、やわらかくて生体適合性がある特殊な“さや”に収められており、糖尿病のネズミの皮膚の下に埋め込まれる。
・血糖値測定メーターが定期的に測定
システムは他にも3つの要素で構成されている。光をリモートコントロールするAndroidベースのスマートフォンアプリ、光を発動するための“電磁回路コントロールボックス”、血糖値を測定してアプリへ送信する“Bluetooth血糖値メーター”だ。
メーターは一定期間が経つと、オートで血中テストが実施されるようにプログラムされていて、送信されたデータを元にアプリが解析をおこない、どれくらいのインスリンが必要なのか判断。その後コントロールボックスがLEDライト照射を実行し、人工細胞がインスリンの生成を開始する……という流れ。
実験では、1日4時間ライト照射を受けたネズミは、15日間生命維持に必要なインスリン生成に成功した。2時間以内の照射であれば、低血糖の副作用を引き起こすこともなかったという。
・現在は実験段階
この技術は現在実験段階であり、電磁波が体に与える影響なども含め、まだまだ解決すべき問題が多くあり、臨床実験に到達するまでには時間がかかりそうだ。とはいえ実用化されれば、毎度苦痛を伴うインスリン注射や、常時血糖値を手動でモニターしなくてはならない労苦から糖尿病患者が解放されることになる。期待して待ちたい。
Science Translational Medicine