インドネシアという国のそもそもの広さを考慮する必要もある。大小 1万7000もの島々から成るインドネシアの国土面積は、日本の約5倍に相当する190万平方キロメートル。
地方島嶼部から首都ジャカルタへの移住を考えている人が、住宅探しのためだけに一度ジャカルタへ行く……ということは容易ではない。そのような場合は当初からジャカルタ在住の親類か友人の家に一時滞在することもあるが、移住前から転居先を見つけられるに越したことはない。
同国のスタートアップRukitaは、まるでホテル予約サイトのような賃貸不動産契約プラットフォームを運営している。
ホテルを探す感覚で「家探し」
日本語で「アパート」と表現される物件はインドネシア語では「Kost」で、「マンション」が「Apartemen」と呼ばれる。この予備知識をふまえて本題に入ろう。Rukitaのサイトやアプリは、知らない人が見ればホテル予約サイトと間違えてしまいそうなデザイン。立地や家賃、KostかApartemenかなどの条件で検索できるだけでなく、Wi-Fiがあるか、浴槽は室内か共同か、駐車場や駐輪場はあるかといった情報がまさにホテル予約サイトのように表記されている。
ホテル予約サイトであればチェックインとチェックアウトの日付を入力するが、Rukitaの場合は入居日と契約期間。特に、契約期間は1ヵ月から「未定」まで、幅広い選択肢が用意されている。大学4年間を過ごす予定の学生や今後の定住を希望する地方出身者だけでなく、ビジネスの都合で数ヵ月だけジャカルタに滞在するという事情の人も想定しているのだろう。
洪水を避けられる手頃な物件探しの困難
インドネシア都市部、特にジャカルタでは「手頃な物件」を探すのが簡単ではない。設備がひととおり揃っていたとしても、地域によっては1月と2月に受難を迎えることがあるのだ。この時期は雨季にあたり、近年のジャカルタでは毎年のように洪水が発生している。「いかに洪水被害を軽減させるか」が、ジャカルタ州知事選挙の毎回の争点になっているほどだ。また、ジャカルタの治安は地域によって異なり、女性の独り暮らしには全く向かないエリアも存在する。それらを考慮しながら家探しをするのは、極めて煩雑な作業でもある。Rukitaのサイトでは、インドネシアでもよく見かける女性専用賃貸住宅の検索も可能だ。
建物の出入り口に監視カメラやオートロックなどのセキュリティ設備があるかどうかも重要なポイントである。もちろん、設備の整った物件であれば家賃も上がるが、ホテル予約サイトのような割引コードがある。巡り合わせが良ければ条件のいい部屋を格安で借りられることも。
物件オーナーに対する融資事業も
以上は物件を借りる側の店子向けサービスだが、Rukitaは物件を貸す側である大家向けのサービス「RuFinance」も展開している。OCBC銀行と連携した金融事業だ。このあたりも、近年のホテル予約サイトと似たような事業展開と言える。既存のホテルに対して改築費用を融資し、サイトの掲載基準に見合ったクオリティーの施設にするビジネス方式が存在するが、Rukitaの場合も「物件オーナーへのサポート」が質の良い物件を確保する近道だと考えているようだ。
なお、この金融事業はOJK(インドネシア金融庁)の認可を得ている。
日本のVCも投資、海を越えたシスターフッド
そんなRukitaは2024年3月、シリーズB1投資ラウンドで1500万ドルの資金を調達した。このラウンドには日本のベンチャーキャピタルMPower Partnersも参加している。Sabrina Soewatdy氏とSarah Soewatdy氏の姉妹が共同で設立したRukitaを、創業者3人とも女性であるMPower Partnersが支援した形だ。MPower PartnersのLinkedinでは、この投資を報告する投稿で「女性起業家とスタートアップのエコシステムを変える女性たちの支援に専念しています」と語っている。TNGrobalの記事によると、2019年創立のRukitaはわずか4年で140万の取り扱い物件数と月間300万のユニークユーザーを抱えるに至ったとのこと。今や、都市部への移住を考えるインドネシア国民にとって、Rukitaに表示される賃貸物件は有力な選択肢となったのだ。
大学生や地方からの出稼ぎ労働者など、都市部にはさまざまな背景を持つ人々が今も押し寄せている。彼らに安全な住宅を提供することは、結果として治安問題や公衆衛生・環境問題にもつながっていく。Rukitaは単に「ホテル予約サイトのようなプラットフォーム」ではなく、大都市ならではの問題解消に光を当てるサービスとして国際的にも注目されているのだ。
参照:
Rukita
TNGrobal
PR TIMES
(文・澤田 真一)