カナダ・バンクーバーに本社を置くMiru Smart Technologies(以下Miru)はこの技術をさらに発展させて、手動操作ではなく自動で遮光を調整する次世代のエレクトロクロミックガラスを開発している。建築や交通輸送などの分野でこの技術の商業展開を進めるべく、このほど2000万米ドル(約29億円)を調達した。
インクでコーティング
従来のエレクトロクロミックガラスは、ガラスの間に化学物質の層があり、電圧を印加することで分子が酸化・還元反応を起こして色が変化する仕組みになっている。一方で、Miruの場合はインクを使ったコーティングがベースとなっており、合成化学物質やナノ粒子は不要としている。コーティングされたガラスの間にレイヤーと電流を流すバスバーがはさまれるという構造により、光を遮ることなくそのまま取り込む透明な状態から、完全に遮光する状態にまでガラス全面の色を均一に変化させることができる。
Miruが自社製品を「次世代」と呼ぶのは、こうした技術に加えて使用目的の大きさにフレキシブルに対応でき、カーブさせることも可能なためだ。また、ガラスは曇りや反射などを抑え、完全に透明だとしている。熱やまぶしさを制御しながら、自然光を取り入れるように自動的に調整可能。同社は建物や車の窓などでの活用を想定している。
空調のエネルギー消費を抑制
エレクトロクロミックガラスは、簡単に遮光状態を変えられることが利点だが、Miruの製品は自動的に光の入り具合を調整するため、さらに手間が省けるのだ。加えて、一定の明るさを維持することで室内や車内を快適な温度に保つのに貢献するという。つまり過度な温度上昇などを防ぐことができ、空調などにかかるエネルギーの消費を抑えられ、ひいては二酸化炭素(CO2)の排出抑制にもつながるとしている。同社によると、建物のエネルギー効率を20%高めるという。また、電気自動車(EV)に採用した場合、空調にかかるエネルギーの消費を節約できるためにバッテリーの減りが抑えられ、航続距離が10%伸びるとしている。
ライセンス契約で製品ではなく“技術を提供”
Miruは、この最先端の技術をライセンス契約で建築や輸送などの分野の企業に提供することを想定している。どのガラス加工業者でも従来のプロセスで生産できるとのこと。製品の寿命は30年超を見込んでいる。Miruはエレクトロクロミックガラスそのものではなく技術を提供するため、自社で生産することはないが、同社は北米と欧州にデモンストレーションのための工場を持っており、今後もう2か所追加する予定だ。
航空機や船舶、電車にも
Miruは昨年、米企業2社と業務提携を結んだ。1社はサンルームの大手Four Seasons Sunroomsで、Miruの技術を用いたエネルギー効率のいいガラスでのサンルームを共同で開発している。もう1社はドア用ガラスなどのサプライヤーのODLで、出入り口やパティオのドアのガラスの共同開発に取り組んでいる。ドアをエレクトロクロミックガラスにすることで光を取り込めるようになり、また室内から外の景色を楽しんだり、自然との一体感が出るようになるという想定だ。
Miruは航空機や船舶、電車やバスといった交通機関などにも需要があると見込んでおり、2028年までに広さにして0.9平方キロメートルのエレクトロクロミックガラスの市場投入を目指している。
今回のシリーズAの資金調達ラウンドはカナダの政府系金融機関、カナダ産業開発銀行(BDC)の投資部門、BDC Capitalなどが主導した。
参考・引用元
Miru Smart Technologies
(文・Mizoguchi)