人口増加に合わせて深刻化するのが、プラスチックごみの大量廃棄と、住宅の不足だ。
世界経済フォーラムによると、2019年に年間1,800万トンだったプラスチックの廃棄量は、2060年には約6倍の1億1,600万トンにまでなると予測されている。
また住宅も不足しており、サハラ砂漠以南のエリアでは2.3億人が劣悪な住環境、いわゆるスラムに暮らしていると国連のレポートは伝えている。
悪化の一途を辿るこれらの問題の解決に取り組むのが、東アフリカのエチオピアを拠点とするスタートアップKubikだ。
Kubikのアプローチは、プラスチック廃棄物を建築資材へと加工するというもの。これにより、環境問題と住宅不足の同時解決を目指している。
今回、取材を行った同社COOのMichael Tekabe氏は、同社のビジョンを次のように語った。
「すべての人々に清潔で手頃な価格の住宅を提供することで、彼らの生活に尊厳をもたらすことが私たちのビジョンです。この目標を達成するために、リサイクルの難しいプラスチック廃棄物を、安価で低炭素な建築材料へと変換することに、今は注力しています。」
一方、同社創業者であるCEOのKidus Asfaw氏は、UNICEFのイノベーションハブでグローバルプロジェクトマネージャーを務め、子供たちの生活の改善に取り組んでいる人物である。
2021年に設立されたばかりの同社だが、2023年には世界中のスタートアップを表彰するGlobal Startup Awardsで「Global Startup of the Year」に選出された注目のスタートアップだ。
プラスチックごみから建築資材を製造
同社が開発に取り組んでいる製品が、下の写真にあるプラスチック製のレンガである。このレンガを用いれば、壁やトイレ、倉庫など、さまざまな建物を安価に製造できるという。それだけではなく、CO2排出量の削減効果もあるとのこと。COOのMichael氏にこのレンガについて話をうかがった。
――Kubikのレンガを使うメリットを教えてください。
Michael:エチオピアをはじめとして多くのアフリカの国では、建築資材の調達は輸入に大きく依存しており、昨今ますます高価になってきています。Kubikのレンガは、セメントなどの従来の建築資材に比べて40%安く調達できます。さらにはセメントベースの製品の5倍以上のCO2排出量の削減効果があります。
――不要な廃棄プラスチックを、いま最も必要とされている“手頃な価格の住宅”に変えているのですね。安全性についてはいかがですか。
Michael:安全性は私たちの業務において最も重要な要素です。当社の製品は強度、防火性、経年劣化について繰り返しテストされています。
工場を設立して大量生産を目指す
Kubikは2021年の設立以来、順調に成長している。2024年にはシードラウンドで520万ドルの資金調達をしたことが発表された。気候と持続可能性の分野における数百万ドル規模の資金調達は、エチオピアでは初めてのことだ。一方で、製品の大量生産を本格化させたのは2023年のことである。首都アディスアベバで工場が立ち上げられたのだ。これはKubikにとってエキサイティングな出来事だとMichael氏は語った。
――工場の本格稼働によって、Kubikのビジネスはどのように進展しましたか?
Michael:1日あたり約5トンもの製品を生産することができるようになりました。生産量は着実に増やしており、最終的には1日あたり45トンの生産を目指しています。さらにはこれまでの顧客以上に、多くの潜在的な顧客への期待に応えることができています。
――新たな顧客の獲得につながったのですね。
Michael:はい。今では私たちの顧客は、手頃な価格の住宅を建設する不動産開発業者から、よりサステナブルな倉庫を求める製造業者まで多岐にわたっています。顧客の幅が広くなり、さまざまな用途で使用されるようになりました。これは市場における当社製品への期待の高さを示すものです。
ごみ収集労働者の生活の質を向上させる取り組みも
ゴミの削減、安価な住宅の供給、さらにはCO2排出量を減らすこと以外にも、Kubikが取り組んでいる課題がある。ゴミ収集労働者の生活の改善だ。労働者の多くは女性で、低賃金かつ不衛生な環境で働いている。――プラスチックのリサイクルに従事する人とKubikとの関係について教えてください。
Michael:グローバルサウスの多くの地域には、非公式なリサイクル産業があります。私たちはリサイクルの難しいプラスチックに需要を生み出し、効率的に運用するためのサプライチェーンを構築しています。そのため、Kubikはリサイクル産業で従事する人と常に関わりがあります。
――具体的にはどのような関わり方をしていますか?
Michael:プラスチックごみをなくす活動の一環として、エチオピア東部の都市ハラールの自治体と提携しました。ハラールでは、リサイクル市場で最も立場の弱い200人以上の女性廃棄物回収業者と協力しています。彼女たちがより安全に作業できるよう、個人用保護具(PPE)を配布しました。
――彼女たちの生活を改善することはできましたか?
Michael:これまで多くの女性廃棄物回収業者は、男性の仲買人の非公式な搾取に苦しめられていました。しかし私たちは、彼女たちに回収したプラスチックを直接販売する機会を提供して、公正な取引を実現しました。
また、地元の銀行と提携することで、銀行口座にアクセスできるようにして、正式な方法で報酬を受け取れる仕組みを整えました。このように、彼女たちの収入を増やしながら、職場の安全性を高めることに取り組んでいます。
今後はエチオピア以外のアフリカ市場への進出も
Kubikは順調に売り上げを伸ばしており、エチオピア以外のアフリカ市場への進出も計画しているという。最後に同社の今後の取り組みについて話を伺った。――今後どのようなことに取り組みますか?
Michael:手頃な価格で安全な住宅の不足は、世界中の問題です。特にアフリカの国で共通する、人口増加、急速に拡大する大量消費、急速な経済発展という問題が、住宅の不足につながります。引き続き、これらの国の人々に安価で快適な住宅を提供していきます。
――新たな製品の開発も進めますか?
Michael:今は不要なプラスチック廃棄物を建築資材に変えることに注力しています。しかし、今後もプラスチック廃棄物を活用し続けることが最適とは限らないため、他の素材も視野に入れるかもしれません。開発の動向を常に追うようにして、未来の問題に対するソリューションを柔軟に見出していきたいです。
2025年には、16億人が世界的な住居不足で苦しめられると世界経済フォーラムは伝えている。同時に、プラスチック汚染は依然として悪化の一途を辿っている。
Kubikが示したように、環境問題の解決とともに安価な家を作る、そんな解決策を今後は考えなければならないのかもしれない。
Kubik
(文・松本直樹)