たとえば、食品会社の製品による健康被害について争う訴訟であれば、「該当製品が本当に健康被害につながったのか」「どのような被害例があるのか」などの情報を整理して提示する必要がある。たとえ被害者が数百人を超える規模であっても、その分だけの証言記録を作成しまとめなければならない。
ワシントン州シアトルに拠点を置くSupioが開発・提供するAIプラットフォームは、こうした業務に関する弁護士事務所の負担を軽減し、実際に勝訴にまでつなげた実績を持つとして注目を集めている。
重要データを数秒以内に抽出、貴重なインサイトを獲得
かつてMicrosoftのエンジニアだったJerry Zhou氏とKyle Lam氏が2021年に設立したSupioは、大規模言語モデル(LLM)を活用した弁護士向けプラットフォームを提供している。勝訴につながるような重要なインサイトを弁護士が見つけられるようAIが支援してくれるプラットフォームで、対話型チャットボットも組み込まれている。
裁判に必要な資料の整理は、それぞれ発信元の異なる記録や文書を人の手でまとめつつ、PDFファイルやWordファイルで出力するというのが従来の方法だった。複雑かつ膨大な量の記録を整理し、なおかつ訴訟中でもデータを更新できるSupioの製品は、そのような手間を一切省いてしまうという。
同社のプラットフォームを利用する弁護士は、法定で公判中にも重要データを数秒以内に取り出すことができる。関連する判例データを統合、時系列のまとめや法的文書の生成も可能とのこと。こうした省力化・迅速化により、最悪数年を要してしまうような訴訟プロセスの短縮も見込めるという。
集団訴訟での勝訴実績あり、シリーズA資金調達完了
Supioのプラットフォームを採用した法律事務所TorHoerman Lawは、製薬メーカーのAbbott Labsに対する集団訴訟で4億9,500万ドルの損害賠償を勝ち取っている。Abbott Labsの開発した早産児用調合ミルクが深刻な腸疾患を引き起こしていたとして争われた裁判だ。この訴訟に関係する医療記録は4万ページを超える膨大な量だったが、TorHoermanLawによるとSupioのプラットフォームのおかげで「素早く、かつ正確な」データ抽出が実現したという。
そんなSupioは、9月にシリーズAラウンドで2,500万ドルの資金調達を公表したばかり。ラウンド主導はSapphire Venturesが担い、既存投資家であるBonfire Ventures、Foothill Venturesが参加した。
また、「急速に成長中のチーム」である同社は、AI運用アナリストやデータアナリストなど9件のポストで求人を行っている。
膨大な量のデータ整理・情報抽出が必要になる裁判
莫大なデータ群から自分側の主張に有利に働く材料を抽出したデータセットを弁護士が作成・提出する様子は、2019年公開の映画『ビリーブ 未来への大逆転』にも描かれている。今は亡きアメリカ最高裁判事ルース・ベイダー・ギンズバーグを描いた本作で、若き日のギンズバーグと対立する弁護士が、国防総省の知人に掛け合って当時最先端のスーパーコンピューターを借りるというシーンだ。
過去の判例を数万件集めて必要な情報を抽出するといった作業は、人間の手だけではやはり限界に突き当たってしまう。そこでスパコンの出番となったわけだ。この構造は現在も変わらないが、作業効率化の最先端はやはりAI活用だ。AI技術の進歩とともに法務分野が飛躍的に革新されていくことに期待したい。
参照:Supio
Supioプレスリリース
Supioブログエントリ
(文・澤田真一)