生成AI支援によるコーディングツールを提供する同社は、2億2700万ドルの大型資金調達を同時に発表。これにより総資金調達額は合計2億5200万ドルに達した。
またステルスモード直後にも関わらず、その10億ドルにわずかに達しない評価額9億7700万ドルは「ほぼユニコーン」ともいえよう。
出資は、Sutter Hill Ventures、Index Ventures、Innovation Endeavors、Lightspeed Venture PartnersおよびMeritech Capitalによって行われた。
Innovation Endeavorsの創設パートナーであり、元Google CEOのEric Schmidt氏はこのように述べた。
ソフトウェア開発は、依然として高くつくうえに困難なものです。しかし生成AIはコーディングを革新する可能性を秘めています。市場を調査した結果、Augmentが生成AI駆動のコーディングツールを提供するための、最良のチームとレシピを持っていると確信しました。
参考:Augment ブログ
本記事では、多くの投資家から信頼を得るAugmentのツールについて紹介していく。
いまだベールに包まれたAugment
いま米国では生成AIツールに関連する3つのことが同時並行的に進行している。①ソフトウェア投資額は高いが、開発は難航
②生成AIツールの普及が急速に進んでいる
③生成AIツールにはまだ多くの問題がある
Augmentの可能性に対する高い期待は、これらに対して同社がイノベーションを実現できるかどうかの問いの裏返しでもある。
ソフトウェア投資額は高いが、開発は難航
2023年の全世界におけるソフトウェアへの投資額は1兆ドル近くにのぼり、12.7%の伸びを見せた(参考)。しかしSchmidt氏が述べたように、ソフトウェアの開発運用は依然として高くつくうえに困難なものであり続けている。
生成AIツールの普及が急速に進んでいる
2028年までにソフトウェア技術者の75%が生成AIツールを利用すると予測されている。現時点での代表的な生成AIツールの1つに、GitHubがOpenAIと共同開発した「GitHub Copilot」があげられる。同ツールは2022年12月のリリース以来、50,000以上の組織に導入されており、Fortune 500(Fortune誌が毎年発表する総収益上位の企業ランキング)の3社に1社が利用しているとのことだ。
生成AIツールによる生産性向上の報告が数多くあがっている中で、Augmentがなぜ、いま新たに必要とされるのだろうか。
生成AIツールにはまだ多くの問題がある
生成AIツールにおける課題として、以下のようなものが挙げられる。1.生成AIツールは学習したソースコードに基づいた提案を行う。大きな建築物には大きな構造設計(アーキテクチャ)があるように、大規模ソフトウェアにも大きな構造設計がある。しかし生成AIツールは、ある限られた範囲のコードを学習するだけで、全体の文脈をとおした大きな構造設計をまだ学習できない。
2.トレーニングデータの質に支援の質が大きく左右される。トレーニングデータが偏っていたりバグを内包したりすると影響を受ける。
3.生成したコードが機能しない、バグを含む、脆弱性を内包する可能性がある。
4.学習データがオープンソースライセンスや著作権問題を含む可能性がある。
Augmentの生成AIツールは、これら問題を解決できるのだろうか。しかしAugmentによる一般向けの情報開示はまだである。Augmentの真の可能性は、まだ秘密のベールに閉ざされている。
人間の能力を拡張しソフトウェア開発の未来を創る
Augmentへの出資に伴いSchmidt氏は、Augmentが最良のチームとレシピを持っていると確信したと述べた。そこで、Augmentの可能性を探ってみたい。社名である“Augment”は「増強・拡張」を意味する。これは生成AIツールが人間の仕事を奪うものではなく、人間の能力を大きく拡張するものであるという意図がうかがえる。
Augmentの製品担当副社長、Dion Almaer氏は生成AIについて以下のように述べている。
生成AIツールが開発者を補完することで最高のソフトウェアは生まれます。生成AIツールは人間を置き換えるものではありません。
生成AIは、進捗を遅らせる労働集約的な労力を排除しつつ、コーディングの楽しさに集中できるように開発者を支援できるのです。
このビジョンを実現するために、生成AIはコードベースを専門的に理解し、思考の速度で動作し、個人ではなくチームをサポートし、知的財産を慎重に保護する必要があります。
Augmentがこの新しい体験を提供し、ソフトウェア開発に革命を起こす準備が整っていると確信しています。
参考:Augment ブログ
生成AIツールの未来を阻む意外な伏兵
近年、生成AI市場は大きな盛りあがりを見せているが、著名なAI企業が多額の損失を出しているという報告がある。その要因として、LLM(Large Language Model:大規模言語モデル)のトレーニングと運用に多大なコストがかかることが考えられる。生成AIの中核たるLLMは、扱うパラメーター数がある閾値を超えると、突然、性能が飛躍的にあがる「量が質に転嫁する」性質を持つ。
つまり性能の高いLLMのトレーニングと運用には、膨大なパラメーターを処理可能な、莫大なコンピューティングパワーが必要だ。
世界的に生成AIの開発競争と普及が進む中で、膨大な数を必要とすることもあって、このパワーを提供可能なNVIDIAのGPUは、高価であるにも関わらず需要が爆発している。
ゴールドラッシュでは、金鉱夫よりも宿屋やジーンズ、シャベルを売った者が儲かったという。いま、起きていることは、シャベルであるGPUや宿屋たるGPUデータセンターの宿賃が高価すぎて、下手をすれば退場を迫られることだ。
GPUも「18か月で性能が2倍になりコストが低下するムーアの法則」に従うだろうから、その間を調達資金でしのぐ危うい綱渡りが可能かもしれない。
しかしこの問題の根っこをのぞけば、Augmentはその使命を果たし、人間の創造性の発揮を最大限に支援可能な革命を起こせるかどうかが問われている。それによって妥当な収益を得ることができるかどうか、ビジネスモデルが成立可能かどうかが問われているのだ。
参考・引用元:Augment
文・五条むい
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