そんな中、持続可能なプラスチックの梱包材の市場も伸びる見込みだ。同市場は2023年に約1073億ドルだったが、2028年には1666億ドルに達すると予想されている。この間の年平均成長率は9.4%にのぼる。
一方で、まったく違うアプローチでこの問題に取り組むスタートアップがRAIKUだ。エストニアで2021年に設立された同社は、プラスチック包装に代わる“100%自然に還せる(堆肥化可能な)梱包材”を開発している。
持続可能性と実用性を兼ね備えた梱包材
RAIKUは、Karl J Pärtel氏とRain Randsberg氏によって設立されたクリーンテック企業。Karl氏は、環境分野のスタートアップを支援する投資ファンドLittle Green Fundや、キノコの菌糸体を使った(100%自然に還せる)素材を開発する企業MYCEENも立ち上げた経歴の持ち主だ。サステナビリティとクリーンテックに注力してきた同氏をはじめ、約20人の専門家が在籍するRAIKUでは梱包材、具体的には緩衝材を提供している。現在、主に2種類の製品を展開中だ。
1つ目は「Wrap」で、こわれものを包むのに使う。バブルラップ(いわゆる「プチプチ」)などの代わりに使えるとしている。
2つ目は「Springs」で、その名のとおりバネのような形状の緩衝材だ。商品を箱に入れた際の隙間を埋めるのに適しているという。両方とも、天然の木材だけを素材として使っているため、100%土に還せる。
また、従来の梱包材と比べても環境負荷も小さい。紙やボール紙と比較すると、製造に必要な木材は10分の1、水は3000分の1、エネルギーは50分の1で済む。従来は約50種類も使用する化学物質もゼロだ。
RAIKUの製品は環境に優しいだけでなく、実用性も兼ね備える。同社の梱包材を商品の配送に使った化粧品会社のTilk!社は、破損がゼロだったと述べている。特筆すべきは、ブラックフライデーという出荷が大幅に増える時期に破損ゼロを達成したことだ。
以前よりTilk!社は梱包材にリサイクルのボール紙を使用するといった、サステナブルな取り組みを行っていた。しかし、同社を設立したPille Lengi氏によると、商品を保護するのに十分ではないと感じるケースもあったという。それがRAIKUの梱包材により、環境に配慮しつつ、商品をしっかり保護できるようになったのだ。Tilk!社にとって、まさに理想的なソリューションだったと言えるだろう。
エストニア、フランス、そしてEUも注目
RAIKUの梱包材に魅力を感じたのは、Tilk!社だけではない。2023年9月、RAIKUは高級品パッケージの展示会「LUXE PACK」に出展し、持続可能なパッケージを表彰する“グリーンパッケージ大賞”に輝いた。同賞の選考に関わったのは、世界に名だたる高級品ブランドのマネージャーたちだった。この展示会がフランスで開催されていたことが、RAIKUが飛躍するきっかけのひとつになった。というのも、フランスは化粧品および高級品市場において世界シェアの25%を占める上、消費者の半数は環境に優しい包装に喜んでお金を出すからだ。実際、この展示会後にRAIKUの受注は跳ね上がったという。
さらに2023年11月、RAIKUの名前がEUに知れわたることとなる。欧州イノベーション評議会が同社の技術をヨーロッパの包装におけるCO2排出量削減の鍵になるものと認め、支援金を投じたのだ。
同評議会はEUが運営しており、イノベーション促進を目的に100億ユーロ規模の予算がついている。欧州イノベーション評議会の支援金、そして民間投資家との資金を合わせRAIKUの調達額は880万ユーロにのぼった。
エストニアからフランスへ、そしてヨーロッパへと飛躍を続けてきたRAIKU。今後に注目したい。
参考・引用元:
RAIKU
UNEP
The Business Research Company
LUXE PACK
欧州イノベーション評議会
(文・里しんご)