ガーデニング市場は世界的にも好調で、Future Data Statsの最新レポートでは2023年に1440億米ドルと推定されている。今後もCAGR6.0%で成長を続けて2030年までには約2000億米ドルに達する見込みだ。
しかし、新規顧客層はいわば初心者。植物を育てるのが上手な「緑の手」ばかりではない。植物の見守りシステムを開発したロンドンのスタートアップSmartyPlants社は、クラファンプロジェクトの本文で「植物を購入した成人の48%が過去18か月間に平均5株を枯らしている」、「イギリスだけで毎年3800万株の観葉植物が枯れている」などの数字を示している。
緑のある生活に憧れながら、植物をすぐ枯らしてしまうことに悩む「茶色の手」も多いのだ。SmartyPlantsを始めとするスタートアップは、そうした悩みを解決するIoT製品を開発、園芸DXを進めている。
クラファンサイトで人気のガーデニングDX製品3種
開始から16分で目標金額を達成した「SmartyPlants」上述のSmartyPlantsが開発したのは、同名の植物見守りシステム「SmartyPlants」だ。開始からわずか17分で目標金額を達成、Kickstarter公式の「お気に入り」に選ばれたクラファンプロジェクトは、1300人以上から約2600万円の資金を集めて7月19日に終了したばかり。
SmartyPlantsはセンサーとアプリによる植物モニタリングシステムで、ペット見守りカメラの植物版と言える。使い方は簡単で、センサーを植木鉢に設置してアプリを同期するだけ。スマートセンサーが植物のニーズを感知し、アプリにアドバイスが表示されるという仕組みだ。AI画像解析で植物を識別し、健康状態を把握、成長を見守る。
適度な水分量・光量・気温・湿度・土の栄養分を把握できるため、「これくらいかな?」と適当な感覚で水をやり過ぎて結局枯らすという事態を防げるのだ。何か問題があればAIが素早く原因を特定、世話が必要な時はアラートで知らせてくれる。外出先からもアプリで植物の状況を確認できるほか、世話の履歴や成長を確認できるダイアリー機能も。
植物の気持ちをEMOJIで表示するスマートプランター「Ivy」
中国・廈門市を拠点とするPlantsIOの「Ivy」は、プランター自体にセンサーとAIを搭載したIoTスマートプランター。2022年にIndiegogoで約2000万円、2023年にMakuakeで約490万円の資金をあつめた。
SmartyPlantsと同様に水分・気温・湿度をセンサーで感知するほか、人間が本体に触った時のタッチセンサーや振動センサーを備えている。「水が欲しい」、「暑い」といった植物のニーズをセンサーが把握すると、70種類の絵文字風表情がLCD画面に表示される。
形状はほぼ立方体で1辺約10センチとデスクに置けるサイズで、270グラムと軽量なため持ち運びにも便利だ。
大型タンクに水処理システムを備えた「Spring Ipot」は長期間の留守番に
楽しいはずの植物の世話が重荷になるべきではないという思いから、スウェーデン企業PJ Materialが開発したのが「Spring Ipot」である。長期で家を留守にしなくてはならない休暇などの際に活躍するSpring Ipotは、全自動で植物を世話してくれる“植物シッター”。自動水やりはもちろん、環境光・グローライト・Wi-Fi接続などフル機能なAI搭載スマートプランターだ。
製品名にある「Spring」は、「春」ではなく「泉」の方の意味だろう。プランター本体の大型タンクに貯えられる数か月分の水は、タンク内部の浄化システムで常に清潔な状態に保たれる。必要に応じて数日・月単位で水やりを行うとともに、土壌のバクテリアやウイルスも取り除く。
光が必要な場合は、付属の栽培用ライトが光を補う。操作はアレクサ、Googleアシスタント、スマホから遠隔でも可能だ。Spring Ipotに植えた植物だけでなく、散水ノズル付きのチューブを伸ばせば他の鉢にも水やりを行えるのもうれしい。2022年末開始の同プロジェクトは全プレッジを完売、現在は終了している。
この他にも、種から植物を育てる「Nano Garden」、ハーブやスパイスの植物に特化した「Smart Herb Garden」など、Kickstarterだけでも多数の園芸DX製品がプロジェクトを成功させている。いずれも、テクノロジーの力で「茶色の手」を「緑の手」に変え、誰でも簡単にガーデニングや園芸を楽しめることを目指しているのが印象的だ。
(文・根岸志乃)