各日ともさまざまなトピックをテーマに、国内外から招かれたWeb3起業家や投資家、ビジネスリーダーらがセッションを繰り広げた。今回はイベント2日目に開催された「ブロックチェーン: 制度とインフラ」のセッションを取材。
同セッションに登壇したのは、2020年の誕生からわずか4年で暗号資産の時価総額5位に浮上したSolana、Solanaのエコシステム全体をサポートするWeb3ウォレットのBackpack、機関投資家向けに暗号資産トレーディングサービスを提供するWintermute Tradingの設立者やCEOたちだ。
ブロックチェーン分野における主要プレイヤーのスピーカーらが、ブロックチェーンのエコシステムやインフラをどのように形成しているかについて議論が交わされた。
モデレーターは、Web3コミュニティの構築やWeb3マーケティングの要諦を解説した世界初の書籍『Web3 Marketing』の著者であるAmanda Cassatt氏が務めた。
▼登壇者(敬称略)
・Daniel Albert(Solana財団エグゼクティブディレクター)
・Armani Ferrante(Backpack共同設立者・CEO)
・Yoann Turpin (Wintermute Trading共同設立者)
▼モデレーター(敬称略)
・Amanda Cassatt(Serotonin設立者・CEO)
機関投資家からの資金流入は加速するのか?
まず冒頭では、クリプト業界の発展や将来を左右する機関投資家の動向について話題が挙がった。SolanaのAlbert氏は「ここ数年におけるブロックチェーン技術の進化やエコシステムの成熟は目覚ましい」とし、機関投資家の到来を示す“シグナル”について次のように語った。
「私はSolana財団の設立当初から、Solanaのネットワークの活性化やコミュニティの普及に尽力してきました。そんななか、最近ではPayPalやVisa、Robinhoodといった金融機関がSolanaへの対応を開始し、商業的な取り組みを発表しています。
また、DeFi(分散型金融)の普及だけではなく、過去の暗号資産における市場サイクルを経て開発された金融取引ツールの利便性向上も、劇的に効率を上げて、かつコストを下げたいと考える機関投資家にとっては、とても魅力的な環境が構築されてきていると思っています」
他方でBackpackのFerrante氏は、「機関投資家はより多くのお金を稼ぎ、より多くの価値を生み出す経済的な機会があるか否かを注視している」と述べる。
「価格はいくらか、どれだけの価値が生み出されているか、どのようなインセンティブがあるのかといった観点に加えて、『クリプトへの参入を妨げる制約は何か』という視点も機関投資家は重視していますよね。
それはリスク許容度の問題であると同時に、従うべき規制の中で経済的機会を創出できるのかどうかが関心ごとになっていると言えるでしょう。明確なルールを整備することについては賛否両論あると思いますが、規制面においては日本が確実に前向きな方向へ進んでいる、最も注目すべき国だと思っています」
ミームコインの隆盛から見る「遊び心」と「革新」のバランス
WintermuteのTurpin氏は、課題に感じている2つの点について次のように主張した。「銀行の一部は今のところブロックチェーンを無視していますが、最終的に株式がトークン化されてデジタル証券が台頭してくれば、その技術を理解する必要があるでしょう。
また、機関投資家向けにトレーディングサービスを提供するオーストラリアの『プライムブローカー』などは、DeFiエコシステムへの参加によって『機関投資家のウォレットの管理者になる』ことを望む一方で、必ずしも取引には関与したくないという姿勢です。このような機関では、すべての利害関係者への教育が必要ですし、それにはかなり長いプロセスを要するのが課題だと感じています」
グローバルでは、さまざまなブロックチェーンの制度やインフラが議論され、よりよい方向へと進んでいるなか、モデレーターのCassatt氏は「本当の意味での非中央集権型の分散型プロジェクトはあるのか?」と登壇者に投げかけた。
Albert氏は「Solanaのロードマップは、パフォーマンスとスケーラビリティに主眼を置いており、人々が望むものを何でも構築できるように、最も処理速度が速く、最も取引コストが安いチェーンを作ることを掲げている」と話す。
過去のインターネットの歴史を遡っても、常にイノベーションの最前線は「人々が楽しむこと」だった。面白く、魅力的なアイデアを思いついたら、Webサービスやゲームを立ち上げ、時には無謀に見えることでも“実験”と“挑戦”を繰り返してきたわけだ。
それがクリプト業界においては、トークン発行や資産分配といった「金融的な実験」を意味する。このような価値観やある種の遊び心からBONKやPOPCAT、MEWといった「ミームコイン」のトレンドが生まれ、Solanaのエコシステム成長に大きく寄与したと言えるだろう。
伝統的金融や経済社会との接続で課題となる「規制との整合性」
こうしたなか、Ferrante氏は「根本的にクリプト業界が行き着くところは、検閲に強くて、パーミッションレス(許可不要)で完全な分散型プロダクトやサービスを作ることだ」と意見を述べる。クリプト業界はアービトラージ(裁定取引)ゲームに明け暮れ、誰も何をすればいいかがわからず、明確なルールも定まっていない。だからこそ、それがシステムに多くの脆弱性を生み出し、悪意を持つ人物によるハッキング攻撃の原因となっていると語るFerrante氏は、次のような持論を展開した。
「トークンは多くの利回りを生み出しますが、それ自体は役に立つものではありません。私たちの生活をより良くする物理的な商品やサービスと紐づいて、初めて価値が生まれるわけです。
伝統的な金融システムや経済社会にアクセスし、物理的な場所で顧客にサービスを提供するためには、ルールの順守が極めて重要ですが、その課題について解決すべき問題は山ほどあると考えています」
最後にCassatt氏が、SolanaETF承認の進展やマルチチェーンの相互運用性の実現可能性について問いを立てた。
これに対しFerrante氏は、「インターネットのOSIモデル(コンピュータの通信機能を7つのレイヤー構造に分割したモデル)の観点から物事を考え、将来的にはそのモデルをブロックチェーンに適用するのでは」とコメント。以下の発言でセッションを締め括った。
「ブロックチェーンは、LANケーブルや電波といった 物理層(L1)に位置し、ユーザーが使うアプリケーションはアプリケーション層(L7)になります。経済活動について考えるとき、分散化と検閲への抵抗という制約があり、リスクや流動性の観点からマルチチェーンの共存を考える必要があるでしょう。
純粋に分散化されたオープンなシステムの構築に取り組むには、まだまだ乗り越えなければならない壁がありますが、その先には真に民主化された新しい金融体験が生まれるのではないでしょうか」
(取材・撮影:古田島大介)