下水道整備の早かった都市ほど旧式の合流式下水道
東京五輪の際、筆者は「仮にも先進国の首都が下水を垂れ流しているのか」と衝撃を受け、遅まきながら『うんちの行方』(神舘和典・西川清史著、新潮新書)を読んで勉強をした。パリ五輪の話題を機に再読したのだが、これは「先進国の首都なのに」ではなく「先進国の首都だからこそ」の問題。先進国の首都・主要都市ほど早くに下水道が整備されたため、それだけシステムが古いのだ。
ロンドンの下水道もヴィクトリア朝時代に作られたもので、大部分が合流式。ワシントンの約3分の1、ニューヨークの60%、シカゴの大部分が合流式だ。地面に埋まっている下水道を新しいシステムに入れ替えるには膨大な手間と時間がかかる。
こういう時こそテクノロジーの出番なはず。ということで、下水道の問題に取り組むテクノロジーと海外スタートアップを調べてみた。
IoTやAI活用、下水道管理をDXするソリューション
古い下水道システムの問題を解決するうえでは、IoTやAI、ロボット工学などの技術活用が考えられる。実際、Fluid Analytics(旧Fluid Robotics)というインド・アメリカのスタートアップは下水管をスキャンして欠陥を検出する小型ロボットを開発。AIベースの下水管検査ソフトウェア、ロボットとIoTによる排水モニタリングなどのサービスを提供している。また、イギリスのnuronは、下水道向けに「神経系統」のように機能する光ファイバー技術を提供する。下水管内の流量や深さ、温度などの運用パラメータをリアルタイムで連続的にモニタリングし、閉塞や流入などの事態を可視化し、予防措置を可能にするという。
nuronの連続センサーであれば、単発的に配置されたスポットセンサーでは検知できない欠陥を把握できる。
雨水サージ処理に活躍、排出の吐き口に直接設置できる処理施設
しかし、特に合流式下水道システム固有の問題に最も手っ取り早く明確な結果を出せそうなのは、Rapid Radicals Technologyではないだろうか。そもそも、同社の技術はまさに合流式下水道の「オーバーフロー」に対処するために開発されたもの。45フィートコンテナサイズの設置面積で済む小規模分散型システムが「25分未満」で排水処理を完了するという、社名のとおりラピッドかつラディカルなソリューションだ。下水が河川に排出される吐き口に直接設置可能で、アメリカの住宅に多い地下室への浸水や五輪で問題になった未処理汚水の放流を防ぐ。
Rapid Radicals Technologyは、ウィスコンシン州の名門マーケット大学のオーパス工学部博士課程の学生だったPaige Peters氏が2016年に設立したスタートアップ。
マーケット大学の記事によると、同州の企業シードファンドから5万ドル、ミルウォーキー都市圏下水道局と国立科学財団から合わせて50万ドルの資金を獲得したほか、2021年にはNSF(全米科学財団)から100万ドルの助成金を得ている。
同社の開発した「Torrent3」処理システムは、毎分100ガロンの排水を処理。固形物除去と高度酸化を組み合わせた2段階処理を行い、不溶解性物質の90%、有機汚染物質の85%、病原菌と細菌の99.99%を除するという。
自治体はもちろん民間企業もコンテナごと購入・レンタル可能だ。恒久的な設置以外にも、災害時や緊急時の一時的な対策にもなるという。東京やパリで、五輪開催期間中だけでも間に合わせ措置ができたのではないだろうかと筆者は考える。
参考・引用元:
『うんちの行方』(神舘和典・西川清史著、新潮新書)
東京都下水道局
(文・Techable編集部)