Boston Consulting Groupによると、企業の経営陣の多様性とイノベーションとの間には強い相関関係があるという。同社が8か国・1700以上の企業を対象に、性別、年齢、出身国、経歴、学歴などの側面から“多様性の認識”を調査した結果、経営陣の多様性が平均以上であると報告した企業は、平均以下の企業よりもイノベーションによる収益が19ポイント高かった。
とはいえ、就職に学士号が必要なケースは少なくない。Intelligentの調査では、過去1年以内に「特定の職種で学士号の要件を撤廃した」と答えた採用担当者は53%だった。残り半数近くの企業では学士号が必要と思われ、多様性を確保する障壁のひとつになりかねない。
このような状況を改善する鍵になりそうなのが、InStrideという2019年設立の米国スタートアップだ。同社は従業員向け教育を展開。教育機関と提携しており、たとえば働きながらオンラインで学士号を取得することができる。
50以上の企業に人材教育プログラムを提供
InStrideの創設者の一人であるVivek Sharma氏は、同社の設立前にマッキンゼーやYahoo!、ディズニーなど世界に名だたる企業を渡り歩いていた人物だ。
教育への情熱の原点は、南カルフォルニア大学でデータサイエンスを教えた経験であると、Adam Mendler氏とのインタビューで語っている。
さらに同インタビューで、InStrideを設立した目的は「高等教育機関と企業のリーダーが協力して未来の労働力を育成すること」とも述べている。
実際、同社は50以上の企業に人材教育プログラムを提供し、48万人以上の従業員が借金なしで教育を受けられる機会を創出し、学生ローン5760万ドルの返済を回避した(学費の全額、または大部分を企業が負担するため)。
なお、Vivek氏は2023年にCEOを退任し、現在はCraig Maloney氏が後任を務めている。
従業員にも企業にも大きな恩恵
InStrideのプログラムを活用している従業員は、そうでない従業員と比べて昇進する確率が3倍に跳ね上がるという。企業側のメリットも大きく、3年間(投資額1ドル)の平均ROIは226%、年間定着率はプログラム非参加者が63%であるのに対し、92%にものぼる。金銭的なリターンもさることながら、労働市場が逼迫する中、定着率の向上が企業に大きな恩恵をもたらすだろう。
2022年にAmazonと提携。配達員の教育機会を創出
2022年、Amazonは配送サービスパートナー(DSP)プログラム*の配達員に教育の機会を提供すべくInStrideと提携。配達員の教育、スキル研修、キャリアアップに向け1900万ドル以上を投資し、1700以上の教育プログラムを提供した。同プログラムでは学士号や高校卒業資格を取得できるほか、英語を学べるコースもある。プログラムの大半は、年間授業料5250ドルまでなら配達員の負担はゼロだという。
配送サービスパートナー(DSP)プログラム*…配送ビジネスを立ち上げて運営したい起業家を支援するプログラム
数々の受賞歴
InStrideは、2022年にEdTech Breakthrough Awardsで法人向け学習ソリューション賞を3年連続で受賞。EdTech Breakthrough Awardsは、Oxford大学出版局やDuolingo、LEGO Educationなども受賞している権威ある賞だ。また、2023年には、OpenAIやディズニー、ティファニーなどもランクインするFast Companyの「最も革新的な企業」のひとつに選出された。
さらに同年、Built Inの「ロサンゼルスにおける働きがいのある会社」リストに入賞。この賞は、同社の事業内容に説得力を与える。InStrideは、他社の福利厚生を手厚くし、従業員にとって働きやすい環境を提供しているからだ。
InStrideは創業以来、収益を年平均25%伸ばしている。現CEOのCraig氏は、AIの導入や海外展開も視野に入れていると語る。今後のInStrideの進化に注目したい。
参考・引用元:
InStride
米国国勢調査局
Boston Consulting Group
Intelligent
Adam Mendler
J.P. Morgan
(文・里しんご)