また、地場系コーヒーショップチェーン店が頭角を表し始めている。2019年にサービスを始めたJanji Jiwaは数年で急成長を遂げ、インドネシア最多の店舗数を誇るまでに。共に2017年にオープンしたKopi KenanganとKopi Kuloも順調に店舗数を増やしている。
そうしたコーヒー「ショップ」とはやや毛色の違うユニークな移動式カフェサービスを展開するのがJago Coffeeだ。コーヒーショップの店舗からコーヒーを持ってくるデリバリーサービスでもない。バリスタが電動アシスト付きワゴン自転車に乗り、指定された場所までやって来る「コーヒーカート」サービスだ。
アプリで簡単注文・支払い、淹れたてコーヒーを満喫
利用者はまず、Jagoのアプリを開いてピックアップ場所を指定する。次に、メニューから希望のドリンクを選択。最後にGoPayもしくはOVOによるキャッシュレス決済を済ませば、あとはJagoの自転車を待つのみだ。自転車に乗ってやって来るのは訓練を受けた本物のバリスタなので、プロが目の前で淹れたコーヒーや紅茶が提供されるというシステムだ。
営業日は月~土曜日の朝7時から夜6時までで、今の時点では日曜日の営業は行われていない。平日昼間の会社員をターゲットとしているのだろう。
ただし、移動式の利点を生かしてイベント出張の予約も受けている。インドネシアでは冠婚葬祭や地域の集会、誕生日、選挙活動など、あらゆる機会で大きなパーティーを催す文化があるのだ。
国産コーヒー豆使用と業界を革新した低価格
インドネシアでもスターバックスコーヒーは人気だが、スタバの商品は首都ジャカルタの店舗では3万ルピア(約290円)台から。JETROによるとジャカルタ特別州の最低法定賃金は506万7,381ルピア(約5万円)というから、インドネシア人にとっては高級品になってしまう。一方、Jogoの価格設定は最も安価なもので8,000ルピア(約78円)。これはインスタントコーヒーと同程度の価格だ。プロのバリスタが淹れたコーヒーが手頃な価格で楽しめるのも人気の理由だろう。
また、Jagoは低価格の他にインドネシア産のコーヒー豆使用も重視。コーヒー豆や茶葉に限らず、地元産のパームシュガーにも国産品を使用するなど徹底している。
世界有数のコーヒー生産国であるインドネシアだが、これまでコーヒー消費のほとんどが安価で便利なインスタントだった。Jagoのサイトによると、「インドネシアのコーヒー消費の90%がインスタントで、美味しいコーヒーは割高になる」としている。Jagoが目指すのは、そうした供給の問題を解消し、どこにいても本物のインドネシア産コーヒーを味わえるようにすることだ。
シリーズAラウンドで600万ドルの資金調達
そんなJago Coffeeを運営するPT Satuan Teknologi Berjalanは、今年4月にシリーズA投資ラウンドで600万ドルを獲得した。ラウンドを主導したのはIntudo VenturesとBeenext Accelerateである。WorldCoffeePortalによると、Jagoは調達した資金を使って自転車を300台から1,500台に増やし、同時にジャカルタでの配達範囲を現在の7%から50%に拡大するという。
今後は低価格と品質、コスト、スケーラビリティのバランス調整が重要となる。さらに、類似のコーヒーカートサービスを同じ価格帯で展開する後発競合との差別化がカギになるだろう。
Jakarta Postの報道によると、2023年には上述の国内最大コーヒーチェーンJiwa groupがSejuta Jiwaというラインを始め、中国Tencentが支援するRindumu Coffeeが2023年に参入。2024年4月にもNgopiNgapaがローンチされたばかりだ。
国民の9割がイスラム教徒であり、アルコールの代わりにコーヒーやお茶が愛飲されるインドネシア。今後のコーヒー市場の動向に注目だ。
【参考】
Jago Coffee
WorldCoffeePortal
Coffee Consumption by Country 2024
(文・澤田 真一)