生物多様性が維持されなければ、森林が光合成で生み出す酸素、干潟・藻場の水質浄化、植物からもたらされる医薬品など“自然からの恩恵”を人間が享受できなくなる可能性がある。
昨年アラブ首長国連邦(UAE)・ドバイで行われた「国連気候変動枠組条約第28回締約国会議(COP28)」では生態系・生物多様性を含むテーマ別に2030年までの目標が設定され、いま世界各国で課題解決に向け取り組みが行われている。
温室効果ガス削減とともに生物多様性の損失防止が求められるなか、ドローンやAIなどの技術を活用して生態系の復元プロジェクトを推進しているのがDendraだ。
2014年に創業された同社は、英国のオックスフォードに本社を構え、オーストラリア、UAEにもオフィスを有している。
ドローンとAIを駆使して緑を拡大・維持
Dendraでは、ドローンによって種子を空中から広範囲に撒くことで、人力では困難な場所に対しても大規模な植林が可能となると考え、空中播種の手段にたどり着いた。ドローンによる空中播種が、二酸化炭素の排出も抑えつつ、バランスの取れた在来生態系を維持・促進するために最もコスト効率が高いと考えたのだ。同社では毎年10億本の木を植えることを目指し、世界中で大規模な植林プロジェクトを推進している。
Dendraでは設立以来、世界各地で多くの森林再生プロジェクトを手がけてきた。たとえば、オーストラリアでは、ドローンを使用して広大な土地に数百万の種子を植え付けることに成功。同プロジェクトは、絶滅の危険が懸念されているコアラの生息地を復元するという生態系の回復に貢献するものだ。
地域コミュニティとの連携も重視
Dendraでは地域コミュニティとの連携も重視している。各地域の地元の人々と協力してプロジェクトを進め、また環境教育プログラムを提供することで、持続可能な環境保護の重要性を広めている。同社の活動は経済的なインパクトをもたらすだろう。たとえば植生再生プロジェクトによって新たな雇用機会が創出され、地域経済の活性化が期待できる。また、健全な生態系が復活することで、観光業や農業などの関連産業にも好影響を与えると考えられる。
それぞれの市場の見通し
森林再生がもたらすメリットやDendraの活動の意義が分かったところで、市場規模を見てみよう。グローバル調査会社Persistence Market Researchのレポートによると、森林再生プロジェクトを含むカーボンクレジット・カーボンオフセットのグローバル市場の規模は、2024年時点で1,001億米ドル、2031年までには2,227億米ドルに達すると予測されている。また、2024年から2031年にかけてのCAGRは12.1%と予想される。
なお、生物多様性保全のグローバル市場規模は2023年に95億6,000万米ドルと評価されており、2030年までに228億米ドルに達する見込みだ(参考)。
上記の市場は急成長しており、ビジネスチャンスに溢れていることは明らかであろう。
世界の社会的課題に取り組むスタートアップ100社に選出
DendraのCEO兼共同創設者であるSusan Graham氏は、英国オックスフォード大学で博士号を取得し、植物化学と環境テクノロジーの分野において広範な研究を行ってきた人物だ。彼女は昨年9月に、スウェーデンの非営利組織Norrsken Foundationの「Impact/100(世界の社会的課題に取り組むスタートアップ100社)」に選出された際のスピーチにおいて、以下のように同社の使命を語っている。
「私たちの使命は、世界中の環境管理者に景観規模で生態系を復元する力を与えることです。透明性と説明責任を提供し、より良い意思決定を促し、より良い結果をもたらす技術で彼らを支援します。」
さらに同動画内では、同社がこれまでに20以上の異なる生態系タイプ、5つの大陸で運用してきた実績があり、2023年末までに150万トンの二酸化炭素を削減するのに十分な土地を復元する予定だということが述べられている。
シリーズB資金調達に成功、さらなるグローバル展開へ
DendraはシリーズB資金調達ラウンドで1,570万米ドルを調達したと、2024年5月に発表した。同社によると、同資金は、新たな市場拡大と、AI対応のエコロジープラットフォームの継続的な強化に向けられたものだという。これにより、鉱業セクターやエネルギー転換に重要な他の産業における大規模かつ効率的な復元ソリューションの緊急ニーズに対処することを目指す。市場が広がるにつれ、今後プレーヤーも増えていくと予想されるなか、いち早くドローンによる植林ビジネスに参入したDendraはどのようにグローバル市場をさらに切り拓き、発展していくのだろうか。今後も同社の活躍から目が離せない。
参考・引用元:
Dendra
Dendra LinkedIn
Dr. Susan Graham LinkedIn
文・Mika Ito
英国在住。元総合商社勤務、現在は在宅フリーランスとしてWebライター・業務支援等に携わる。