前号では、アフリカで増加しているゲーム人口を取り込もうとゲーム業界で奮闘しているスタートアップを取り上げた。
第6回となる本号では、美容関連のサービスを提供するスタートアップを取り上げる。美容はアフリカ女性にとって関心の高い領域で、女性を対象にしたテック、いわゆるフェムテック*の観点からも注目されている。
*フェムテック…Female(女性)とTechnology(テクノロジー)をかけあわせた造語
アフリカの女性にとって、ウィッグやエクステといった毛髪製品はとても身近なものだ。おしゃれや身だしなみのため、自分の髪に合成繊維で作られた“髪の毛”を縫い込んだり編み込んだりする。
特に、若い女性における毛髪製品の使用率は100%に近い。彼女たちは毛髪製品をセットするため、ヘアサロンを月1回、多い人では2週間に1回程度のペースで訪れている。家族や友人の集まり、職場で誰がどんなヘアスタイルをしているかは常に女性たちの関心の対象であるため、お金をかけたいポイントなのだ。
アフリカでの現地生産に乗り出す企業が誕生
コンゴ民主共和国のZuriは、ウィッグリムーバーなどの女性向けヘアケア製品を製造している。これを販売するだけでなく、ヘアサロンチェーンをフランチャイズ方式で運営している。Zuriのヘアサロンチェーンは、本拠を置くコンゴ民主共和国だけでなく、ウガンダやルワンダにも広がった。2016年の創業以来、いまでは2万店以上のサロンを顧客に抱え、SNSのフォロワー数は50万人を超えている。この4月には自社初となる機関投資家からの資金調達に成功しており、今後はフランスとベルギーへの進出を予定している。
ケニアのUncover SkinCareは、アフリカ女性向けのスキンケア製品、たとえば洗顔料や保湿クリーム、シートマスクなどを製造し、提携する小売店の実店舗とオンラインの両方で販売している。同社は2020年に世界大手ベンチャーキャピタルAntlerが設立したスタートアップで、2022年のシードラウンドでは100万ドルを調達している。
美容製品に特化したeコマースも登場
前述のような事例はありつつも、アフリカ内で製造された美容製品はまだまだ少数派。南アフリカとエジプトを除けば、アフリカで使われている化粧品の多くは輸入品だ。とくに欧州や中国からの輸入品が多く、最近では韓国コスメの人気も高まっている。輸入化粧品が消費者に届くまでのサプライチェーンは複雑で、卸を何重にも経由することで非効率が生じており、価格の透明性も損なわれている。こうした課題の解決に取り組んでいるのが、ルワンダのKashaだ。
Kashaは、美容製品などの女性向け商品を中心に扱うeコマースプラットフォームを運営している。メーカーやサプライヤーから商品を直接購入できるプラットフォームで、ウェブサイトまたはUSSDで注文が行える。美容製品以外にも、生理用ナプキンや避妊薬、妊娠検査薬などを扱っており、買い手には消費者だけでなく小規模な再販業者、病院、診療所、薬局が含まれる。
同社は2016年にルワンダで事業を開始した後、ケニア、ブルンジ、コンゴ民主共和国、南アフリカに進出した。シードラウンドで150万ドル、2020年のシリーズAラウンドで360万ドル、2023年のシリーズBラウンドで2,100万ドルを調達しており、シリーズAからシリーズBにかけての期間で年間経常収益(ARR)が50倍に増加したという。
美容ビジネスの運営支援にニーズ
エジプトのGlameraは、健康・美容サービスの予約プラットフォームを提供している。ヘアケアやネイル、マッサージなどを提供するサロンに対して、予約管理や在庫管理、経営管理ができるプラットフォームを提供している。同社は2019年の創業から2021年にかけて6桁ドル台の資金調達を複数回行い、2022年にはシードラウンドで130万ドルを調達している。2023年にはサウジアラビアへと進出した。
前述のZuriも、ヘアサロン向けに業績管理や在庫管理ができるソフトウェアを開発し、これを外販することでサロンの運営を支援している。
消費者との近さをいかした商品開発や販路開拓が強みを生む
美容製品は、富裕層に留まらず広く使われる製品である。都市化や消費生活を支える中間層の増加によって需要が増えるタイプの製品でもあるため、中間層が増加しているアフリカでは、美容市場の拡大は続くと推測される。アフリカの経済発展に伴って女性の社会進出が進めば、女性の購買力が向上し、市場規模の拡大ペースはさらに加速するだろう。一方、アフリカで使われている化粧品の多くは輸入品で、グローバルメーカーが高いシェアを占めているのが現状だ。現地のスタートアップが強みを持つとすれば、消費者により近い場所にいることである。この強みを生かしてアフリカ女性の肌質に合った商品開発を行ったり、現地のトレンドをいち早く商品に取り入れたりすることが有効とも考えられる。
またルワンダのKashaの事例で見たように、アフリカのサプライチェーンは階層が多く細分化されている。それゆえにグローバルメーカーがリーチできていない顧客、たとえば地元の小規模な小売店をネットワークに抱えることができれば事業拡大につながるだろう。
さらに、美容業界の小規模事業者をターゲットとした業務支援にもビジネスチャンスがある。これらの業務支援や取引を通じて蓄積されたアフリカの美容業界に関するデータは、それ自体が商品として高い価値を持つ。人口増加が見込めるアフリカでの販売を強化したい美容製品メーカーにとって、市場動向の把握や顧客接点の確保は最初のハードルとなるため、メーカーへのデータ提供から収益を得ることが可能となるだろう。
文・藤原梓(アフリカビジネスパートナーズ)
参考
週刊アフリカビジネススヘッドラインニュース656号
週刊アフリカビジネススヘッドラインニュース626号
週刊アフリカビジネス691号
≪アフリカビジネスパートナーズ プロフィール≫
https://abp.co.jp/
アフリカビジネスに特化したコンサルティングファーム。2012年設立。ケニアや南アフリカに現地法人を持ち、アフリカ40か国で新規事業立ち上げや事業拡大、スタートアップ投資に関する支援を提供。スタートアップ関連では、日本企業やCVCに対する有望スタートアップの紹介や、出資の際のデューデリジェンスを中立的な立場から提供している。2022年にはアフリカのスタートアップの調達金額やビジネスモデルを紹介した「スタートアップ白書」を発行。毎週「週刊アフリカビジネス」をメールで配信し、スタートアップの動きを日本語で提供している。