そうしたなか、ロボットを開発する米スタートアップのChef Robotics(シェフ・ロボティクス)が着目しているのは食品製造分野だ。同社はこのほど、食品の製造プロセスに特化したロボットを発表。食材の盛り付けなどに活用できるもので、人工知能(AI)を取り入れて現場の細やかなニーズに応じて動作性を向上させられるのが売りだ。
AIで食品の扱い方を向上、OSは独自開発
カリフォルニア州サンフランシスコに拠点を置くChef Robotics。同社は、開発したロボットについて“従来の機械とは一線を画している”とうたう。その根拠となるのがAIの活用だ。従来の機械が1つのタスクだけをこなすように設計されているのに対し、Chef Roboticsのロボットはフレキシブルに対応できるようになっており、ロボットごとに異なるタスクを課すことができる。同社によると、ロボットは独自のオペレーションシステム「ChefOS」で動く。このOSは顧客の実データに基づき、ニーズに応えられるよう訓練されている。またAIにより、食品の扱い方を絶えず向上させるなどパフォーマンスを高められるという。
食品ロス88%減、生産性33%向上した例も
食品は種類により形状や性質などが異なり、それによって扱い方も、はさんだり、すくったりと異なる。また、盛り付ける際には、特定の食品を容器のどの部分に、どれくらいの量を配置するのかといったことも重要になる。加えて、流れ作業であることが多いため、タイミングの調整も必要だ。これらすべてにChef Roboticsのロボットは対応する。異なる作業を割り当てることができるため、ベルトコンベヤーで次々と流れてくる容器に、用意されたさまざまな食品をアームで盛り付けていくという作業に適応することができる。
同社はすでに北米の複数の企業にロボットを納入し、実際の現場で活用されている。そのうちの1社、インド料理を製造・販売しているChef Bombay(シェフ・ボンベイ)では、カナダのアルバータ州にあるプラントにChef Roboticsのロボットを導入した。これにより盛り付け損ねが30%減り、食品ロスも88%減ったという。その一方で生産性は33%、処理能力は9%向上したとしている。
2100万食超を製造
Chef Roboticsのサイトには実際にロボットが使用されている現場の動画が紹介されており、豆やコメ、葉物、ソースなど扱いに注意が必要な食材も難なく扱っている。また、さまざまな形状の容器にも対応している。ウェブサイトによると、容器やトレーに盛るだけでなく、トルティーヤやピザ生地に具をのせていく作業もこなせるようだ。調理済みの冷凍食品、生の食品、病院食、機内食、ベビーフードなど多くのジャンルに対応するとしており、食品業界での幅広い活用が見込まれる。
同社のロボットは北米6都市にある食品製造施設で使用されており、これまでに2100万食超の食事の製造で使われたという。
人手不足の解決策
Chef Roboticsによると、米国では食品産業分野における労働力不足は100万人を超えており、また高い離職率が状況の悪化に拍車をかけている。食品産業は人々の食卓に直結するだけに、労働力の確保は逼迫した問題となっており、特に人海戦術を取っている企業にとってはChef Roboticsのロボットはまさに強力な助っ人になりそうだ。こうした状況は米国特有のもの、と済ませられる話ではない。少子高齢化が進む日本でも人手不足は深刻になっており、すでにあちこちで問題が表面化している。細やかな作業に対応する「賢いロボット」の需要は食品産業界に限らず幅広くありそうだ。
人手不足の解決や生産性の向上に加え、危険やかなりの労力を伴う作業を人間が担わなくてもいいようにするなど、テクノロジーを現場に取り入れる大きな流れは今後加速することが予想される。
Chef Roboticsは今年1月に、米大手ベンチャーキャピタルのアンドリーセン・ホロウィッツ(a16z)が選ぶ、AIを活用した「斬新なテック企業50社」にも選ばれた。
参考・引用元:
PR Newswire
(文・Mizoguchi)