これらの企業が取り組む「中間業者問題」は、複数の中間業者が流通過程に介在してマージンを搾取することで小売価格が跳ね上がり、生産者は正当な対価を奪われるというものだ。
しかし、地域に根付いた仲介・中間業者は、地元住民しか知らないような零細店舗の存在を把握し、細いながらも貴重な流通ネットワークを構築している。すべての業者をまとめて悪と決めつけ排除するような「スマート化」は、方向性として正しいのだろうか?
「仲介業者無用論」に疑問を投げかけるのが、インドネシアのスタートアップBaskitだ。
小売店舗ではなく仲買業者を支援するサービス
Baskitの提供するB2Bマーケットプレイスは、主に「ワルン」向けの商品を取り扱う。ワルンとは、雑貨屋と食料品店を兼ねる小規模小売店舗だ。Flourish Venturesの2022年調査によると、インドネシアには350万ものワルンが存在し、国内食料品売り上げの70%を占めるほど。ワルンはWarung PintarやBukalapakなどが提供する専用アプリによってデジタル化が進んでいる。一方、Baskitが提供するのは「ワルンに商品を提供する仲買業者」に特化したサービスだ。
Baskitのインターフェースは、見た目の上では類似の他社サービスと大差ない。インドネシアで商品を生産する国内外の食品ブランドと接続し、必要な商品をPCもしくはスマホで発注する。商品の全体的なトレンドを表示したダッシュボード機能もあり、ユーザーはその時々の需要に合わせた効率的な発注が可能になる。
仲介業者を排除した単純直送は困難
ではなぜ、Baskitはこのサービスを直接ワルンに提供しないのだろうか? 同社公式サイトにその答えが書かれている。「サプライチェーン事業者たちは、何十年にもわたってインフラと関係性を築き上げてきました。それをより良く・速く・強くできるのだから、排除する必要はありません」とある。Baskitは、より効率的な道路を新設するのではなく、既存の道路を舗装する発想でサービスを展開しているのだ。
TechCrunchの記事でBaskit設立者Yann Schuermans氏が語ったとおり、地形が複雑な島嶼国家のインドネシアでは、A地点からB地点への商品直送はそもそも非常に困難だ。大動脈から毛細血管へ血液を運ぶように、大規模な輸送線から個々のワルンへ商品を分配しなければならない。
その役割を果たすのが、地域に密着した仲買業者である。Schuermans氏は同記事で「仲買業者の子供も、ワルン店主の子供と同じ学校へ通っています」と語っている。
2025年には黒字化の見込み
そんなBaskitは、2023年8月にシードラウンド330万ドルの資金調達に成功している。2022年設立であることを考えると、まさに「急成長」という言葉がふさわしい。地元メディアDailySocialが今年3月に配信した記事によると、この時点でBaskitはプラットフォーム上に1万件もの流通案件を抱えているという。2024年第1四半期には営業損益分岐点となる年間400万ドルの収益を達成し、さらに2025年初頭までに黒字化する見込みだ。
だがそれ以上に、既存の仲買業者を排除してそれまでの流通インフラを破壊する行為は決して良い手ではないことを証明している点に注目したい。Baskitは「流通プラットフォームの在り方」そのものを世に問いかけているのだ。
参考:
Baskit
(文・澤田 真一)