保険料に頭を抱える運送会社のニーズにこたえ、イスラエルのインシュアテック・スタートアップFairmaticはAIを活用した自動車保険を開発・提供している。安全運転によって保険料を低く抑え、事故も減らせるという理想的なサービスである。Fairmaticは、CB Insightsによって2023年Fintech 100やInsuratec 50にも選ばれた注目のスタートアップだ。
AIが安全運転を評価して保険負担を軽減、事故を減らす
日本にはゴールド免許とよばれる不思議な制度がある。過去5年間、無事故・無違反の優良運転者が対象だが、この条件では「ペーパードライバー」も含まれてしまう。また、毎日車を運転する熟練ドライバーよりも運転する機会のないペーパードライバーの方が、ゴールド免許効果によって保険料が安くなることもある。これは考え方によって不合理ともとれる構造だが、その点、Fairmaticの自動車保険は合理的だ。約2,000億マイルの運転データから学習・テストを行ったAIモデルを用いて、自動車保険の割引価格を決定するからである。
まず、ドライバーは専用アプリをインストールして、運転中に立ち上げる。アプリが収集・送信した運転データを元に、AIモデルがユーザーの運転状況を解析する。AIによって安全な運転をしていると判断された車両は、保険料が割り引きされるというシステムだ。
それだけではない。事故リスクの高い運転が見られれば、専用ダッシュボードを通じてドライバーに改善アドバイスが送られる。ドライバーは自らの運転次第で保険料が割り引きされることを意識し、安全運転へのモチベーションをアップできるのだ。
実際に、このサービス導入によって車両にかかる保険料を20%安くし、事故発生率を平均49%減らして、安全性を25%向上させたとしている。
保険負担を減らしつつドライバーの運転スキルを向上させられるという、運送会社にとっては二重に嬉しい仕組みとなっているのだ。
テクノロジーと保険に精通した経営陣が率いるチーム
「何年もスマートフォン技術の普及に取り組んできた私は、それが交通安全に与える悪影響に深く悩まされていました。私たちは、商用自動車保険をポジティブな力に変革することに注力しています」そう語るFairmatic創業者のJonathan Matus氏は、GoogleでAndroid OSの立ち上げにも関わった経験をもつエンジニアだ。スマートフォンの普及が交通事故増加につながっていることへの懸念から、同社を設立。保険部門の社長に任命されたJamie Trish氏は、大手保険会社Allstate元社長という保険のエキスパートである。
それぞれ保険とテクノロジーに精通した2人が率いる同社は、2019年の設立および2022年のサービス開始以来、著しい成長を遂げている。ステルスモードを経て2022年8月にシリーズAで4200万ドル、2023年3月にはシリーズBで4600万ドルもの資金を調達し、サービス提供を本格化した。
同社のサービスはさまざまな顧客によって利用されている。2023年10月の報告によると、プラットフォーム登録ドライバーは数十万人を超え、顧客の安全性が平均で25%向上したようだ。
現在ではアメリカ、イスラエル、インドにハブを置いて、グローバルなチームを構成している。チーム規模は今後も拡大を続けていく予定だ。
自社・保険加入者・社会全体の三方よしを実現
Allied Market Researchによると、テクノロジーを用いた自動車保険(テレマティクス保険)の世界市場は、2030年に137.8億ドル規模に到達するとされている。Jamie Trish氏はこう語っている。
「安全運転の車両は保険料負担が減り、Fairmaticは収益性の高い成長を達成し、交通安全の向上から社会全体が恩恵を受けるという、win-win-winの最適点を見出しています。公平で透明性のある価格設定を提供する私たちのユニークな能力と、実証済みの収益性の高い成長モデルが組み合わせたFairmaticは、インシュアテック2.0分野で頂点に立つでしょう」
いつの日か日本でも、ゴールド免許による自動車保険の割引に代わり、テクノロジーを用いた自動車保険が登場するかもしれない。
引用元:Fairmatic
(文・松本直樹)