会場で筆者の目を引いたのは、Fortune AIがてがける、プールの監視を手助けするAIソリューション「SAFE SWIM」だ。水泳事故を防止するためのAI警告システムであり、会場では展示のほか、InnoVEX ピッチコンテストにも参加していた。
WHOによると、「溺死」は不慮の事故による死亡原因として第3位に挙げられており、世界中で毎年23万6,000人が溺死で亡くなっていると推定されている。またこれらの死亡者のうち50%強を30歳未満が占めており、溺死は5~14歳の子どもの死亡原因として世界で6番目に多いという悲しい事実もある。
またライフガード(監視員)の人数不足も世界的に深刻で、昨年アメリカではライフガード不足のため1/3の施設が閉鎖されており、今年も同様の傾向があるという。
水泳事故は予測不可能なことも多いうえ、長時間勤務で疲労を招きやすいなど、広い設備や大勢の利用者に対して十分な人数の監視員を配備することはそう簡単なことではない。このような世界的な課題を克服すべく、テクノロジーの活用が注目されている。
プール内のリスクを特定するAIシステム「SAFE SWIM」
SAFE SWIMは、既存のカメラと組み合わせて利用が可能なAIソリューション。撮影機材で得た映像データをAIが解析し、プール内の人が泳いでいるか、立っているか、浮き輪などを使って泳いでいるか、おぼれかけているかなどをリアルタイムで監視する。危険を察知した際には、ライフガードの持つデバイスに素早くアラートを送る。なおアラートは、複数のエリアで同時に発生しても機能するという。人の目だけではなかなか判断しきれない潜在的なリスクもAIが瞬時に特定し、即座に監視員へ場所とリスクを伝えることで、監視員はすぐに救助に向かうことができる。人間とAIが協力しながら、プール利用者の安全を守るという体制だ。すでに台湾では複数のプールで導入済みであり、より精度の高い判定ができるよう日々アップデートされている。
施設経営の改善やサービス向上にも活用
同システムの導入は、単に監視員の人手不足を解決するだけでなく、施設の運営をDXして業務効率を向上することにもつなげられる。たとえば、利用状況のデータを分析することによって、適切な人員配置の判断などをたすけるほか、エネルギー効率の向上やサービス改善に役立てることができる。なおプール数やサイズに関係なく管理できるという。既存カメラ利用可能でイニシャルコストも低減
同システムは、既存のカメラ設備や一般的なカメラで利用できることから、初期コストも低減。サブスクリプションで提供され、プールのサイズによって価格が異なる。2025年度には日本にも進出か
同社は、2025年には日本、そしてアメリカへの進出も計画している。InnoVEX ピッチコンテストではNVIDIA Award、Okinawa Innovation Awardの2つの賞を受賞。特に会場でのプレゼンテーションでは、いかにOkinawa Innovation Awardがふさわしいのかとして「日本では全体の80%の学校にスイミングプールがある」「90%のプールがライフガードの人不足を抱えている」などのデータをもってアピールしていた。Okinawa Innovation Awardの協賛であるリゾテックエキスポもリゾートホテルなどとの親和性を考慮し、それに応えた形で選出している。
今年もいよいよ夏本番を迎えようとしており、水辺が賑わう季節がやってくる。AIを活用した監視ソリューションが今後各国でさらに広がることで事故を防ぎ、子どもから大人までより多くの人が安全に水泳を楽しめるようになることを期待したい。
参考・引用元:
SAFE SWIM
WHO
American Lifeguard Association ライフガード不足の原因とその対策
(文・亀川将寛)