不安定な天候により、インドでは多くの農家が「土壌環境の悪化」「作物の品質低下」などの課題に直面している。
こうした中、インドのスタートアップAgriHawk Technologiesは、農業を近代化するIoT機器と情報管理プラットフォームを提供している。今回は同社が展開しているサービス「Fyllo」を見ていきたい。
IoT機器が適切な灌漑スケジュールを算出
Fylloは2種類の農業用IoT機器を開発している。ひとつは「Nero」、もうひとつは「Kairo」という製品名である。Neroは土壌中の水分量をモニタリングし、そこで育てている作物の種類や成長段階なども考慮して適切な灌漑・施肥スケジュールを算出してくれる機器。経験の少ない農家でも、常に最適量の水や肥料を供給できるという。
広大な国土を持つインドで水はもちろん無料ではなく、中には農業用水に恵まれない地域もある。化学肥料と同じく、浪費することはできないものだ。だが、現状は各農家の経験則や感覚のみで灌漑や施肥が行われている。これでは資源の節約は難しい。Neroはそのような面からの負担を軽減する効果を見込めるという。
Kairoは気象ステーション機器で、降水量や気圧、風速、風向き、湿度、気温などを検出する。このKairoから得た気象データを、後述する専用アプリにリアルタイム反映するという仕組みだ。
インドでは狭いエリア内でも降雨パターンは異なり、さらに土壌の種類や保水能力は農場ごとに違ってくるものだ。また、灌漑の必要性の有無は作物とその成長段階に応じて変わる。NeroやKairoを活用することで、農場それぞれのニーズに合ったアプローチが可能になるのだ。
12回の感慨がわずか4回に
NeroやKairoが収集したデータは、全てFylloの専用アプリに反映される。灌漑スケジュール、施肥スケジュール、害虫・病気の発生予測、天気予報などをAIを活用した予測モデルで算出し、ユーザーに提供する。地域別の天気予報は「歴史的気候」も考慮してくれる。
灌漑スケジュールを自動算出することにより、具体的にどのような成果が出るのだろうか。
インドのマハーラーシュトラ州モホルでブドウ農園を営むVijaysingh Kachare氏は、Fylloの開発した一連のシステムを導入する以前は1シーズンにつき11回から12回の灌漑を行っていたが、システム導入後には4回で住むようになったという。肥料のコストも大幅に節約できたそうだ。
今年6月に400万ドルの資金調達
そんなFylloは、今年6月にIndia QuotientとSIDBI Venturesの主導する投資ラウンドで400万ドルの資金調達に成功した。農業メディアAgNewsによると、現在はインド国内8,000人以上の農家、5万エーカー以上の農地でFylloのシステムが活用されているという。
灌漑は、作物の種類に限らず「農業の基本」である。それに関するスケジュールをIoT機器とAIが作成することにより、結果として水資源の節約にもつながる。これはSDGsの理念に合致するだけでなく、近年の資源コスト高に対する極めて有力な回答とも言える。
また、人間の生活の基礎である農業の近代化を促進する上で、気象ステーション機能の付いたIoT機器は必要不可欠ということをFylloは示しているようだ。
参考・引用元:
Fyllo
AgNews
(文・澤田 真一)