同じ多言語の国ながら大半の国民が公用語インドネシア語を解するインドネシアと異なり、インドは各州で公用語が異なる状況。「公の言葉」が一本化されていないインドでは、居住地のローカル言語しか話せない人も少なくない。
そうした問題を解決し得るAI言語翻訳サービスの運営企業Devnagriが、先日プレシリーズラウンドでの資金調達に成功した。
多言語社会のインド、国内でもローカライズの必要性
DevnagriのYouTube動画には国内言語ローカライズの必要性と可能性について、共同設立者のHimanshu Sharma氏自らが語っている。この動画にも表示される同社のミッションは、「インターネット上の(インド人の)第一言語による情報は、全体の0.1%しか存在しない。当社はこれを99%にする」というもの。一方で、公用語である英語を流暢に話せないインド人は13億人近く人口の90%を占める。同社が目指すのは、このギャップの解消とインド国内の非英語話者が自分たちの第一言語で情報にアクセスできる社会の実現だ。
Devnagriが展開するサービスはウェブサイト翻訳プラットフォーム「Devnagri on the air (DOTA Web) 」、アプリ翻訳プラットフォーム「Devnagri On The Air (DOTA App) 」、文書翻訳、画像翻訳など多岐にわたる。
DOTA WebおよびDOTA Appには、「Starter」から「Enterprise」までビジネスの成長段階に合わせた料金プランが用意されている。トライアル版は1ヵ月間無料で利用可能。言語ローカライズ作業にかかる時間とコストを50%削減するとしている。
顧客となるのはEコマースやEラーニング、出版、フィンテック分野の企業・組織で、これまでに100社超のブランド向けに5000万ワードを処理済みで、1日100万ワード以上を翻訳しているという。利用顧客にはインド政府のほかICICI銀行をはじめとするインド国内の大手銀行が名を連ねる。また、今や世界的オンラインデリバリーサービスに成長したZomatoもユーザーだ。
対応言語一覧には日本語も、国外ローカライズにも活用可能か
インド国内22言語にまたがる大規模データセットに基づくDevnagriのツールだが、試しに無料トライアル版にログインしてみると、22の指定言語だけでなくスペイン語や中国語、日本語なども選択できる状態だった。インド国外言語対応について公式発表などは確認できないが、翻訳の精度次第では国外ローカライズ作業にも活用できそうだ。そもそも、同社起業のきっかけはSharma氏が旅行で日本を訪れた際に得た着想だったらしい。Devnagriの機械翻訳モデルにデータベースプラットフォームを提供するMongoDBおよび地元メディア記事で確認できる。
30か国以上の旅先で言語や現地住民、文化を観察してきた旅行マニアの同氏。日本の人々の多くが英語を解さないにもかかわらず、大部分が英語基準であるインターネットサービスを問題なく利用できていること、そして翻訳がカギとなることに気づいたそうだ。
「日本の人口の95%が第一言語の日本語だけで不自由なく生活している。インドでも同じことが可能なはず」。ひいては、「インド国内の言語によるコミュニケーションというコンセプトを推し進めれば、インドも日本のように発展できるだろう」と考えたという。
プレシリーズAで金額非公開の資金調達
7月25日、DevnagriはInflection Point Venturesが主導するプレシリーズAラウンドで資金調達を実施したことを明らかにした。ただし、金額は非公開である。この資金はさらなるマーケティング、販売、技術拡張、研究開発、インフラ、管理費に充てられるという。また、インド国内の言葉の壁を乗り越えて全国的に展開するには、22の指定言語対応だけではまだまだ十分ではない。方言を含めたその他の言語は数百とも言われるほど多様で、それぞれ「この言葉しか話せない」という層を抱えているのだ。
「Devnagri」とは、インドの古代文字を意味する。現在インドに存在する言語のほとんどがこの文字から派生した表記体系を使用している、「インド人の心と魂に響く言葉」だそうだ。
参考:
Devnagri
Devnagriプレスリリース
(文・澤田 真一)