「distraction-free」の日本語訳は「気が散らない(集中できる)」だが、直訳は「気を散らすものが無い」である。同ガジェットは、執筆に集中したいのに、PC上に押し寄せる怒涛の通知やアプリの動きに気が散って集中できないといった悩みのニーズにこたえる。
8月22日にBYOKのプロジェクトがローンチされると、わずか3分で目標金額5,000ドルを達成。プロジェクト期間を40日以上残した9月4日時点で、すでに目標達成率は5,000%超、1,700人以上の支援者から約26万ドル(3800万円)を集めている。
BYOKは、テキスト入力に特化したキングジムの「ポメラ」と同じコンセプトだが、BYOK本体はあくまでディスプレイであり、別途キーボードが必要となる(使い慣れた自分のキーボードを使える点がメリット)。本体内蔵メモリに16MBのデータを保存可能で、同期機能を使えばGoogle Driveにファイルを保存可能だ。
本体サイズは約16.5センチ×8センチ×1.4センチとコンパクトで、20時間まで連続使用が可能。クラファンでは23%オフで1台139ドル(約2万円)と価格も手ごろな製品だ。
「ディストラクションフリー」への需要増か
もちろん、機能を制限してテキスト入力に特化した執筆ツールに対する需要は昔からあるが、スマホやSNSが浸透して「気を散らすもの」に囲まれている近年、オフライン環境で集中する必要性がいっそう切実になっているのだろう。2008年11月発売以来のロングセラーであるキングジムの「ポメラ」は、7月に4年ぶりの新モデルが発売されたばかりだ。
新モデルDM250の価格は5万4800円。キングジムは「既存ユーザーの満足度アップ」だけでなく「新たなユーザー層の獲得」も図るとしている。これまでは、ライターや文筆業向けのニッチな製品だったポメラやBYOKだが、ターゲット層がやはり広がっているのだろうか。
英語圏で「distraction-free」という言葉が使われ始めたのは、ポメラ発売より前のようだ。マック端末用のアプリ「WriteRoom」は2006年リリースで、最初期の「distraction-free」執筆ツールの一つとされる。
2015年には、Mediumが「distraction-free」なデバイスを「最新テックトレンド」として取り上げた記事を公開。今回のBYOKのように、当時Kickstarterで大成功を収めたスマートタイプライター「Hemingwrite」を紹介している。
文豪ヘミングウェイの名をもじった同製品も“Distraction Free”が最大のアピールポイント。2014年12月にプロジェクトを開始したHemingwriteは20時間で20万どるの資金を獲得、最終的に1100人近い支援者から約34万ドル(5000万円)を調達した。
ニッチではない「デジタルディストラクション」問題
上述のMedium記事にも「PC以下の性能しかない、dumbed-downされたワープロを使うなんて馬鹿げていると思う人もいる」とあるとおり、敢えて機能を制限した執筆デバイスはニッチな市場だった。しかし、2010年代に入ってから多数の研究者がテクノロジーの使用とデジタルディストラクションに関する研究を実施。携帯電話での通知受信による注意コストや、教室でのデジタルディストラクション(授業に関係のない目的で生徒がデジタルデバイスを使用すること)などについて報告されている。
ライターや文筆業以外の層にとっても、今や「デジタルディストラクション」は他人ごとではない。企業としても、従業員個々人の努力に頼らずディストラクションの少ない集中できる職場環境を構築するメリットは大きいはずだ。
スマートフォンと対照的な「Dumb Phone」のトレンドについては以前紹介したが、「ディストラクションフリー市場」の今後も要チェックだ。
(文・Techable編集部)