NCOA(National Council on Aging)の最新レポートでは、アメリカの成人の約3900万人が睡眠時無呼吸症候群を患い、うち3300万人がCPAP装置を使用しているという。過去10年で小型化と進化が進んだCPAP装置だが、その3分の1の低価格で高い効果を謳うスマート枕がクラウドファンディングサイトIndiegogoに登場している。
「SwingNeck Pillow」はAIがいびきを検知、やさしい揺れで首の角度を変えて気道を開き、即座にいびきを止めるというもの。睡眠の質を高めるのはもちろん、いびきや睡眠時無呼吸症候群の悪影響からユーザーを守るとしている。
スマート枕市場の成長率と背景にある需要
スマートピローは睡眠の質を高め、ユーザーの健康状態を向上させるべく、さまざまな機能や技術が搭載されている。モニタリングやデータ収集を行うセンサーやスピーカーを内蔵したもの、Bluetoothに接続できる製品も。枕から流れる音楽やホワイトノイズ、瞑想コンテンツを聞きながら入眠できる。好みに合わせて硬さ・高さ・温度調節が可能な枕も。Business Research Insightsによると、2020年に1億6160万米ドルだった世界のスマート枕の市場規模は、2031年末までに46.1%のCAGRで拡大を続けるという。また、Data Bridge Market Researchの報告では、今後CAGR30.8%で成長し2030年には107億4654万米ドルに達するとの見込みだ。
こうした成長率の背景にあるのは、世界的な需要の高さだろう。上述のNCOAのレポートでは、世界中で9億3600万人の成人が軽度から重度の睡眠時無呼吸症候群であると推定している。日本の患者数は潜在的なケースを含めて900万人とされる(2019年報告)が、適切な治療を受けている人は1割にも満たない状況だ。
SwingNeck Pillowは日本企業開発のAI搭載スマート枕
現在プロジェクトを実施中のAI搭載「SwingNeck Pillow」は、特許取得済みのいびき検知・防止技術を搭載したもの。睡眠中の呼吸音をリアルタイムで分析し、いびきを検知するとスウィングプレート部分が自動的に動き出し、やさしい揺れで首の角度を変えてくれる。気道が開くことでいびきは止まり、静かで安定した呼吸に戻ることができる。枕の動きで発生する音は25デシベルと小さいため、眠りを妨げられることもないという。
また、専用のSwingNeckアプリが睡眠の状態を毎日精密にモニタリング、デイリーレポートを作成。ユーザーそれぞれにパーソナライズされた分析が提供されるので、戦略的に睡眠の質を改善できる。
SwingNeck Pillowの開発元は、株式会社エンゲートという日本企業。 Kickstarterでのプロジェクトを成功させたのち、6月からIndiegogoでのInDemandプロジェクトをローンチした。
類似の日本製品としては、2022年に登場したAI搭載スマート枕「 ZEREMA」がある。Makuakeで実施されたプロジェクトについて、Techableでも紹介した製品だ。
こちらの製品は、いびきを感知すると睡眠中に自動で高さを変える。アプリと連動して毎日の睡眠状態を記録・分析できるほか、AIが最適な睡眠パターンを提案するというものだった。
睡眠時間量・睡眠の質ともに日本は世界最低レベル
日本企業がスマート枕の開発・販売で注目を集める一方で、日本人の睡眠時間は平均7時間22分でOECD加盟国では最短とされた。レスメドによる「世界睡眠調査2024」では、回答者全体の平均睡眠時間は6.8時間とさらに短くなっている。さらに、日本人の40%が「睡眠の質に満足していない」と回答、睡眠時間だけでなく質にも問題があることが判明した。ただし、日本における睡眠時無呼吸症候群の認知度は世界トップの78%。認知の高さに反して実際に診断されたことがあるという回答は8%で世界最下位だ。睡眠時無呼吸症候群について聞いたことはあっても、当事者意識や自覚のない状況がうかがえる。病院に行くほどの病気ではないという誤解も根強い。
CPAP装置と異なり、医療機器にあたらないスマート枕は、この「病院に行くほどでもない」という認識の層にリーチしそうだ。睡眠時間が世界最短である日本市場には海外企業も注目しており、スリープテックのSleep Shepherd社は日本企業と提携、日本市場に合わせて製品設計を変更・開発したほか、スマートマットレスのEmmaも日本に進出している。
引用元:Indiegogo
(文・根岸志乃)